ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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1レ後:傷跡

「俺に、客……? 誰だよ」

「カイザーが一番会いたいと思ってる子のうちのひとりだと思うわ。……ほら、おいで」

 

 ナジミは廊下にいるノリモンに声をかけ、部屋の中へと案内した。

 そして招かれたノリモン。シルバーをベースに前髪に青と萌黄のメッシュの入ったそのノリモン。彼女は確かにナジミの言うとおりカイザーが最も文句を言いたいと思っていた者だった。

 

「ごめんね、レースに出られなくって」

「……ポーラー、エクリプス号」

 

 震える声で、カイザーは話しかけた。レースに出てこなかったことへの怒りと、ポラリス自身は無事であり、こうして会いに来てくれていることへの喜びが混じって、カイザーの心情はぐちゃぐちゃだったからだ。

 

「それと、おめでとう」

「……受け取れないな、その祝福は。お前のいないレースでの勝利に意味はない」

「そんなことないよ! ほかのみんなだって」

「だったら!」

 

 カイザーは声を荒らげてポラリスの言葉を遮った。ポラリスは驚いたように言葉を止めてカイザーを見つめる。その様子を、ナジミとタキオンはいつでも止められるように構えながら見守っていた。

 

「お前独りでも、レースに来ればよかった」

 

 無茶を言っていることは、発言主のカイザーが一番理解している。何せカイザーだって、レース中にタキオンやナジミから補給を受けることがなかったら、完走することなど夢のまた夢だったであろうことは容易に想像できた。しかも自分自身だって、フューエルを扱ったり、補給したりすることができやしないことだって。だからこそ、カイザーはそれ以上は何も言わなかった。

 だけどポラリスは――それを、冗談だとは受け取らなかった。

 

「そうだよね。ポラリス独りでもできるんだって、やってけるんだってこと、やってみせなきゃだよね」

「……うん?」

 

 自らに言い聞かせるように、少しうつむいてそうつぶやくポラリス。カイザーは自らの軽率な発言を少し後悔して、一歩引き下がった。

 だがしかし次の瞬間。そのカイザーの手を、ポラリスがガシリと掴んだ。

 

「来月からも、ポラリス、走るから。だからさ、今度こそ。一緒に走ろうね」

 

 ポラリスの萌黄色の目が、カイザーの黄金色の目をとらえた。そして少しして、それは相互の関係になった。

 

「……わかった。次こそレールの上で決着をつけよう」

「うん!」

 

 青春ねぇ。そうつぶやきながら、ナジミはキラキラしているふたりの様子を温かい目線で見守っている。だけどその目線が打って変わって鋭いものになるのに、さほど時間はかからなかった。

 次に出てきたポラリスの言葉が、そうさせたのだ。

 

「強いんだね、カイザーは。ポラリスも負けないように、もっと強くならなきゃ」

「……その言葉は、今は受け取れない。俺が直接お前に先着する時まで取っておいてくれ」

「ううん。今だからこそ言えるんだもん。だってさ――」

 

 その言葉は、ナジミが、タキオンが。今までカイザーに言えなかった言葉だったから。

 ふたりはカイザーと同じ、【帝国(セントラル)】に属するノリモンだ。同じチームの者として、たとえ真実であってもカイザーのパフォーマンスを落としうる情報を与えることはできなかった。

 だがポラリスは違う。既にレース自体が終わっていること、そして彼女自身がその喪失を乗り越えて再び動き出そうとしている段階に既に到達していることもあって、情報を開示することに一切の戸惑いは無かった。

 

「――真也達がいなくなっちゃって、まだ見つかってないって聞いて、ポラリス辛くなっちゃって。昨日の夕方に、ようやく元気になれた。でも、カイザーは違う。レースに出て、それで勝ってる」

 

 ポラリスは既にカイザーがそれを克服した上でレースに出場しそして勝利を収めたのだと、本気で思っていたのだ。事実に反して。

 

「……おい、それってどういうことだ」

「えっ?」

「そこまでだ、ポーラーエクリプス。そこから先のセンシティブな内容は【帝国】の問題だ」

「あっ……、ごめん」

 

 カイザーの疑問に答えようとするポラリスを、タキオンは強く止めた。そして訪れてきてくれたことに礼を言ってから、ポラリスを帰して控室の扉を閉めたのだった。

 

「おい、タキ姉」

「なんだ?」

「一志の声を聞きたい」

 

 タキオンの動きが、止まった。

 それはカイザーが正しい現状の把握を行うのには充分すぎるものだった。

 

「知ってたのか」

「言っただろ、アタシが渡したトレイナーもわかってねぇって。その時に見つけたら教えてほしいと、いなくなったトレイナー全員の名前を聞いてる。その中にいたんだよ」

 

 そのリストは、ポラリスもまた受け取っていた。だからこそ、タキオンはカイザーのパートナーであるトレイナー、名松一志の行方がわかっていないことを把握していたのだ。

 そして、ポラリスもまた然り。だからこそ、当然カイザーもその事を知っているものとして接していたのだ。

 

「なんで、だまってた」

「レースにならねぇだろ、お前」

「知らなかったの、俺だけかよ」

 

 だがタキオンの言うこともまた事実であろうことは、カイザーが一番よく理解できてしまっていた。今こうして改めてその報せを聞いて、心の安寧が揺るがされた。この状態で24時間耐久を完走できるかどうかと聞かれれば、怪しいと言わざるを得ない。

 そしてそれを理解できてしまったからこそ、カイザーの怒りはやり場のないものへと変わってしまった。レールレースはエンターテイメントであり、カイザーはエンターテイナーなのだから、ギャラリーの期待には全力で応えるよう努めなければならない。ポラリスと違って、こちらは実際に完走したことが示す通り走行に支障がない状態だったのだから、そこに支障を増やすわけにはいかない。

 エンターテイナーとしてのカイザーの気持ちと、1名のノリモンとしてのカイザーの気持ち。それらが混ざり合わずにモザイクとなってカイザーに襲い掛かる。

 

「……こんちきしょうめ!」

 

 苦し紛れに吐き出すことができたそのカイザーの乾いた言葉に、タキオンもナジミも声をかけることはできなかった。

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