ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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21レ中:はじまりのクィムガン

 不動亜紀は、ノリモン発生学の研究者である。

 発生学者、安慶名秦流に師事し、メカマムサシコヤマ号をキールとする彼女の研究対象は、『はじまりのクィムガン、ルースの落し子は如何にして発生したのか』であった。

 そんな彼女は今カンケル・ユニットのトレイナーとして、そのルースの落し子を目の前にしている。その研究をしていた彼女にとって、この事はとても光栄で、感慨深くまた興味深いものであるとともに、その知識からして絶望的なものでもあった。

 

「あのスタァインザラブとかいうノリモン……間違いなく発生に関わっている。そいつを問い詰めなきゃ。必ず。そのためにも」

 

 ルースの落し子を倒す。不動はそう決意した。

 まずは風を止めなければ。そのためにも、まず流れを、テンポをつくる。それがカンケルの闘い方だ。そしてその根幹をなすのが。

 

「任せろ。心地のいいテンポを聞かせてやる」

 

 カンケルパレイユ、声問未来である。彼はキールのオトイネピアと共に音楽活動をする傍ら、その音楽を以て現場に物理的な変化をもたらす力を持っている。

 

「行くぞ、『最果ての気持ち』」

 

 〽何時になれば失われた道を僕ら ここで夢見ることやめるだろう

 

 声問が歌うたび、その声が聞こえる範囲では風が弱まる。流れる切なくも力強いメロディが、ルースの落し子の起こす風に立ち向かい、凪がせているのだ。

 

 〽忘れられたエボリューションを 何度繰り返して曲がり渕走ってゆこう

 

 それだけではない。音楽の力は、それを聴くトレイナー達とウェヌスとの繋がりをより強固にする。結果として、より強い出力を以てルースの落し子と対峙できるようになっているのである。

 そして、カンケルは位置的にも動き出した。

 

 〽降り注ぐ冷たい水、川は今も流れてる

 

 まず飛び出したのが銀城理沙、ノーヴルの若手トレイナーである。かつて前方不注意で味方の攻撃に突っ込んで以降その積極性は失われていたが、同じ轍を踏まぬと改善して今では立派に斥候の役割を果たすことができるようになっている。

 

 〽変わりない想い載せて閉ざされたレール進もう

 

『各局、こちらカンケルノーヴル。ルースの落し子への攻撃を開始する』

『ドラコロケットより、動けるならどんどんやってくれ。奴が本格的に動くまでは各ユニットでの裁量に任せたい』

 

 ドラコ・ユニットですらも、まだ全員が風からは抜け出せそうにない。そんな中で、風を抜け出した者がいればそちらの好きにさせるのが良いと判断されたのだ。

 これで、銀城は好きに動くことができるようになった。そしてカンケルの皆も同様に動くお墨付きを得た。

 

 〽果ての天北、走り出した

 

「喰らえ、《ジェットチョッパ》」

 

 銀城の斬撃がルースの落し子に届く。シールドはそこまで削れているようには感じられはしないが、でも0ではなかった。

 

『シールドの微小な減少を確認。ルースの落し子だってクィムガンだ。割り切れる、必ず!』

 

 〽軌跡を遺すため失われた道は繋がらずとも

 

 銀城に続いて、残る二人も前に出て順調にシールドを削り始めた。だけど。

 ――おかしい。事前知識があるだけに、不動はそう感じていた。故に、彼らを追わず一旦引きで観測と考察を続けることにした。

 

 〽土地は昔のまんまで帰りを待っている

 

 ルースの落し子は、成った直後から甚大な被害を発生させたクィムガンだ。なのにこれだけ攻撃を加えていて全くの無抵抗ということはあるのだろうか?

 何せ1年以上にわたって波を起こしては船を沈め、風を起こしては航空機を落とし対馬海峡を死の海にした程の加害性を持っているクィムガンだ。それなのに、復活して以降やったことといえば暴風を撒き散らすだけ。一体何がこの違いを生み出しているのだろうか?

 

 〽果ての景色、気持ちを知るだろう

 

 そして不動は気がついた。

 記録に残るルースの落し子の攻撃手段の大半は水を操る技だ。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だけどここは陸上。あのプロペラは本来の力を生み出せていないし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 だとするならば、まずい。

 

 〽忘れない

 

 音楽が終わる。声問のパターン的に、この『最果ての気持ち』の曲の流れででてくる技は!

 

「この心地よい流れで決める! 《ヤムワッカナイ》!」

「声問! (ワッカ)はダメぇ!」

 

 不動の制止は、間に合わなかった。

 冷たい水がルースの落し子に向かって伸びる。風が弱まった。嵐の前の静けさのように。

 

『カンケルサイクロより各局へ、一旦引いて態勢を立て直す』

 

 前に出ていた銀城が不思議がったのも束の間、その水がカンケル・ユニットに襲いかかった。

 奪われたのだ。コントロールを。

 

「な、流れが言うことを聞かない」

「思い出すのが遅れてごめん、これがルースの落し子の本質……。水を操るクィムガンだからこそ、水を使っちゃいけないんだ」

「そんな莫迦な」

『各局、こちらカンケルサイクロ。ルースの落し子は水を操り船を沈め、風を操り飛行機を落とすクィムガン。水と風には気をつけて』

 

 だからこそこのクィムガンは海上に甚大な被害をもたらしたのに陸上へは被害をほとんど与えなかった。故に、人々の記憶にもそれがどのように戦うのかはあまり残っていないのである。

 前線からカンケルのトレイナーが一時撤退する際、うち1人のシールドが割れてしまった。銀城は彼を回収すると、カンケル・ユニットは無念にも出場して後続のアクィラといれかわることになったのだった。

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