ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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6レ前:力が欲しいか、少年

「力が欲しいか、少年」

 

 クシーさんとの実験で精神力を使い果たして、ユニット部室でぐったりしている僕にそう語りかけてきたのは佐倉さんだった。

 

「いや、なんです唐突に」

「私には、悩んでいるように見える。ただそれだけ」

「悩みはしますけどね。やっぱり僕も近接戦闘もできた方がいいんじゃないかなぁって」

「贅沢」

 

 いや、自分から話を振っておいてその反応はおかしいでしょ。

 でも、確かにこうしてきちんとトレイナーとしてやっていけているだけでだいぶ恵まれている環境にいるというのは事実だけどね。そもそも、トレイナーズスクールを修了してもトレイニングできるノリモンを見つけられなくてそのままJRNからリタイア……なんて人も数分の1程度にはいる。しかもトレイナーズスクールはスクールとは銘打っているものの法律的には学校教育ではないから、かれらの最終学歴は義務教育ということになる。

 

「でも、貪欲なのは悪くない」

「そうですかね?」

「『欲しい!』という想い、それは成長の原動力。欲さぬものに成長は訪れない」

 

 彼女はそう言うと1枚のチッキを机の上に置いた。ナリタスカイ号。それがきっと彼女のトレイニングする相手で、そしてこれがそのチッキなのだろう。

 

「一番最初にトレイニングしたノリモン……これを私達はキールって呼んでる。私はスカイさん、君はクシーさん」

「それはトレイナーズスクールで習いました。トレイナー固有のチッキになって、仮にそのノリモンが消滅しても残り続けると」

「その通り。じゃあ私が言いたいことはわかるね?」

 

 すると佐倉さんは数枚のチッキの束を、ナリタスカイと書かれたものの横に置いた。

 言わんとすることはわかる。それは僕にはまだ時期尚早と判断された、早乙女さんの十八番。

 

「トランジットトレイニング」

「正解。トレイナーの体の一部分――具体的には、オモテ、スター、ポート、トモのいずれかだけ、別のノリモンの力を借りる」

「でも、僕にはまだ早くないですか」

 

 基本的にトランジットトレイニングは、キールとのトレイニングに十分慣れてから行うものだと教わっている。いくら抱えている大きな問題を発展的に解消できる手段であるとはいえ、まだ最初のトレイニングから半年も経っていない僕がやるものではない。

 

「確かに、今の君はまだやるべきじゃない。でも、君とクシーさんとのファーストコンタクトはいつ?」

「2年半くらい前ですね」

「スクールを出たのは1年前で……あれ、スクールにいる間に会ってる?」

「自分でも幸運だったと思ってます」

「うん、とても幸運。だって、キールにしてくれる相性のいい子を探すのが一番大変。中には年単位で見つからない人だっている。そしてね、キールよりは楽だけど、もちろんトランジットトレイニングするノリモンでも同じ」

 

 トランジットトレイニングができる程に慣れてから探したんじゃ見つかるまでにとても時間を取られる。彼女は続けてそういう事情を教えてくれた。

 なら、先行してトレイニングできるノリモンを探し始めた方がいい、のか?

 僕には特にトランジットトレイニングを急ぐべき事由があるのだから。

 

「……前から思ってたんですけど、相性のいいノリモンを探すのって何かいい方法あるんですかね?」

「むかしリーダーは地元で新しい車両がデビューする度に、片っ端からアプローチかけてたって」

 

 ひでえ。

 たしかにそれで見つからなかったら絶対に無いと言えるけど、あまり参考になるものじゃない。逆に言えば、そんなことをしなきゃあの数のトランジットにならないんだな……。

 そしてそんな例が出されるってことは、やっぱり他の有力な手段はまだ見つかってないってことなんだろうな。よくよく考えたら、そもそもそんな手段があったら、キールすら見つからずにトレイナー引退とかいう不効率はとっくに改善されていそうな気もする。

 

「……ノリモンの方からは、そのトレイナーとトレイニングできるかが直感的にわかるけど」

「ノリモンからだけ?」

「クシーさんとどうだった?」

 

 思い出してみれば、僕がクシーさんと初めて会ったときは、クシーさんの方から接触があって、それで将来的にはトレイニングしようって話の流れだった。その時僕からは……。

 

「不思議な方だな、とは思ったけど、それ以外は特に」

「でしょ? だから面倒」

 

 うーむ。まぁ、一応僕の場合は再開さえしてしまえば多くのノリモンと接触できる購買部の所属だ。そこで運命的な出会いが……いや、ないな。というか、ちょっと待て。

 

「そもそも、どうしてノリモンはトレイナーに力を貸してくれるんだ……?」

「いい視点だね、少年。我々サイクロの間では、進化的利己主義に基づく利己的な模倣子により、ノリモンは現在または将来の他の存在に自らのメンタルモデルを伝播させることを望んでいる、という見方が主流」

 

 彼女は得意げに答えた。

 その一方で、僕はその言葉の意味をいまいち理解できなかった。

 そして部室の時は止まった。

 

「ごめん、何言ってるのか全然わからない」

「簡単に言えば、ノリモンは他の存在に自分の痕跡を遺すのが本能。だから、トレイナーに力を貸すことにも快感を覚える」

 

 そうなのか。

 でも、クシーさんとかトレイニングできるトレイナーでも断ってたって聞いてるけど……。

 そう思いついた身近な反例を口に出そうとした瞬間、想定済みとでも言いたげな顔をして、佐倉さんは言葉を続ける。

 

「逆に無闇矢鱈にトレイニングをしたがらないノリモンもいる。ロケットに多いけど、そうすると自らの希少性を高めて伝播を確実にできるって戦略だと考えられてる」

「そこまで考えてるの……?」

「気づいてないと思う、本能に動かされてることにすら」

 

 なるほど?

 わかるような、わからないような。

 たぶんこれ以上聞いても心理学とかその辺の難しい何かが出てくるだけだろうから、深くは聞いてもあまり意味はなさそうだけど、少なくともノリモンは基本的にトレイニングをしたいというのはどうも学術的には事実のようだ。

 

「興味あるなら、サイクロにおいで。インターンは基本的に歓迎」

「まぁ、考えておきます」

「ロケットはみんなそう言う」

 

 そんな事をいわれても。

 まだ慣れないことだらけで、ユニットとベーテクそんのところのインターンとは別にさらに同時に新しいことを始められるほどの余裕はたぶん今の僕にはないし……。

 

 そう伝えようとしたその時。部室のドアが乱暴に開けられて、4つの目は否応なくそちらへと向けられることになったのだった。

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