休載期間とさせていただいておりましたが、本日より連載を再開します!
1レ前:武蔵野線24時間耐久
「テントケだ? なんだってんだよ! それって」
12月27日月曜日、午前2時。
ネオトウカイザーは、その報せを聞いて激怒していた。
「仕方ないだろ! トレイナーの本業ってのはそっちだ」
「それは理解しているし、一志からも聞いてる! だがアイツは怪我1つないんだろ? だったら……」
「カイザー」
立ち上がってどこかへ行こうとするカイザーを止めるノゾミタキオン。彼女とて、カイザーのことは流石に気の毒には思っていた――なにせデビューラン以降これまで、カイザーは満足のいく勝利をあげていない。そしてこの武蔵野線24時間耐久も、すでにそうなることが確定してしまったのだから。
だがタキオンはその甘えを許さない。ポーラーエクリプスと【キラメキヒロバ】へのように競走に重大な支障の出るほど、ルースの落し子は【
「【キラメキヒロバ】には時間が無さすぎた。事象の発生が一昨日の夕方、他のチームメンバーにその話が流れたのが昨日の朝だって話だからな」
「……くそったれ」
そう吐き捨てて、脱力したようにいすにかける。そんなカイザーをタキオンは暖かくも厳しい目つきで眺めていた。
「これから先彼女と相まみえる機会はごまんとある。時間さえありゃ彼女がまた立ち上がることはお前もわかってんだろ?」
「だからこそ、だってのか」
「手ぇ抜くんじゃねぇよ?」
「わーったよ、圧勝してやる」
そしてカイザーは自らに割振られたスタート駅まで移動し……そして、午前3時。当初の予定通り、武蔵野線24時間耐久レースは幕を開けたのだった。最も注目されていたランナーのうち1名を欠いた形で。
耐久レースは、文字通り長時間走り続けるレースだ。しかしそれでは途中でスタミナが切れてしまうので、ランナーは途中に補給を受けながら走ることになる。それぞれの陣営が選択した1つの地点から補給担当が並走し、走りながらフューエルやバッテリーを補給するのが一般的な形だ。
しかしポラリスの陣営、【キラメキヒロバ】のチームはこの補給担当であるトレイナーが全員行方不明となってしまった。ゆえにポラリスは、前日になって急遽レースへの参加のとりやめを表明せざるを得なかったのだ。補給を受けなければ、高速度域で24時間をも走り続けることなど到底できないのだから。
順調に走り出したカイザーの姿を中継で捉えると、タキオンはボソリと呟いたのだった。
「……恨まないでくれよ、カイザー。アタシもエンターテイナーの端くれとして、アンタの心をこれ以上揺する訳にゃいかねぇ」
耐久レースは長時間の走行を行うためランナーの精神変動も当然好まれない。既にポラリスのテントケのアナウンスであれほどまでに動揺しているカイザーに対してさらなる情報を与えることは、タキオンにはできなかったのだ。
★
『きっと君は来ない、きっと誰も来ない! 独走状態のままネオトウカイザーが独りきりのゴールインし、チェッカーを受け取りました!』
翌日早朝。カイザーは2位となったキューカンバーヒカリに周回以上の大差をつけて24時間耐久を制した。だがしかし、彼の心は満足していなかった。満足することはできなかった。
「お疲れ、カイザー」
「当然の結果だ」
表彰やインタビューを終えて控室に戻ってきたカイザーはそう吐き捨てた。
「……カイザー。その言葉は取り消せ。極めて失礼だ」
「誰にだよ」
「一緒に走ってたランナーにだ。確かに実力差があればそう言いたくなるだろうが、そんな彼らにでも敬意を示せなくなったらランナーとしておしまいだ」
「……そういう意味じゃねぇんだが」
ふてくされたように、カイザーは椅子にかけて机に体を投げ出した。そんな彼に寄り添って、タキオンはその肩に手を置いた。
「気持ちは分かるけどよ、しょうがねぇだろうが。JRNはクィムガン対応がメインの仕事だ。その結果としてこうなることも、な」
「やけに向こうの肩を持つじゃん」
「……そうだな、黙っとこうかと思ってたんだが。アタシがチッキを渡したトレイナーも1人行方がわかってねぇ。アイツらはな、文字通り命かけてアタシ達を、社会を守ろうとしてくれてんだよ。どうして文句が言えるか」
タキオンの目は本気だった。それを見て、カイザーは申し訳なく思った。しかしその様子を見たタキオンもまた、カイザーの事を気の毒にも思っていた。この子はまだ何も知らされていないのだと。
「……なぁカイザー」
「何だ」
「いや、なんでもねえ」
カイザーの心はまだ弱い。タキオンはそれがわかっていたからこそ、その伝言を伝えられていないのだ。それが長引き、ついにはレースを終えてしまった。今更思い直せば、ポラリスのテントケの報せが彼に届いたまさにその時が、言い出せる最大のチャンスで、そして決定的な崩壊を導かない最後のチャンスだったのかもしれない。だが、それが今更わかったところで、もう遅かった。
ふたりのいる控室の扉が叩かれる音がした。
「入るわよ、カイザー」
「……ナジミか」
「あら、タキオンさんもまだいたのね。カイザーに、お客さん」
そして、ビシャスオサナジミはそのノリモンを部屋の中へと案内したのであった。