ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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17レ前:新開地→北鈴蘭台・鵯越ヒルクライム

 兵庫県神戸市北区有馬町、有馬線有馬温泉駅。

 特別にユニットの活動のお休みをもらって関西に来て、新神戸の駅でポラリスと別れて辿り着いたこの駅は、湯煙とはまた違う熱を確かに孕んでいた。

 

 今日はポラリスのプロとしてのデビューランの日。しかも先月のメガループで強いランを魅せていること、そしてこの鵯越ヒルクライムが()西()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()こと――事実1マイル、ひとりあたりの脱線発生率は世界の中でもトップクラスなのだとか――など、様々な要因がこの熱気を作り上げているのだ。

 

『ポラリス、今大丈夫?』

『うん! 有馬温泉で待っててね、一番にたどり着くから!』

 

 向こうもどうやら新開地でのエントリーが終わったらしく、これから入場というところらしい。

 端末を開き、グループチャットを確認する。今日のポラリスに渡してあるランカーブは、北鈴蘭台から箕谷までの急な下り勾配での加速を織り込んだ上でその箕谷の谷底にある急カーブを通過できるギリギリまで速度を上げ、その後はスタミナが切れるまでの全力の加速をしてから残りをノッチオフで流す、というものだ。なので僕の役割はそのカーブを曲がれないような速度になるまでポラリスが加速したらそれをやめさせるよう呼びかけること、そして前回みたいにメカニカルトラブルが発生したらその対応策を考えること、それだけである。

 

『待ってるから、頑張ってね』

 

 ポラリスにそう告げて、僕は端末の表示をインターネットライブ配信に切り替えた。

 

『さぁ入線が始まっております、鵯越ヒルクライム! 最も注目を集めているのは彼女、ポーラーエクリプス号でしょう』

 

 ドンとワイプでポラリスが抜かれている。そしてカメラに気がついたのか、手でサインを作りながらアピールをした。うん、引きで見ても調子は良さそうだ。

 ポラリスは1番線4号車3扉……つまり、進行方向に向かって右側の線路の一番前に入線した。ベストはその左側だけど、今回のポラリスの作戦ならばこっちでもあまり問題はない。

 

 そして。

 

『スタート。全者順調な滑り出しです』

 

 ポラリスはスタートと共に青い光に包まれて猛加速した。成岩さん仕込みの開幕《ハイブリッド・アクセラレーション》だ。

 

『最初に飛び出したのはポーラーエクリプス、上り線を独走し湊川に差し掛かる。そしてここから有馬線、試練の坂が待ち受ける! 高低差1100フィートの坂!』

 

 今、実況の方が話した通り、このコースの最大の試練とも言える巨大な坂は、スタート直後に訪れる。

 そもそも鵯越ヒルクライムのコースは、スタートとゴールの標高差が1230フィートもある。これは全てが一様な上り勾配だったとしてさえも17パーミルの、決して緩いとはいえない登り坂だ。だが実際はそんな単調な坂ではなく、まず序盤の湊川から北鈴蘭台までのコース全体の4割強の区間に連続して高低差1140フィート、ここだけで平均しても37パーミルの急坂が待ち構えているのである。

 これがどれほどの坂かといえば、まず回生ブレーキが使えるせいでバッテリー量が低く設定されている電気車の場合、下手にフルノッチを入れてしまえばなんと登り切るまでスタミナがもたない。そうでない車でもフューエル量はかなり限界になる。つまり最序盤からド根性勝負を要求されるのがこの鵯越ヒルクライムなのである。

 その急坂をポラリスは車輪を回し、線路を踏みしめてぐんぐんと登ってゆく。

 

『一旦坂を登って、鈴蘭台への先行争いはデビューランポーラーエクリプスが先導、後からヘミストレージG(グループ)2への昇格がかかっている、マルーンアイボリー2番手に並びかけようとしているが前とはちょっと差があいて追走』

 

 2チェーン、3チェーン。後続との間を少しずつ引き離しながら、ポラリスは丸山を抜けた。この線区に蔓延る50パーミルの勾配もものともせずに、まだまだ速度を上げている。ブライトさんがちょくちょく高尾山に彼女を連れていっていたのは聞いていたけれど、どうやらそれが相当役に立っているようだった。

 

『ポラリス、箕谷』

『へーきへーき!』

 

 念のため確認をいれておく。こうしておかないと忘れられる可能性だってあるから。

 そしてポラリスは鵯越を通過し、鈴蘭台に向かって山をかき分けて登っていく。人家はなく、森の中をひたすら進む。菊水山駅跡、そして鈴蘭台でも同じように彼女へと確認を入れれば、また同じような答えが戻ってくる。一応彼女のことは信用しているけれど、傍から見たら本当に大丈夫なのか怪しい速度だ。

 鈴蘭台でポラリスはようやく左側の線路に移ると、北鈴蘭台へと向けた最後のアタックを開始した。

 

『鈴蘭台を抜けて、先頭は変わらずポーラーエクリプス、後続はもう30チェーンも突き放したひとり旅だ! どこまで行ってしまうのか?』

 

 実況が興奮している様子が聞こえる。まもなく北鈴蘭台、このコースの1つ目のピーク地点だ。

 ここまで過酷な登り坂の続いたこのコース。しかしこれは、まだ序章に過ぎないのだとブライトさんは言っていた。

 さらにもう1つ――真に恐ろしいのは、この後にあるのだとも。

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