「おーし! じゃ、やるぞー!」
「おかしいだろ! なんで君がここにいるのさ」
「それは俺ちゃんが綾部だからだ」
「答えになってない」
今日は土曜日。早乙女さんが別件で出張に出ているからいないけれど、一応はユニットでの活動のはずだ。
なのになんでこいつが集合場所にいるんだ。
「北澤さんからも何か言ってやって……」
このユニットにはもう1人、綾部を知る者がいる。僕は彼女にも意見を求めた。
しかし、返ってきたのは予想外の答え。
「いや、アタシが呼んだんだけど?」
「そうだぞ」
「なんで??」
主犯はそっちかい。ますます意味がわからない。
そもそもなんで綾部を呼ぼうと思ったのか。そこを聞いてみれば、綾部は何をしでかすかわからないのでクィムガンがわりのシミュレートにはもってこいなのではと思ったそうで。
「なるほど、確かに一理ある」
「えっそれで納得されるの俺ちゃん的にはなんか不本意」
綾部は半ば拗ねる素振りを一瞬だけ見せたが、少し経つともとのおどけた感じに戻った。
「なるほどな、そいつが前に言ってた同期か」
「面白い子」
「なんで2人は若干好意的なんですか」
「JRN入ってんだから無能ってことはねえだろ?」
まぁうん、無能か有能かで言えば間違いなく有能だと思う。スクールでの成績だって悪い科目が無いし、むしろトップ争いに参加しているのが綾部だ。それを打ち消すほどの支離滅裂な言動があるだけで。
「ま、そーゆー訳で委員長に」
「もう委員長じゃないって」
「……おっと、北澤の奴に呼ばれたって訳。つーことで、やるぞぉ! 俺ちゃんからの攻撃を全員が10分避けきれば勝ちだぜ! じゃ!」
そう言うと綾部は張ってあったラッチに入っていった。
……ってかいつの間にトレイニングできるようになったんだ。8月にはまだだって言ってたのに。
「楽しそうなやつだな」
「まぁ、一緒にいて退屈はしませんでしたけどね」
「だろうな」
そんな話をしながら、僕達は綾部を追うようにラチ内へと入場した。
するとどうだ。入場した途端に僕のシールドは割れて、トレイニングが解ける。
不意打ちか、置き攻撃か。おそらくそのどっちかだろう。
「入場直後はせこいんじゃない」
「あ? 油断するのが悪いんだろ、クィムガンは遠慮してくれねーぞ」
「まさかのド正論……」
たしかにそうなんだけど、そもそも入場位置をラチ内から事前に特定することは難しいと思う。たぶんクィムガンにはそれはできない。綾部にはそれができなくもなさそうだと納得できる判断材料はなぜか持ってしまっているのだが。
「じゃ、山根以外の3人も、俺ちゃんが相手だ!」
「こいつ1人で対等にやり合う気だ……」
その自信はどこから来るんだ。でもなんかできちゃいそうな気がするんだよなあ、綾部だし。そう思いながら、僕はスコープを覗いた。
そこに映っていたのは、車椅子に座りながら逆立ちでラチ内を駆ける綾部の姿だった。車椅子の意味が無いぞそれは。
「《アークティック・ホワイト》」
「ちょわっ! 置き攻撃はやめろって」
「スポーンキルした貴方には、言われたくない!」
そしてその奇行を止めんと佐倉さんがまず綾部を止めにかかった。
だけど。引きで見るとわかる。その白い軌跡は、増えていく傍らで何らかによって打ち消されている。恐らく綾部がやっていることだと思うけれど、その素振りは彼にはなく慌てているだけのようにも見える。
「今のうちに!」
「おう、――旋律響かせし紅き不死鳥よ、姿形変わりてなおその誇りを貫け! スカーレットゾーン号、今このオモテに宿れ!」
「自由を愛し斗う街を駆けるものよ、公に巡りて若き力に急行せよ! マチッコ号、今このポートに宿れ!」
矢継ぎ早に成岩さんと北澤さんがトランジットして、佐倉さんの援護に加わろうとする。だがしかし。
「佐倉、お前は一旦下がってろ」
「……? どうして」
「いやお前のシールド、だいぶ削れてるぞ」
佐倉さんのシールドは、いつの間にか瀕死の状況にまで陥っていた。
「……っ! いつの間に!」
「今更気づいても、もう遅いぜ! おりゃあ!」
綾部は真っ白に囲われた籠の中で、虚空に手刀を放った。
次の瞬間、佐倉さんのシールドは割れ、彼女のトレイニングが解ける。それと同時に、綾部の動きを制限していた軌跡は溶け落ちて、彼の動きはまた自由になった。
「不可視の遠隔攻撃か。厄介な」
「それはどうかな。俺ちゃんはこのパーラーカードを使っている! こいつの切れ味は剃刀のように鋭……」
「《安全鉄則 先ず止まれ》」
「うおい! 説明挟んでいる間に対処するんじゃねーよ!」
ガシリ。成岩さんの口に乗せられてウエポンを見せている間に、北澤さんが綾部を拘束した。だけど。
「まーいーぜ。俺ちゃんの動きを止めたところで、そっちも動けなくなってるんなら意味がないってもんだ!」
「何……? きゃっ!」
北澤さんのシールドはまた一瞬のうちに切り刻まれる。十数メートルほど離れたところにいるのに。
だけど。成岩さんが綾部の意識から外れるのにはその一瞬で十分だった。オオカリベを構え、いつの間にか死角へと成岩さんは移動していたのだ。