東京都国分寺市泉町、都立武蔵国分寺公園。ブライトさんをはじめ、ロイヤさんやポラリスがよく訪れている公園だ。
いや、ブライトさんだけではない。ノリモンには何か惹かれるものがあるのか、多くのノリモンがこの場所を好んでいるのだという。それはまるで、車好きの人たちが夜な夜な大黒パーキングエリアに集まるかのように。
そう聞いて、僕は冷静にこう思った。一体武蔵国分寺公園に何があるというのだろうか。大黒パーキングエリアの場合は立地と構造の都合という分かりやすい理由があるが、都立武蔵国分寺公園にはそういったものは無いだろう。
「ん? いや、行けばわかるんじゃねーか」
ブライトさんはそう言っていたけれど。行くだけで分かるような特徴があるんだったらもっと早くに耳に入っているような気がするんだよなぁ。
ただ、百聞は一見に如かずともいうので、休みの日に足を運んでみることにした。
西国分寺駅を出て、都立多摩図書館の脇を通れば、都立武蔵国分寺公園に到達する。そして少しだけ先に進むとそこに件の円形広場が鎮座していた。
この円形広場は、半径およそ80mくらいの円形をした芝生の広場だ。……うん、円形の、広場だ。何ら一般的な広場と変わらないように、絵を描いていたり、歌を歌っていたり、あるいは芝生に寝転んでいたりする者がいる。一目で分かる違和感といえば、一般的な公園と比べて人間とノリモンの比が明らかにおかしいことくらい。どうやら、ノリモンに人気なのは事実のようだった。
そしてこの円形広場の周りには、ランニングコースが整備されている。軽く一周走ってみてわかったが、恐らくこの広場の設計はこの円周の長さがちょうど500mになるようにしている。なるほど、確かにこれは走るには都合のいい広場だ。
だけど、それは広場の周りのランニングコースにノリモンが集まる理由にはなっても、広場そのものに集まる理由にはならない。この広場そのものにも、何かしらの理由があるはずだ。
そして僕が芝生に足を踏み入れたとき。
ぞわり。
一瞬だけ、背筋を何らかの電気信号が走って、そして消えた。
間違いない。 この広場、何かがある。
背筋の違和感が消えてから、また再び辺りを見回す。やはり見た目は普通の広場だ。
芝生を何度か出入りする。最初に足を踏み入れた時のような違和感はない。
「なんだ、今の……?」
「どうしたの? 人間」
そう声をかけられて振り返れば、帽子を被った小柄な方が立っていた。髪色からは微妙に判断しづらいけれど、わざわざ人間って言ってくるくらいだから多分ノリモンだと思う。
あれ、この帽子、どこかで……?
「さっきから何度も何度も広場を出入りしているみたいだけど?」
「いや、少し変な感じがして……」
「ふぅん?」
その時、ふと思い出して端末を開き、アルバムを遡った。目標は8月のものだ。
……あぁ、やっぱり。
「それはそうと、奇遇ですね」
「何が?」
「8月の写真なんですけど、覚えてませんか?」
僕は彼女に、あの時新幹線の中で撮った写真を見せた。すると目を見開いて驚く様子をみせる。
「What's that!? あの時の」
「確か徳山で」
「覚えてるわよ。再会することがあるとは全く思ってもいなかったけど」
彼女はあの後もずっと日本に滞在していて、今はすぐそこ国分寺を拠点にしているのだという。
「これもなにかの巡り。わたしのことはロペと呼んで。あなたは……なんて呼べばいいかな」
「さっきと同じように『人間』でも別に構いませんが……」
「わかった、人間」
あ、結局人間でいくんだ。別にいいけど。
「それで、人間はどうしてここに?」
「ノリモンの同僚がこの場所を好むので、何があるんだろうな、と気になってですね」
「なるほどね。確かに、わたし達ノリモンにとってこの広場は強い力を感じ取れる場所」
やっぱりなんかあるんだ、ここ。
そう思っていると、次の瞬間にはロペさんは僕の体をペタペタと触って何かを確かめていた。
「Hmm……. What’s this coupler……HERS? It means…… he’s the favorite of the Star, i got it」
「……いや、何してるんですか?」
「あ、ごめんね。あなたも何かを感じたんでしょ? 人間なのに。でもそれっておかしいこと。だって、人間には関係ないから。だから、ちょっとね」
……なるほど?
いや、なんで僕が公園の調査に来てるのに調べられてるんだ?
「あなた、霊感が強いとか言われたりしたことない?」
「特には……」
「だとしたら。面白い人間」
うんうんと頷きながら、ロペさんは困惑する僕を置き去りにしてひとりで納得している。
「ねえ人間。
「……一体君は、何をどこまで知っているんですか?」
「うーん、君の知りたいことぜんぶ、かな?」
……なんだろう。ものすごく胡散臭い。
だけど。その言葉に真実が混ざっている事を示唆する言葉が、ロペさんの口から続けて発せられた。
「それはたとえば、この広場にかかっている
「……何者なんですか、あなた」
チッキケースに手をかけて、念の為警戒する。超次元の概念を理解しているのは明らかだった。
「あ、やっぱりトレイナーさんだったんだ。そうだよね、超次元の力を使えるならば天職だもん」
「……どこまで知っているのさ。場合によっては、僕は君を拘束しなきゃいけない」
「ふぅん。でも、それは人間にはできないよ」
はらり。ロペさんの帽子が風に煽られて、そして飛びかけたそれを彼女は掴み手に持った。
そして、彼女から強い威圧感が発せられる。
「――だって、わたしは強いノリモンだからね」
僕は無言のまま、トレイニングをした。