水が奪われた。
氷川日枝は、目の前で起きた事象をそう分析した。
「気をつけろよ鮫島」
「1つくらい封じられたところデ、全く問題は無いナ」
「それでこそだ。行くぞ。『ドラコロケットよりカリーナノーヴルへ、危ないから左肩の上から動くな』」
入場してきたアクィラに各個の方針を伝え、ついにドラコは動き出した。風を切って最初にルースの落し子に到達したカリーナの名松一志、水を飛ばしてきたカンケルの声問未来。彼らやそのかわりに入場してきたアクィラに気をとられてドラコへの警戒が薄れている今のうちに、可能な限りシールドを削って――あわよくば、ケリをつけてしまおうと。
「やっちまえ。《最強砕氷載希望》」
氷川の放つ氷が、空気を、水を、シールドを砕いてゆく。
「一気に決める。《トゥー・モロー:ビューティフル・ターム》」
草色の風と化した松代美佐が、迫る水を避けて美しい未来をルースの落し子に叩き込む。
「これだけ大きな的に、巻き込む恐れもない。《ベテルギウス・ファイナルキャノン》」
巨大な火球が生み出され、近づく水を沸かすほどの熱量のそれを落としてルースの落し子の右肩に直撃させたのは星野貴大だ。
「悪いけど、ぼく達の時代にはもうはじまりのクィムガンは似合わないね。《究極進化革命理論》」
中泉良平が投げた槍は弾丸のように飛び、水が来る前にルースの落し子のシールドを貫いた。
「コイツで決めてヤル。《ラスト・チェーンソー》」
そして、自分自身を飛ばした鮫島勝はオモテにつけたチェーンソーに自らの運動エネルギーを乗せて水の壁を通り抜け、ルースの落し子のシールドを削り取った。
5人全ての、必殺技とまではいかずともそれなりに重用している技。それが全てきちんと直撃すれば、並のクィムガンのシールドならば一瞬で砕け散ってしまうほどのもの。だが、ルースの落し子は動かずとも強固だった。
『1割ちょい、かな?』
中泉が状況を分析する。かつての英雄、双葉清彦がトシマ号とトレイニングをしての対応にあたった際は、およそ丸一日彼の活動しうる時間をかけてその程度であったということを考えると、70年という時間の重みは非常に大きい。逆にいえば、知見の集積や技術の進歩により効率的な技の使い方を得られるようになった現在の水準での攻撃でなおこの程度であるということ自体が、当時は大変な脅威であったことを理解させてくる。
『そこまでできるほどは持たねぇナ』
だが。一番重要なことは、今の一連の攻撃でルースの落し子が強くドラコを警戒してしまっているということ。事実声問の放った水は肩上の名松ではなく完全にドラコを狙っているし、風だって再び吹かせはじめている。今と同じことは、少なくとも再入場直後までは出来はしないだろう。
だが、今度は逆にドラコの攻撃に注意が向いたことによりカリーナやアクィラへの注意が削がれた。
「隙だらけじゃない!」
太多姫が風を潜り抜け、ルースの落し子を殴った。それに肩上の名松がようやくそこから降りながら続き、そして他のカリーナやアクィラのメンバーも続く。
そして、ルースの落し子はひとまとまりにして氷川の方へと向けていた水を呼び戻し彼らへと向けかえんとしたが。
「悪いがその
氷川は、その漂う水を全て凍結させた。これでルースの落し子が操ることのできる流体はまた空気のみに戻り、そして風の勢いが増して気を抜いていた者を遠くへと吹き飛ばしている。だけど、そのクィムガンはその場所からは動かない。
「……ねぇ、リーダー。1つ思ったんだけど」
その氷を粉砕しながら中泉は氷川に話しかけた。
「ルースの落し子って、解き放たれたときから全くあそこから動いてないけどさ。もしかして今
氷川の顔は中泉からは氷に阻まれて窺うことができない。だけど、彼らの間では声色と間だけで十分だ。
「……つまり
「そう。動くのすら水任せだったんじゃないかなって」
発生したのが海の上だったからこそ大いなる脅威となったが、陸上に上がれば――当然、油断してはいけないことに変わりはないけれども――案外そうでもないクィムガンだ。これが中泉の導いた1つの仮説だった。
そもそも、これはクィムガンのみならず、ノリモン全般に言えることであるが。使うことができると認識している技が少なければ、それが全て使うことのできないシチュエーションに陥った時には、ウェポンやあるいは己の肉体そのもので戦うしかないのである。
「だがウェヌスの力がかかった風は、僅かながらも確実に俺達のシールドを削っている」
「あのさ、今日は普通の出動だよ、そのために外で待ってるユニットがいるんでしょ!」
それに、油断していいとは一言も言っていない。そう言いながら中泉は氷を砕ききると、再びルースの落し子のシールドを削りに戻ったのだった。