「待機の件、拝承」
JRNに戻り、本部に報告をしに行って……そして、たまたまトシマさんの予定が入ってない時間があるとのことで10分ほど待ってから直接の報告をすることになった。
僕達ウルサはまだいいけれど、中で大変なことになっていたカリーナのメンバーはかなり帰りたそうにしている。というかエクレウスがまだ戻ってきてないのだからそっちが帰ってきてからまとめて対応したほうがいいと思うんだけど、それよりも早めに話を聞いておきたいってことだろうか。
「俺達要るのか? ラチ外で待ってただけだからスタァインザラブなる者のことは全くわからねぇのに」
「山根と私はたぶんアレを聞かれる。北澤も止めたことについて聞かれるかもしれない」
「……俺は?」
「たぶんいらない」
「おい」
まぁ確かに成岩さんに聞かなきゃわからないことってこの件では無いよなぁ。
そう考えながらぼーっと2人の賑やかな言い合いを眺めていると、トントンと後ろから肩を叩かれる。
「少し、いいっすか」
「何です?」
「いや、ちょっとした確認っすよ。【キラメキヒロバ】の山根トレイナー」
そういやこの人そういう人だったよ!
名松はスクールの時からレース好きを公言していたし、同じ趣味の人達で集まって話をしているのをよく見かけていた。当時はここまで関わるとも思ってなかったから僕はそこには入ってはいかなかったけど。
でも流石にこのタイミングでは……。そう思って後ろを振り返ると、彼の肩は強張りちらかしていた。
「……別にいいですけど」
きっと名松は、その緊張を散らしたいんだ。それでこの話をしようとしてきたのだろう。彼にかかっている緊張は、僕の比ではないはずだから。
ならば引き受けた方がいい。そう考えを変えた。
「やっぱりそうだったんすね。トランジットをしたとき聞き覚えのある名前が聞こえたっすから」
「あれ、SNSの投稿を見たわけではなく?」
「SNSやってるんすか?」
むしろまだSNSでしか【キラメキヒロバ】の名前は出してなかったような。そう思って聞いてみれば、名松のキールから存在を聞いただけだそうで。つまり、彼のキールのノリモンもまた、レース好きか、あるいはレースに関わりがあるのだろう。
「これ終わったら調べてみるっすよ」
「別に調べなくてもいいですが」
「個人的な興味のほか、
……ん? こっちのチーム?
つまりこの人、好きが通じてどこかのチームに入っているってことか。とすると、キールのノリモンがランナーなのかもしれない。
そう1人で納得していると、名松は水色のカードを取り出して、僕に見せてきた。
「一応、彼がキールなんすよね」
……そう、チッキだ。
そして、そこに記されていた名前は確かに見覚えのあるものだった。
「ネオトウカイザー……あっ、この前の……【
「そゆことっす。こっちでも、これからよろしく頼むっすよ」
名松はにやけながらそう言った。
「こちらこそよろしく。ポラリスは……疾いですよ」
「なに、カイザーの方が疾いっす。この前は決着がつかなかった分、カイザーは年末に決着がつくのを楽しみにしてるってこと、彼女につたえてほしいっすね」
「わかった、頼まれましたよ」
そしてちょうどその時、トシマさんが到着して、僕達はそれぞれのユニットへと戻った。
「計画を早めなければならなくなった」
カリーナとウルサの両ユニットからの報告を受けたトシマは、頭を抱えながらそう溢した。
彼女のもつペンの先には、数枚の紙束のうちの1枚に何らかの抽象的な図表が記されて、そしてペン先はそれを何度も何度もなぞっている。
「この前の発生報告を見るに、彼女らはリロンチを知っていると見受けられる。その上で、それをさらなる高みへと運ぼうとしているのだろう」
クィムガンへと変わり果てれば、そのノリモンの自意識は混濁し、そしてやがては消失する。リロンチは、その自我を回復させる貴重な手段の1つだ。
ではなぜ、そのようなものが広く知れ渡り、実用化されていないのか? それは、
「リロンチはノリモンにとって夢のような現象だ。だが……確実に、今の社会のあり方に影響を及ぼす。好転シナリオならば影響は軽微だが、
悪化シナリオともなれば……間違いなく、ノリモンの自由は大きく制限される。あるいは、人間によりノリモンそのものの存在自体が迫害されうる可能性とて否定できない。リロンチとは、それほどに大きな危険性を孕んだ事象なのだ。
そもそも現状のようにノリモンが容易に社会に受け入れられ、そして溶け込んでいるような日常。これはとても強固なものに見えてその実非常に脆い。それはまるで、最強の硬度を誇る金剛石が割れるかの如く。
当たり前である。ノリモンは人間以上の物理的な力を有するのだから。それは容易に恐怖心を煽りうるには十分すぎる理由だ。そしてその恐怖心が強まれば、
「だが。ラッチを超越する術を確立しているともとれる言動。何より我々が容易に認知しうるほどに動き出したということ自体がもはや残された時間の多くないことの証左やもしれぬ」
ラッチとは結界であり、牢獄である。これでクィムガンを一方的に閉じ込めて被害を低減させ、そしてそれを人間であるトレイナーが対応する。このスキームは人間にノリモンへの恐怖心を抱かせぬようにするには都合がよい。
だが、ラッチから自力で脱出ができてしまったら? ラッチの意味は無となり、恐怖心が滲み出すきっかけとなるだろう。
「前倒しせねばなるまい。プロジェクト・ココマを」