「《シララオイ》!」
吹き荒れる風を切り裂きながら、その先のルースの落し子をコジョウハマで殴る。
ルースの落し子の生み出す風は想像以上に厄介だ。直接シールドを削る量は本当に微々たるものだけど、長時間さらされていれば当然無視できるものじゃないし、何よりまともに攻撃を当てるのが相当きつい。ぶれる。僕だけじゃなくて、名松や鮫島さんのような風に耐性を持つ人以外はみんなそうだった。
攻撃が完全にシールドに当たらないわけじゃないからシールドは削れてはいるけれど、当たりどころが変なので姿勢を崩してしまう。するとその後に体勢を立て直すまでに少し時間がかかる。それが何度も続けば、けっこうなフラストレーションが貯まるというものだ。
それは周りの他のトレイナー達も同様だった。飛び交う無線でも、みな少しずつ言葉にトゲが出始めている。だけど目に見えてルースの落し子のシールドから緑や青が減り、紫や赤が広がっているのが見えているのがせめてもの心の救いだった。
そして、さらに殴り続けて。もはや緑がほとんど見えなくなった頃。眼の前に緑のシールドを確認して。
『ウルサロケットより各局へ、右足に緑を確認』
『ウルサパレイユより、向かいます!』
そして、やってきた北澤さんが桜色に輝くスモールソードをそこに突き立てた。
「これで、終わって! お願い!」
ピキリ、ピキリ。
シールドにひびが入る音が聞こえる。これであと3色だ。
そう安堵したとき。
『まずい! みんな、逃げて! できればラチ外に!』
中泉さんの鬼気迫る無線が飛んできた。
あれ、割れるシールドって……もしかして!
僕はその場ですぐさまルースの落し子に背を向けて走り出した。
『
「やっぱりかぁ、《ハイブリッド・アクセラレーション》!」
だけどこのラッチ、もとがそもそも大きな円形広場に張ったものだからエキステーションだって結構広い。そもそもルースの落し子が動けないことを知らない時に張ったんだから仕方がないのだけども……。
逃げられるか逃げられないかで言えば、間違いなく逃げられない人が出る。だけど逃げられる人は逃げ切って、これを報告する義務がある。
シールドが割れる音が後ろから聞こえる。早く逃げないと。そう思って足元の
しまったと思ったときにはもう遅かった。そのまま転倒、顔から地面に激突し
あれ、
後ろを振り返れば、遅い来るのは水の壁。既に呑まれてしまった人影もみえる。そして、その盛り上がった水の上で、ルースの落し子は先程まで全くその位置を変えることが能わなかったとは思えない程に機敏に動いていた。
一瞬で理解した、させられた。どうやったのかはわからないけれど、この水はルースの落し子が出したものだと。逃げなきゃ。しかしこうも地面に水が入っていると、体重の軽い僕たちは粘着力の増強があっても……いや、逃げるのに必ず地を這う必要はない、《クンネナイ》だ!
そう飛び上がってラッチを目指す僕を襲ったのは、乱気流だった。揺れに呑まれて、体の制御が効かなくなって。そして、次の瞬間目の前にあったのは――水面だ。伸ばしたコジョウハマと腕とが水を切り分けて、僕はその中へと突入するほかなかった。
そして水の中に入ったということは、ルースの落し子の支配する空間に入ったということ。もう助からないぞ。酸欠からだろうか、薄れゆく意識の中で僕はそう感じていた。
気がついたとき、僕は久遠に続くかのような闇の中に漂っていた。どこまでも続く、真っ暗闇の世界。この空間が広がっているのか、壁があるのかすらもわからない。
……あれ、この状況覚えがある。Sバーストの直後だというのも同じだ。トレイニングが解けてしまっているのも。ということは、だ。
「探しているのは、この俺か」
「やっぱり」
「また来そうな匂いはすると踏んでいたが、まさかこんなに早くに来るとはな」
振り返れば、あの時と変わらず紫色の光を薄く纏ったクリーム色の髪のノリモンが僕の後ろにいた。
「約束通り、俺の名を告げよう。俺はゲッコウリヂル、次元の狭間の案内人だ。さぁ、お前をこのどこでもないゾーンから脱出させよう」
「山根といいます。すみません、何回も」
「謝らなくていい。これが俺の仕事だ」
彼はそう言うと僕を抱きかかえて動き出した。道すがら、リヂルさんは起きたことについて問いかけてきた。
「ルースの落し子って、伝わりますかね」
「やはりお前、その次元だったのか。前もSバーストだとか言ってたし」
「ご存知なんですね」
「縁のある次元でな。そこのはじまりのクィムガン――崩壊しかけているノリモンの名前だろう」
「封印から解かれて、戦ってたんです」
言葉は、帰ってこなかった。
こちらからリヂルさんの表情は見えない。だけど、ルースの落し子を知っていたとなると恐らくはその被害については知っているだろう。
そして、かなりの間を置いてから状況を呑み込めたのだろうか。ようやく答えが帰ってきた。
「それでか。ノリモンが崩れる時が一番こうなりやすい。今日は同じとこから数人飛ばされてきてる」
「数人? あの時は15人いたはず」
「そんなにはここには留まっていないさ。元の次元から飛び出していないか、或いは
他の次元って?
そう問いかけようとしたけれど、口が動かない。それどころか身体が重くなってゆく感覚に見舞われる。意識が、飛んでゆきそうになる。
「済まない、俺は今お前を騙している。悪く思うな、Cycloped様の指示だ――」
再び薄れゆく意識の中で、その謝罪の言葉は僕には届かなかった。