目を開けたら、映っていたのは小さな孔のたくさん空いた長方形の石膏ボードが敷き詰められている天井だった。
そしてその天井からはカーテンが吊られていて、まるで病室のような……そんな感じのする、風景だった。
なんで、ここにいるんだっけ?
確か、……あっ、そうだった。ルースの落し子の対応に出てた時に
ってことは、あの後倒れて誰かが運んでくれたんだな。
……あれ?
でも、JRNの救護室ってこんなんだったっけな。確かカーテンの色は緑色だったような気がするんだけど。
じゃあ、どっかの病院? なんか、気づかないうちに大変な怪我とかでもしてたり……?
そう思って確認しようとして、体を起こしてみる。腕も足も、少し動かしてみても思った通りに動いてくれる。大きな怪我とかをしてるわけじゃなさそうだ。それと同時に、周りの感じからここが少なくとも病院じゃないなってことはわかった。
ナースコールが、ない。それに設備だって妙に簡素なように見えた。どちらかって言うと、救護室とか、そっちのような感じがする。
「……ここ、どこだ?」
声も出る。そのことに少し安心したところで、声を出したから気がついたのだろうか、区切りとなるカーテンが外から開かれた。
「おや、目を覚ましたかい?」
「はい、えっと……」
「良かったぁ。君、息はしてるのに運び込まれてから丸一日以上眠ったまんまだったからさ」
目を覚まさないんじゃないかとね。そうおどけて言いながらそのノリモンは手元の端末をいじりだした。
「すみません、心配をかけたみたいで」
「礼なら君をここに担ぎ込んできた子に言いなよ、今呼んでるからさ。そもそもここに運び込まれた子の面倒を見るのは僕の仕事だからね」
当たり前のことをしたまでと、軽く僕の言葉を流す。
いや、待って。担ぎ込んできた子? 僕を、この知らない所に?
なんだろう。恐ろしい感じがしてきた。そもそも、武蔵国分寺公園には、ラッチの外には2つのユニットが待機していたはず。彼らが病院でもJRNでもないどこかに僕を担ぎ込むだろうか?
恐る恐る、僕は尋ねた。
「あの、1つお伺いしたいんですが。ここって……?」
「うん? 保健室だよ?」
さも当たり前かのように――いや、実際にそうなんだろう、そんなこたえが戻ってくる。
じゃあ、一体。
ここは、どこだ?
保健室、というからには恐らく何らかの教育機関だと思う。だとしたらなんで、僕はここに担ぎ込まれた?
担ぎ込んだのは、一体、誰?
そう頭の上に疑問符を浮かべていると、その保健室の主の方もどうやら気になることがあったみたいで僕に質問を投げかけてきた。
「君、どこから来たんだい? 学園の者じゃないよね、見たことない顔なんだけど」
……学園?
聞き覚えのない単語が、耳に入る。
「新小平、です」
「なんだ、すぐそこじゃん」
すぐそこ。この反応は2つの意味を持ってる。
1つはここが、文字通り新小平からそんなに離れてない場所だってことだ。……学校ならいくつかある。大学だって知ってる。でも、わざわざ『学園』って単語を使うような場所は僕は知らない。自慢じゃないけど、スクールで学ぶために上京してきてから散歩がてらに近所の散策はしてるから、知らないってことはそんなにないはず。
だとすると、ここでもう1つの意味が効いてくる。新小平といえば、ある程度学のあるノリモンになら半分以上はJRNのことだと伝わるはず。なのに、この場では。どうやら新小平というのが特に意味を持たない一般的な地名として処理された。
それは一体、どういうことだろうか? この方は、JRNが新小平にあるという事を知らないか……いや、待てよ?
ふと、自分の胸を見る。JRNの職員であることを示すピンバッジは、いつも通りそこに留まっていた。ならばどうして、どこから来たという質問を? この方はJRNをそもそも知らない? そんなことがあるのだろうか?
ここは、いったい、どこ? ……まさか。
その可能性に気がついた瞬間、背筋を冷や汗がダラダラと滝のように流れた。
「それで、学園には何しに?」
「わかりません。目が覚めたらここに」
「うぅん? じゃあ目が覚める前は何してた?」
「……戦ってて、それで吹き飛ばされたんです」
信じてもらえるかはわからないけれど、超次元だとかそういった話をしてもむやみに混乱させちゃうだけだ。これでもなるべく簡単にわかりやすく伝えたつもり。信じてもらえるかはわからないけど。
「戦ってた? 君が? しかもそれで学園の敷地にってことかい? 俄かには信じがたいね」
そう言いながら、その方は僕の目をじっと覗き込んだ。
「なんですか」
「なるほどね。あれだけ寝込んでて、目が覚めて直ぐに嘘を吐く余裕があるとも思えない。とりあえずは嘘は無いと判断しよう。で、どこで戦ってたら学園にまで飛ばされることになったんだい」
「武蔵国分寺公園です、都立の」
僕がそれを伝えた時。急に穏やかだった目の前の顔が歪んだ。
「聞いたこともない公園だね。名前からすればどこにあるかは容易に想像できるけど」
「じゃあそこからってことで」
「それが、そういうわけにもいかない理由があるんだよね」
ピシャリ。彼は後ろ手でカーテンを閉じながら、真剣な表情で僕の横へとやってくる。
「どうやら君からは話を詳しく聞かなきゃいけないみたいだ。武蔵國の国分寺の跡地があるのは、この学園の敷地の中だよ。ここ、中央鉄道学園のね」