成岩さんを待っている間、ベーテクさんは搬入した物品の兼ね合いだろうか、奥で可動机を動かしていた。手伝おうと声をかけはしたけれど、やんわりと断られて座って待っているよう伝えられた。
そうして席に戻ると、同じく待つよう伝えられていたコダマさんから、聞きたいことがあると伝えられた。
「なぁ山根。なんでここのインターン来ようと思ったん?」
少し場所を移そうか。そう言って部室の外へと誘導したコダマさんの口から出たのは、そういう質問だった。
「クシーさんのとこでの研修が終わって、それで研修始まる前のところに戻ろうとしたら休業中で……」
「そうやない。成岩が半ば拉致する形で連れ込んだって話は聞いてるのですわ」
あぁ。そっちか。
「最初はそうでしたけど、その後自分で考えて、お世話になることにしたんです」
「強要されてるとかじゃないんやな?」
「違います」
「ならええわ。ま、ベーテクのことだし大丈夫とは思ってたんやけど、一応形式的に、な?」
もしかしてこの人、タイミングを見計らってインターンで入ってきた全員に確認してたりするの? 一体過去に何があってわざわざそんな労力かけてるんだろう。……まぁ、僕が考えてもあまり意味のない事か。そう思考の渦から抜け出そうとしたとき、コツン、コツンと遠くから足音が聞こえて、そちらを見ればアドパスさんがちょうど戻ってきたようだった。
「こんなところで何してるんデース?」
「ちょっとした世間話よ。……成岩は?」
「さっき正門前で追い抜きマーシタ」
いや、一緒じゃなかったんかい。
ラボに入って話を聞けば、彼はレンタカー屋で軽トラを降りると市街地の方へと走って行ったのだとか。
そしてしばらく待っていると、両腕にビニール袋をぶら下げた成岩さんがようやく戻ってきた。
「アドパスてめぇ……。手伝ってくれてもよかっただろうが」
「リフトは1階に降ろしておきマーシタよ」
「確かにちょうど1階にいたけどよ!」
「まぁまぁ。成岩くん、一旦荷物置いて落ち着こうか」
ベーテクさんは彼の腕からビニール袋を外しながらそうたしなめた。
「だいたい今日の役割分担だって神聖なるサイコロの神が決めたことだろう?」
「それを言われたら反論できねぇ……」
「何お前らサイコロで全部決めてるん?」
「絶対だもん。サイコロの神様は、絶対だもん」
「2回も言わなくても通じるよポラリス……」
そしてそんなコントを繰り広げている横で、当のアドパスさんはしっかり袋の中からオードブルプレートを取り出して机に並べていた。……夕食奢るってそういう事か。
何もしないのもアレなので、とりあえずビニール袋の中に入っていた飲み物のペットボトルを運ぼうか。そう思って手を伸ばしたところで、成岩さんに止められた。
「お前は何もしなくていい」
「流石にそれは悪い気が……」
「……ベーテク、そろそろバラしていいかこれ?」
「そうだねぇ、僕から言おうか。これはね、半分は手伝ってくれたふたりへのお礼。そしてもう半分は君の歓迎会を兼ねているんだよ」
えっ、そうだったの?
でも、その割には……
「その割にはお昼まで予定すら聞かれませんでしたが」
「6時間もありゃ立案から実行まで余裕だろ?」
いや、流石にそれはない。
しかもよくよく話を聞いてみれば、部室に成岩さんが襲来して僕の意向を確認した後にその案は出されたらしい。このスピード感、流石はノーヴルということだろうか……。
「格好つけとるけど、コイツら普段から何かにかこつけて騒いでるから慣れてるだけですわ」
「それは言わないでおくれよ」
椅子に座っているのにずっこけそうになった。
なんだ、手際がいいのはそういうことかい。
「たのしそうでいいですね」
「だろ?」
「ベーテクらは面倒もきちんと見とって何もやらかさんからええんやけどな……」
荷物を持って奥へと移動していったふたりを横目に、引き続きコダマさんが遠い目をしている。
「大変なんですね……」
「しゃあないんやけどな。気づいてるかもしれんけど、ノーヴルは幼いノリモンが多いんですわ」
えっ、そうなのか?
確かにロケットではほとんど、それこそポラリスちゃんみたいな子は見なかったけど。
「たしかに、ロケットだと外見幼く見えるのってクシーさんくらいしか」
「そういう意味じゃないんですわ。でもちょうどええから話を続けるわ。あの子がノリモノイドになったのは13の時。その13って数字が特別でな、どういう数字かわかります?」
「いや、分からないです」
「いわゆる鉄道系のノリモンが、生まれてその精神が発達して成熟するのにかかると言われてる年数がそれですわ」
確かに人間だってそういう内面とかが成長するのには時間がかかる。そこはどうやら、ノリモンも同じなようだ。13年という数字は人間のそれと比べると短いようにも思えるけど。
「その13年経つ前に、ノリモノイドになったらどうなると思います?」
「普通に、子供みたいなノリモノイドになるだけじゃないんですか」
「半分は正解。でもな、ノリモノイドになったら、その時に得られた姿と人格が固定されて以降は全く発達しないんですわ。知識や経験、記憶だけは積み上がるのに、幼いノリモンは永遠に幼いままなのよ」
「なんで?」
「私らノリモノイドがどうして人間と似た姿になるのかすらわかっとらんのやぞ?」
つまりは、未解明。ノリモンはわりとこのパターンが多く、サイクロがほぼ全ての研究リソースを注いでなお、いつすべてを解明できるかの見通しすら立っていない。
だけれど、理由が分からなくともそこに残酷な事実があることは変わらない。この場面でコダマさんが嘘をつくとも考えにくいし、それはおそらく真実なのだろう。
ふと部屋の奥に目をやれば、準備が終わったのだろうか、ポラリスちゃんがこちらへと向かってきているのが見えた。彼女の姿や人格も、おそらくはすでに固定されてしまっているのだろう。それはとても、残酷なことのように思えた。
「これは初めてノーヴルに来た君への忠告や。ノリモンは外見、精神、そして実際の齢は全て異なるのよ。そして、なぜかわからんがノーヴルは精神が幼いのが多い。そのことを常に忘れてはなりませんわ」
「肝に銘じておきます」
そして僕達の話が終わったころ、ちょうどポラリスちゃんが到着して、僕達ふたりを奥へと案内してくれた。