ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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17レ中:北鈴蘭台→有馬温泉・箕谷を越えて

 有馬線は北鈴蘭台を過ぎると、これまでの登り坂から一転して急な下り坂に変わる。

 下り坂というのは、想像以上に走りにくいものだ。事実、多くの鉄道では上り勾配に対する速度制限はかけられずとも、下り勾配にはそういったものがかかっている場合が多い。それは上り坂と比べて下り坂の方が危険だということの証左でもある。

 では、下り坂の何が危険なのか? スタミナを使わずに加速できる便利な地形ではないのか? 答えは否だ。下り坂は加速()()()地形ではない。加速()()地形なのだから。それがたとえ、()()()()()()()()()()()()

 

『ポーラーエクリプスは北鈴蘭台を通過、ペースが速いが大丈夫か?』

 

 そして加速してしまうということは、カーブを曲がりにくくなることに直結する。いやらしいことに、この先の区間には小さなS字カーブが連続する。50パーミルの下り勾配の中で!

 

『先頭まもなく山の街、曲がれるのか? 曲がれないのか!? 曲がってくれ! 曲がれぇ!』

 

 暴走する実況をよそに、ポラリスは体を左に傾けながら難なく山の街を通過し、次の右カーブに向けて体の向きを変えた。最早足元を動かしている余裕もないのか、確りと両の鉄輪が線路を掴んでいる。そしてその間にも下り坂はポラリスに破滅的な増速を強要しているのだ。

 

『ポラリス、危ないと思ったら遠慮なくブレーキをかけて!』

『ううん、いらないよ! 見ててね真也!』

 

 そう伝えてくる、画面の奥のポラリスは……ぶれていて分かりにくいけれど、確かに笑っている。そしてその楽しげな感情が、モヤイを通してまた伝わってもきている。

 そっか。ならば信じよう、ポラリスを。

 

『曲がったあぁぁ! だがしかし、下り坂、カーブは続く、どこまで行けるのか、行ってしまうのか! そしてここで後続も山の街に到達、飛び出しそうになりながらも耐え忍んで前へと進んでいるがシーズンアロー、マルーンアイボリー、そしてヘミストレおぉっと大丈夫か!? ヘミストレージ立て直した、しかし前との差は広がっている!』

 

 だけど、画面に映るランナーたちは明らかに速度はポラリスほどは出ていない。しかも、既に限界の速度に近づいているのだろうか、下り坂で速度を上がらない。おそらくは抑速ブレーキをかけているのだろう。

 そして次に画面がポラリスに切り替わった時には、彼女はスキージャンプのような過度な前傾姿勢をとってボブスレーめいた低重心を実現させていた。それはだらしのない体型のものが真似をすれば、ポイントや地上子でお腹の肉がユッケになってもおかしくないようなものだ。

 

『さぁ先頭ポーラーエクリプスは箕谷を過ぎてなお、勢いは衰えないどころか後ろをぐんぐんと突き放している! これは強いぞポーラーエクリプス、圧倒的なコーナリングで400フィートの坂をまもなく下りきらんとしている!』

「うわ、本当に抜けちゃったよ……」

 

 そもそも僕はあんな姿勢でコーナーを曲がることを教えてすらいないんだけど、誰が教えたんだアレ……。あの姿勢じゃ足元を動かせないから普通に走る分にはメリットはあまりないけれど、確かにコーナーを攻めるには効果的だ。

 そして姿勢を元に戻し、谷底からはまたしても50パーミルの登り坂が待ち受けている。ポラリスはそこをまた再び大きく足を動かして進んでゆく。

 

『さて後続もつづら折りのコーナーを抜け、まもなく箕谷に到達。2番手マルーンアイボリーはポーラーエクリプスのおよそ60、70チェーンほど後ろだが懸命に走ってああっと! シーズンアロー、シーズンアロー転倒、右前のマルーンアイボリーも巻き込まれてコースアウト! 大丈夫か? その後ろヘミストレージは軌道に留まってその先へと走り抜けてゆく』

 

 箕谷では、姿勢を崩してしまったのかクラッシュが発生してしまっている。忘れてはいけないが、これが本来の有馬線の恐ろしさなのだ。そしてしばらくカメラはこの箕谷近辺を移し続け、この後ろでももう1件の脱線が発生していた。あまり動揺させてはいけないので、脱線の発生はポラリスには伝えず、ただ後ろがだいぶ離れていることだけを伝えておく。

 そして次にカメラがポラリスに戻った時には、彼女は2度目のピークである大池を過ぎていた。もうスタミナもほぼ尽きてはいるが、あとは有馬口に向かって坂を下り、そして最後の有馬温泉へと登りながら減速するだけだから問題はないだろう。

 それから配信を閉じて、ポラリスを迎えるために有馬温泉駅のホームに入ると、既に情報が入っているのか観衆のボルテージは上がりに上がっていて。まもなく、ポラリスが全てのブレーキをフルでかけながら入線してきたのだった。

 

「停止位置、よし!」

『先頭ポーラーエクリプス、強いランだ! 後続を1マイル半以上突き放して今ゴールイン! 2番手ヘミストレージはまだ有馬口にすら立てていない、圧倒的な走りでした! これからが今から楽しみです』

 

 騒がしい歓声の中、僅かに誰かが実況を流しているのが聞こえる。僕はホームに上がろうとするポラリスに手を伸ばして彼女を引き上げた。

 

「お疲れ、ポラリス」

「うん! ポラリスが、いっちばん!」

「ほら、見てくれたみんなにも」

 

 そして後ろに回ってポラリスを抱き上げて、観衆の方へと向ける。ポラリスは一瞬だけきょとんとしたあと、斜め上に向かって勢いよくサムズアップをして、また観衆を沸かせたのだった。

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