ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

209 / 306
21レ前:ルースの落し子、ココマ

 円形広場の監視を始めてしばらくした頃。段々と強くなる光に、僕達の警戒も強くなって最高潮に達した頃のことだった。

 

 リンゴーン、リンゴーン。

 

 どこからか、鐘の音が響いた。だけど、その音の源は見当たらない。

 

『各局、各局。今何か聞こえなかったか』

『聞こえました』

 

 ……どうやらみんなにも聞こえているので、気の所為ではないらしい。

 そう確認している間に、もう一度鐘の音が響いて、そして地面から漏れ出る光もまあいっそう強くなる。

 

『下か! 下から来るぞ、気をつけろ!』

 

 僕達は合意なくとも、みなそう結論付けた。その時。

 何かが飛んできて円形広場の真ん中へと落ちて突き刺さった。

 

『何だ?』

『錨……のように見えるな。可能であれば警戒しつつも調査を』

 

 地面の赤い光はより強くなる。

 リンゴーン。リンゴーン。

 また鐘の音が響いて。皆、上を見ていたから気がついた。その鐘が北の空から飛んできたのに。

 

 そして。禍々しいはずなのに、どこか神々しい光景が広がって。

 大地が裂ける。円形広場の地下から、それが復活するのを。

 

 全高およそ40メートル。人形の機械。

 赤い靴は1対のプロペラを後ろに持ち。黒い脚は細くシュッとしていながらも力強さを感じさせる。白い胴は赤い光を照り返しながら5色のシールドで薄く輝き。橙の腕はアクセントとなって彩りを持たせている。

 ……美しい。クィムガンに対する感情ではないことはわかっていながらも、そう感じずにはいられないほどの造形美。これが対応すべき脅威でなかったら、どれほどによかったことか。

 

『あれが、はじまりのクィムガン、ルースの落し子……』

『まずはラッチを張る事を優先に。動く前に張ってしまおう』

 

 幸いにもまだその動きは鈍いように見えた。今のうちに。

 

『ラッチ展開準備は』

『確認、こちらOKです』

『疾く疾くタム』

『ご安全に』

 

 薄い水色の光が、ルースの落し子と円形広場に入った4ユニットをとりかこみ、周囲から隔絶する。

 そして、公園はまた静かになった。

 


 

 名松一志は酷く緊張していた。――いや、威圧されていたと表現するのがより正しいだろう。

 目の前に聳える巨体に。最強のドラコ・ユニットが横にいるといえど、危険になったら一旦出場して態勢を整えることができるといえど、何度それを繰り返してもシールドを割り切ることができるのかわからないと、そう感じさせられるほどの威圧感が、静かなその体躯からですら感じさせられているのだ。

 これで、仮に動き出したら……?

 

「なんなのよ、これは! 信じらんない」

 

 太多姫の上げた声は、ラチ内の20人みなが共感できる部分があるものだった。場数を踏んでいるドラコの者でさえも。

 

『こちらドラコロケット。動きの鈍い今のうちにシールドを削る』

『……へぇ、がんばってね』

 

 そのアナログ無線に、唐突に何者かが割り込んだ。カリーナの5人には聞き覚えがある声だった。

 

『こちらカリーナロケット。また貴様か、スタァインザラブ号!』

『スタァインザラブだと!? どこだ!?』

 

 無線の電波はラッチを超えられない。これは割り込んできたスタァインザラブがラチ内にいる事を意味する。

 そして各ユニットの索敵担当が探してみれば……彼女は確かにいた。ルースの落し子の肩の上に!

 

『貴様の目的は何だ、スタァインザラブ』

 

 氷川日枝が問うた。彼とて真艫な答えが戻って来ることは期待はしていなかったが。

 

『今日はね、ボクはもう何もしない。やるべきことはもう全部終わったからね』

『は、とは何だ』

『だって、後はぜんぶ姉さんがやるだけだもの。ねぇ姉さん。ここにいる人達は、間違いなく日本でもトップクラスの実力を持ってる。()()()()()()()()()()()()()()()()

『おい待て、どういう……』

 

 氷川の質問は遮られた。動き出したルースの落し子によって。最悪なことに、ルースの落し子の動きが緩慢なのが復活してすぐだからであるという予想は当たってしまっていたのだ。

 動き始めたルースの落し子は、その足元の大きなプロペラから車すらも吹き飛ばすような強い風を生み出してトレイナー達の行動を制限した。

 

「この程度の風くらい、どうってことないっすよぉ! 《エアロ・ダブルウィング》!」

 

 果敢にも名松は風に抗い、その距離を詰めようとする。彼を含めて、この風の中で動くことができるのはわずか数名程だった。

 そして彼は飛び上がってそれを目指した。ルースの落し子の肩に乗るスタァを!

 だがしかし。彼が彼女に到達することはなかった。

 

『うんうん。トシマ姉さんの頃から70年も経ってるんだし、あなた達でどうにかできない相手ではないよね。だって70年前はあの海やその上の空でまともに動けた子なんていなかったもの。それじゃ、がんばってね』

 

 スタァはその無線を残してルースの落し子の肩から消えたのだ。忽然と。

 名松はスタァの居た場所――それの肩の上に着地すると、攻撃を警戒しながら彼女の痕跡を探している。

 

『こちらカリーナノーヴル、スタァインザラブの痕跡は無いっすね』

『レオミノルサイクロより、こちらでも奴につけたマーカーの反応の消失を確認。』

『……なるほど、前の報告通り本当に逃げられたか。レオミノルサイクロへ、マーカーをつけているならレオミノルは出場してスタァインザラブを追ってくれ。入場3出場2で回す』

『承知』

 

 そしてレオミノルの5名はわざと風でラッチまでふっとばされてそこから出場していった。スタァを追うために。

 そして。残された15人とルースの落し子との戦いが、本格的に始まろうとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。