ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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16レ後:屠殺

 川崎街道を西に向かって歩く中、ゴータデルビエントは程久保是政に問いかけた。かのトレイナーは何者なのかと。

 

「山根は山根。この程久保の同期にして親友さ」

「そうは言っても、トレイニングしていたようにも見えない。明らかに尋常人間ではないだろう」

 

 ビエントはあのわずか4km強のランを思い出しながら言った。

 ビエントの出していた速度は、人間だとしたら速すぎる速度だ。それなのに山根真也はビエントに普通にピタリとつけていたどころか、追い抜きをかけようとすらしていたのだ。それは、その速度よりももっと上の速度を出しうることを意味する。

 

「そこがわからないからこそ、君に手伝ってもらった。そして、確証を得た」

「確証とは」

「彼は()()()()()()()に近づいている、とね」

 

 ビエントは言葉を返せなかった。意識していなかった部分を、横から殴られたような感覚に襲われたからだ。

 

「君から1つ、聞かせてほしいことがある」

「何だ?」

「イエウマとして生を受け、そしてノリモンに成った君から見て、ヒトとは何だい?」

 

 これまた答えにくい質問だ。ビエントは率直にそう感じた。そして少し考えてから、歩きながら出来るほどに考えをまとめるのを諦めた。

 

「できれば落ち着いて話がしたい」

「そうだね、晩ごはんにでもしようか」

 

 ふたりはそのまま川崎街道を進み、聖蹟桜ヶ丘の焼肉店に入った。

 机上の肉焼き器を挟んで座り、タブレットから注文をいくつか入れて落ち着いてから、ビエントはタイミングを見計らって言葉を発した。

 

「……吾の個としての考えにはなるが」

「構わない。みんなにも聞いているからね」

「人間は、常に旅をしたがっている。安住の地を有し、そこでの安全を補償されていようが、その外へと飛び出そうとする」

「まぁ、そうしてヒトは生存競争に勝ってきた訳だからね、本能的なものだろうよ」

 

 ヒトは単一種族として初めて、世界中に分布生息するようになった大型の陸上生物であると言われている。その原動力に、この移動欲求が関与していたという学説も存在している。

 

「なぜ人間がそんなことをするのか、吾もかつては理解できなかった。だが、この姿に成ってから、なんとなく分かる気がしてきた」

「それは興味深いね」

「そうだろうか? JRNに多くいる機械だったノリモンだって立ち居振る舞いが生物に近づいているだろう」

「君はもとから動物じゃないか」

「だからこそ人間に近づいているのだよ」

 

 店員により注文品が届けられ、器具に火がつけられる。あたたかな上昇気流が、ふたりの間を上っていく。

 

「ならばヒトがノリモンに成るというのは、如何なる意味をもつのだろうか?」

「分からない。ただ、そのプロセスにおいて、吾から確認せねばなるまい。ノリモンの成るプロセスをだ」

「愚問だね、乗り物が解体される時だろう? スクールでもきちんと習っているよ」

「吾のような生物の場合は?」

 

 ビエントは赤々とした肉片を網の上に並べながらそう問いかけた。

 肉汁が沸き、弾ける心地のいい音が鳴り始めている。

 

「それも同じく、解体さ、れ……?」

 

 程久保はその最中、違和感に気がついた。機械ならば解体されることは分かる。だが、生物にとって解体とは? 多くの生物に起源するノリモンと会話を交えてきた程久保であったが、その点は頭からすっぽりと抜け落ちていた。故に彼は、その詳細をまだ知らないのだ。

 溶け落ちた油に励起された炎が、肉を包んだ。

 知り得ぬものは、想像し補完するより他ないのだ。

 

「炎……火葬されて灰となるのは、解体と言えるんじゃないかな」

「確かにそれも解体と言えるだろう。だが、それでは成ることはない。()()()()()()()()()()()()()

 

 そう答えながら、肉をタレにつけて口に運ぶビエント。「食べないのか?」と促さすような目線に、慌てて程久保も続いた。

 

「つまり意識があるうちに解体されねばならないと?」

「死後半日も経てば、肉体と魂は切り離されて解体は意味を為さなくなる。そうでなければ、もっと多くのノリモンが生物から成っているだろう」

「……たが、どうやって」

「そうだね……。ヒントは意外と近くに転がっているものだよ」

 

 そう言いながら、ビエントは再び肉片を網の上に移した。熱にあてられた肉片が、蛋白が縮むのに伴って踊るように動いている。

 

「……まさか」

「吾からも聞かせてもらおう。仮に彼がノリモンに成れるとして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……っ!」

 

 程久保は言葉に詰まった。そして、その問いかけからして()()()()()()()()()()()()()()()と、押し付けられたことを悟った。

 

「焦げるぞ」

「君はこの話の流れでよく焼肉を食べられるね?」

「誘ったのは是政だろう? 食べないなら吾が戴こう」

「誰も食べないとは言ってないよ」

 

 肉焼き器から焼肉を取りながら、程久保は次の言葉を練りだしていた。

 

「正直、まだわからない。でも仮に、仮にの話だよ」

 

 タレにつけられた肉が、ご飯の上に乗せられる。

 

「山根君にきちんとこの話をして、そして彼がそれを望むならば、この程久保がそれをするという選択肢を排除せずに検討する」

「……ふぅん」

「でも、その話をするのは今じゃないね。まだ彼の力は、ヒトのままでも伸びしろが多いにあるように見えた。それが満たされるまでは、彼に()()()()()()()()()()()()()必要はないだろうからね」

 

 そう言って、程久保は肉でご飯を巻くようにして口に入れた。

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