「トレイナー。歪で、不完全な存在。だけど、ノリモノイドよりは完成に近い」
「何が言いたいんです」
「そしてあなたは、確かにこれまで見てきた中では極めて完成に近いトレイナーだね」
……駄目だ、話が通じない。
このプレッシャーの掛け方ははいそうですかと帰してくれるようなものではなく、どちらかといえば逃げるなというメッセージを感じるさせられるものだ。
一体、なんだ? 彼女の意図は。
「言葉の意味が理解できない」
「人間には理解できないだろうね」
「知り合いのノリモンに聞いたとしても、その完成という言葉の意味を答えられる者はいないとおもいますがね」
圧が、オーラが強くなる。ふと周りを見れば、ただならぬ雰囲気を感じ取ったのだろう、何名かが少し距離をとってこちらを見ている。
「それは、そう。だって、ノリモノイドはもっと不完全で歪。生物を模しているのに、生物になりきれていないもの」
こちらから手を出してはいけない。あくまでもこのトレイニングは予防なのだ。
「だからこそ」
近づいてくる。攻撃する素振りはない。
「わたし達には、トレイナーが必要」
「悪いけど、その誘いには乗れない。僕には僕のやらなきゃいけないことがたくさんある」
「そっか」
ロペさんはどこかから楕円形の鉄の輪を取り出した。それで僕を拘束するつもりか。
いつでもどの方向にでも駆け出せるよう、両足足を直角に開いたまま少し膝を曲げておく。彼女は、動かない。
「なーんて、そんなことはしないよ」
そう言って、彼女はそれをストンと地面に落とした。
「……何がしたいんです」
「うん? あなたを
気がついた時には、僕はその鉄輪に束縛されていた。いつの間に!
そして彼女はニコリと笑うと、またたく間にその拘束を解いてみせた。
まちがいない。彼女は強者に分類されるノリモンだ。下手な抵抗の仕方をすると予想できない大きな被害が発生する可能性がある。
「だけどそれじゃ、まったく意味がない。トレイナーとノリモノイドはお互いに力を引き出すためには、その間の信頼関係がとっても重要だからね。わたしが連れてったところで、絶対にあなたはわたしを信頼しないでしょ?」
「当たり前じゃないですか。そもそも説明だって最初から不十分なのに」
特に
そしてそれは、今この瞬間だってそうだ。僕が口を挟んだとき、一応は話し終わるまでは待ってくれるけれど、その内容に反応してくれるかどうかは気分次第といったところだろうか。反応したければ反応するし、不都合なら完全スルーだ。
「だから。あなたがわたしの手を取りたくなったとき、わたしはまたあなたの前に現れる。わたしにはそうなったときに、あなたがわたしの言葉を理解できないような人間には見えないからね」
「そんな時は決して来ることは無いと思いますよ」
「本当に? わたしは近いうちにそうなると感じてるし、
そして。ロペさんは
そして辺りを見回しても、ロペさんの姿はまったく見つからなかった。
「なんだったんだ、今の……」
端末の画面をつける。新幹線で撮った写真が表示されている。
……とりあえず帰って昼寝しよう。もしかしたら変な夢なのかもしれない。これで起きたときに記憶も端末もこのままだとしたら、改めて本部に投げる報告を作らないと。
「……覚えてる。写真も、表示されたままだ」
そして夕方。目が醒めたときもまた、その記憶はこびりついていたし、画面もそのままだ。夢じゃなかったか。
「とりあえず、報告かけないと。最近上から言われてる不審者案件のフォーム使えばいいのかな」
| 観測日時 | 12月1日水曜日 午前10時30分頃 |
| 観測場所 | 東京都国分寺市泉町 都立武蔵国分寺公園円形広場 |
| 外見特徴 | 身長およそ160cm、ぶどう色の長髪。 すみれ色の長袖ワンピースとカーキ色の大きな帽子を着用。 尾部は確認できなかったが、頭頂部に耳があり生物系のノリモンと推測される。 |
| 事案 | 自らのトレイナーになるよう声かけの後、実力行使。一時束縛されるも即座に解放される。その後、姿を消した。 |
| 備考 | 自らのことをロペと名乗る。声は高め。 英国出身で現在は国分寺を中心に活動しているとのこと。 超次元に関する知識を有すると推測される発言があった。 |
「こんなものでいいかな」
服の色を考えても、彼女がJRNのサイクロだとすれば話は簡単だったんだけれど。経歴的におそらく違う気がする。
個人的には当然に引き続き警戒するけれど、真にJRN全体として警戒すべき対象かどうかの判断は本部が行うことだ。現在そのリストに入っている者は、みな装いや髪色が白黒に統一されており、恐らく組織的なものであるとされている。ロペさんは無関係のような気もするけれど、それを素人の僕が判断するのは危険だ。
そう思いながら、僕は送信ボタンをクリックした。