「中継を見てもらった通り、あれがリロンチだ。発生してしまった事象は認めざるを得まいが、今後起こしてはならない」
会議室に到着するなり、トシマは待っていた9名のノリモンにそう告げた。
リロンチは人間を消費する現象だ。人間とノリモンの共存を望むトシマにとって、そのような事象は決して認めることができないものだった。
「ゆえに、リロンチという事象自体、できれば内密にしてもらいたい。この存在が広まればそれを行わんとするノリモンが出かねない。それは即ちノリモンが人間に害をなす存在へと堕ちることに他ならない」
「どうですかね。クィムガンがノリモンの成れの果てだということと同じように、結局はいつか公開することになるのではないです?」
「いずれはそうする必要もあるだろう。だがそれは今ではない、と言っている」
すぐさま懸念を示したコダマに、トシマはすぐさま反駁した。
だが彼女の想定外にも、会議室の反応は半々だった。事象があるとわかっているのなら、それは無視することができないのだから速やかに公表すべき、という考えだ。コダマの他、イロドリやズームサンラインがその考えだった。逆に絶対に公表すべきではないとの考えはタムファタルやリクチュウも有していた。
「……一般に公表するかしないかは、今後の理事会で決定する。いいな、コダマ号」
「えぇ、どちらの結論が導き出されるとしましても統一した基準が必要ですから、それがいいでしょう」
「であるからそれまでは、ココマ号がリロンチを起こしたことは黙秘しておいてほしい。決定以降はそれに従ってもらいたい」
この判断を先送りにする提案は、渋々という形ではあるが受け入れられた。
だがそのほかにも、解決すべき問題はたくさんある。スーパーブライトが持ち込んだのも、そのうちの一つだった。
「それはいーんだが。だとしたら、ココマはどーすんだ。そこからバレるぞ」
ブライトの言いたいことはこうだ。明らかに言動に矛盾のあるココマを放っておけば、親交のあった者は真実に気がつき、そしてそれを流布するだろうという懸念だ。
「無論こちら側に入れて面倒を見る。彼女は被害者だ――つまり、当事者だ」
「早乙女氏が
だんだんとブライトの語調は加速している。早乙女はJRNの中でもかなり顔の広いトレイナーだ。いなくなれば発表などなくとも気がつく者も少なくないことは容易に予想しうる。そこをブライトは一番警戒しているのだ。
だが、トシマには策があった。
「君だって聞いていただろう。行方不明のトレイナーは他に7人もいる」
木を隠すなら森の中。行方不明者を隠すなら、同じ行方不明者の集団に放り込んでおけばいい。特にこの場合は、それを検証できる者はそうそういまい。しかもそのような者がいればそれはそれで行方不明者の足掛かりが見つかったということになるのだから、それはそれでJRNにとっても喜ばしい事になる。
「……わかってんのにわかってねーことにするのか」
「彼を核としてココマ号がリロンチを行ったのを認識しているのは我々だけだ」
ブライトは理解はしたが納得はしていないとでも言いたげな顔で引き下がった。頭の中ではそうするのが最もよいと認められているのに、心がそれを拒否しているのだ。
しかしこれですべての問題が解決したわけではない。シエロエステヤードがルースの落し子を用いてのこした爪痕は、あまりにも大きかった。
「そもそもほかの7人は大丈夫なんですかねぇ?」
「わからん。だから今も対策本部では協議中だ。さらに都立武蔵国分寺公園に残った『無』の監視も継続している」
行方不明の7名――中泉良平、星野高大、成岩富貴、山根真也、太多姫、参宮五十鈴、名松一志。『無』を監視していても出てくることは無く、未だにどこにいるのかも――そもそも、生きているのかもわかっていないのだ。以前同じく
そして、円形広場にぽっかりと口を開けるように残された『無』。空間があるはずなのに、そこには何もない。そもそも近づいて安全なのかもわからない。現場からの報告によると鎖鎌を投げ入れてみればいつまで経っても接地する気配すらなく鎖を最大限まで使い果たしてしまったという。それはまるで、底無し沼のように。この『無』を、ひいては円形広場を今後どうしていくかもまた、大きな課題として残されていたのだった。
「だがリクチュウ号、その話は……いや、ココマ号のリロンチに関する話以外はここではなく対策本部に移動してから行いたい」
そしてその後のいくつかの質疑応答を交えた後、秘密を抱える10名のノリモンは解散となった。ある者は更なる情報を求めて対策本部に赴き、またある者は一旦自分の中の情報を整理するために自らのパーソナルスペースへと向かったのだった。