「《
「なんの、《ビジネスエコー》」
「な、フェイントだと!? ならばこの《ハイブリッド・アクセラレーション》は使えない……」
「そしてこのパーラーカードによりコンボは完成する!」
「仕方ない、ここで《絵(HAMELN)笛》を発動だ!」
「莫迦な、二刀流だと!? こいつ正気か?」
……なんだろう。このノーヴル同士の展開の早いやりとりは、インターンを経てもなんだか理解できる気がちっともしない。
とりあえず、何らかの凄いやりとりが成されていることはわかった。
「なるほどな、《絵(HAMELN)笛》のおかげでお前の攻撃は理解した」
「へぇ! なら止めてみりゃいーじゃん、ホラホラホラ!」
「ちぃっ、諦めてはくれねえか。ならしょうがない! 《蓬(IMMORTAL)莱》」
「だがダメージは受けてもらう!」
「効かないと言ってんだよ!」
「……ねぇ山根君、あの2人が何してるかわかる?」
「わからん」
「そっかぁ……」
いつの間にやら退避してきた北澤さんも同様に理解できていないらしい。
だいたい成岩さんも成岩さんで僕が初めて見るような技をしれっと連発しないでほしい。意味がわからないから。
「一回、私達は手札の確認をきちんとしたほうがいい」
よくこれで今まで僕たち大きな事故なくやって来れたな……。
そう考えているうちに、まもなく約束の10分が経とうとしていた。
「面白くなってきたな! 本気でいかせてもらおうじゃねーか。《ロールマーク》で運命を回すぜ!」
「よくわからんけど受けきってやる」
「当然、大当たりィ! 切れ味が更に鋭くなってリニューアルしたパーラーカードを喰らうがいい!」
……これ、戦況をややこしくしてる理由の大半は綾部の攻撃が遠隔なのに見えないせいじゃないだろうか。遠くから見ていてそんな気がした。そして、それを察知できている成岩さんは地味にすごいことをやっているんだということも。
だけど、どうやらそんな成岩さんも押されているようで。
「くっ、《蓬(IMMORTAL)莱》が持たねぇ」
「とどめだぁーっ!」
しかし、次の瞬間。
成岩さんのいたはずのところにあったのは、大きな松の盆栽が1つ。その枝に掛けられた笠からは掛け軸が転がり落ち、そこには4文字の漢字が書道されていた。
「《特別通過》。時間切れだ」
そして、持ち込んでいた時計がけたたましく鳴ったのだった。とりあえず、終わったということらしい。
「「「全然わからない……」」」
……頭の上に疑問符を浮かべる僕たち3人を置き去りにして。
それから出場して振り返りということになったのだが。
「その姿を見た時はギョッとしたが、それに見合う実力はあるみたいだな」
「ったりめーよ。俺ちゃんだって扱えねー力を扱おうとするほど莫迦じゃねーし」
「なるほどな……」
と、ノーヴルの2人で勝手に相互理解を深めて他を置き去りにする始末。あまりに話が進まないので、痺れを切らして佐倉さんが解説を要求した。
すると綾部はそれを拒否した――説明できるか怪しいのらしい――けれど、成岩さんが全てを教えてくれた。大方の予想通り綾部のキールの攻撃は不可視の刃を飛ばすもので、これを成岩さんは音波反射で場所を把握して避けたりあるいは迎撃していたりしていたのだとか。綾部が話の途中でもうんうんと頷いていたので、多分成岩さんの見立ては正しいのだろう。
そしてその解説が終わったあとで。成岩さんが、またとんでもない事を言い出した。
「なぁ、綾部と言ったか。お前さ、ウルサ・ユニットに興味はないか?」
「ん? どーゆーことだそれ」
「俺がウルサを去った後、後釜として入る気はないかと聞いているんだ。北澤や山根と知り合いなら、このユニットにもすぐに馴染めるだろうよ」
この場にいる全員の疑問符が重なった。
「成岩、やめるの」
「まだやめねえよ。だがな、近いうちにやめるかもしれねえんだ。俺のキールは今イギリスにいてな、時折お誘いがかかってくるんだよ」
「ちょっと待って、ポラリスはどうするんですか」
「確かにベーテクらが渡英した時は俺が残る必要もあったが、今はロイヤがいる。ベーテクとロイヤとで話も密にしてるらしいしな」
そうか。ロイヤさんは、ベーテクさんと同郷でポラリスの事情を知っているノリモンだ。ならば心配する必要も無いのか。
それに今のポラリスはレースを通じてだいぶ心の拠り所を増やしてきている。そうなると、必ずしも成岩さんが傍にいる必要はなくて、それよりも研究の都合で渡英する方がメリットとなるかもしれないということなのだろう。
だがしかし、そのあまりにも突拍子も無い話に、僕達はどう反応すればわからなかった。多分早乙女さんとは話はしていたのだろうが、反応を見る限り僕達3人は初耳である。
そんな中で、その質問を投げかけられた綾部が口を開くことができた。
「……魅力的な提案だけどよ、流石に即決はできねーぜ」
「すぐに答えをとは言わない。考えといてほしいってだけだ。なんなら断ってくれても構わない、そうなったら俺の責任で他の後釜を探す」
「そういうことじゃなくてな、今年いっぱいはまだユニットで何をするかとかの研修中なんだよなー、その後じゃねーと」
「えっ綾部君がまともな対応してる……」
「うぉい委員長、どーゆーことだそれ」
「そのまんまの意味に決まってるじゃない」
そうして2人がスクールの時に月1程度で発生していたような言い合いに発展すると、いつの間にやら成岩さんの告白による重い空気は消し飛んでいたのだった。