「さて、ユニットも全員揃ったみたいだし、演習をはじめようか」
クシーさんは僕達五人を前にして、半透明状で部分により色の異なるシールドと呼ばれる球殻状の板を展開しながらそう言った。
演習のルールはシールド戦。これは制限時間内に防衛側と共に移動するシールドを割りきれば勝利となるルールだ。ただし、シールドはそれぞれの部位の色毎に割ることのできる人が決まっていて、僕の担当は黄色いそれだ。また、防御側はシールドの色の分布を自由に動かすことができるので、攻撃側は割ることのできるシールドが露出しているところを狙わなくてはならない。
そして、シールド上で各色が占める割合は、各色毎の残りの耐久値に比例する。つまり、攻撃を正しく当てれば当てるほど、その人は攻撃を当てるのがだんだん難しくなって、他の人は楽になる。
「制限時間はどうする?」
「10分だ、それ以上だと恐らく集中力が持たず無意味に体力を消費するだけになるだろうからな」
「セチ」
インカムから流れてくるクシーさんと早乙女さんとのやりとりを聞きながら、演習に備える。
足元の溝に靴の車輪を噛ませ、
「二十秒前」
ブレーキパッドの空圧を強め――圧力ヨシ。
「十秒前」
そして弱めて――緩解ヨシ、圧ゼロ。これで走り出す準備はすべて整った。
「開始」
「《ハイブリッド・アクセラレーション》」
スタートからほぼ間もおかずに、シールドから青い色が消える。それと同時に隣にいたはずの成岩さんの姿が消えて、どこにいるのかと探してみれば、既に彼はクシーさんを挟んで向こう側まで移動していた。
「成岩より各局へ、シールド強度、推定最弱、オーバー」
早い。速すぎる。
彼の所属する青――ノーヴルの派閥は、いかにスピードを出すかという点を重視しているとの話は聞いていた。だけれども、実際に目の前で起きていたであろうことは、完全に僕の想像を超えていた。
これに対して、僕やクシーさんの属する黄色――ロケットは安定した走りを重要なものとして考えている。だから、走りはじめてから時間が経つにつれて相対的に他と比べて優位に立つことができるが、走り出しでは他に、ましてやノーヴルになど絶対にかなわない。
これが意味することは何か? それは、この演習において、圧倒的にクシーさんの苦手とする短期決戦が有利だということだ。
だけれども。短期決戦が苦手なのはクシーさんだけに限らない。同じロケットの僕や、あるいはバランスの早乙女さんもその傾向がある。
幸いにも成岩さんの情報によれば、シールドの強度は最低だ。これは正しくシールドに攻撃さえ当ててしまえば、どれだけ出力の低いものであろうとその色の耐久値を削りきってしまうことができるということ。
ならば取るべき行動は、こうだ。
僕はまっすぐクシーさんとその方へと駆ける佐倉さんたちを常に真左に見るように走り出した。
視界の隅で、佐倉さんが双剣を振りかざし、北澤さんが舞うようにレイピアで突きを放つのが見える。
だがクシーさんも負けてはいない。二人の攻撃に赤色のシールドを前面に出して攻撃を弾くと、すかさず足を払うように回し蹴りを入れている。
だが、ここで赤のシールドを使ったのが仇となったようだ。横方向へと舞うように逃げた二人の奥から、早乙女さんが飛び出してそのシールドを割った。シールドは残り三色。
「山根、あれと似たような事をやってみな」
反対側から逆回りにやってきた成岩さんは、そう言って僕とクシーさんとの間に遮るように割り入ってきて僕と並走しはじめた。
「いきなり無茶なことを言わないで下さい」
「無茶じゃあねえよ。クシー号のスタイルは遠距離攻撃だ。奴とトレイニングしているってこたぁ、似たようなスタイルになる、違うか?」
俺はクシー号と何度か演習でやりあったことが何度かあるんだと成岩さんは続けて言う。
たしかに、トレイナーの能力やそのスキルは、トレイニングしたノリモンのそれに大きく依存するものであることは間違いない。だけれども、当然トレイナー自身の経験や能力に依存する面も決して無視できるほど小さいという訳もなく、たとえば反応の速さや遠距離攻撃の正確性などはそれが顕著な例だ。そしてその二つというのは、今まさに成岩さんが僕に求めている事だ。
「俺はそれができない奴にクシー号がトレイニングを許すとは到底思えないがな。それにこれは演習だ、失敗してもやり直すことができるんだから、とりあえず一回やってみな。外したら別のプランも組み立てっから」
これは確かに否定できない。
実際、全てのトレイナーが全てのノリモンとトレイニングができるという訳ではない。まずトレイナーとノリモンの相性の問題が先にあって、ここが悪かったらそもそもトレイニング自体ができない。それに、相性が噛み合ってもノリモンがトレイナーを認めてトレイニングに必要なチッキを出さなければこれもまたトレイニングは不可となる。
「やってみます」
「いい返事だ。あの二人は攻撃の前に一度飛び上がる。それが合図だ」
「合図も何も見えないんですけどね」
「その兆候があれば見えるようにするから、いつでも撃てるようにしときな」
右と左の掌を、少し離して向き合わせ、意識集中、力を溜める。
暫くすると、間に小さな桜色の光が宿る。そしてそれは渦巻きはじめ、周りからエネルギーを吸収しながらだんだんと、少しずつ少しずつ大きな円盤へと成長していく。
やがてその中央は球状にふくらんで、そのシルエットはまさに、銀河。
「来るぞ」
その声とともに、僕とクシーさんの間を遮る成岩さんの白衣が取り払われ、視界には今まさに仕掛けようと飛びかからんとする二人と、それを防がんと黄色のシールドを動かそうとするクシーさんが映る。
そして……クシーさんの向こう側の北澤さんと、目が合った、気がした。
「今だ、《桜銀河》ッ!」
円盤の真ん中の球を掴み、クシーさんに向ければ、桜色の光が射ち出される。
北澤さんと佐倉さんが、それぞれの得物を大きく振りかぶりながら飛び上がる。
そして。
二人の得物がまさに黄色のシールドに当たらんとした時。桜色の光が、《桜銀河》の煌めきが、その黄色のシールドを破壊し、二人の下を突き抜けた。残るシールドは二色!
そして消えた黄色の部位には、緑と紫が回ってくる。北澤さんのレイピアと、佐倉さんの片方の剣が同じ場所に叩き込まれ、シールドから緑が消える! そしてシールドは全てが紫になり、残る佐倉さんのもう片方の剣によりそれが切断されて、全てのシールドがなくなった。