ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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2便前:学園

「目を覚ましたって本当ですか」

 

 カーテンの裏で、ガラガラと引き戸が開けられた音がした。すると彼は逃げるなよと耳打ちをして、カーテンの外側へと箱乗りのように首を出した。

 

「あぁ、早かったねトウマ。本当だよ、ほらこっち来て」

 

 もう一度カーテンが開けられて、トウマと呼ばれたノリモンが姿を表す。どうやら彼女が僕をここに担ぎ込んでくれたらしい。

 

「本当に目が覚めてる。良かったあ」

「ここまで運んできていただいたみたいで」

「いいのいいの、困ってる人を見つけたら助けるのが当たり前でしょ?」

 

 そう言いながら彼女は彼に促されるままに、僕のいるベッドの横にパイプ椅子を展開して掛けた。

 

「さて、改めて自己紹介を。私はクモエコロ、ここ学園の養護教諭をしているよ」

「一応はこの学園の生徒会役員を務めさせてもらってる、トウマっていうの」

 

 そしてふたりは、暗に僕に名乗れと圧力をかけるようにこちらを覗き込んだ。別に助けてくれたんなら、拒むつもりもないんだけど。

 

「僕は山根真也と言います」

「ひょっとして、人間?」

 

 ……え?

 ひょっとしなくても何も僕は生まれてこの方、人間をやめたつもりもないんだけどなぁ。

 そんなふうに困惑する僕を置いて、クモエコロさんはトウマさんの方に詰め寄り始めた。

 

「話が違うんだけど、トウマ?」

「そんなはずないよ? だって空からこの人が降ってきた時、確かに力を感じたもの。ただグラウンドに落っこちて土煙が収まってからはそうじゃないけど、じゃなかったらあんな高いところから落ちてきて外傷がないなんて……」

「待って、僕って空から落ちてきたの?」

 

 いやまぁ、あんなS(シールド)バーストをもろに受けたらそうはなるんだろうけど……。

 

「ふーむ……。そうだ、山根君といったね? 君はそれ以外に名前を覚えてたりしない?」

「僕の名前はただ1つ、山根真也だけですが……」

 

 目覚めたときから薄々と感じてはいたけれど、決定的に何かがおかしい。なんだろう、まるで閉鎖されたコミュニティに踏み入ったかのように、こっちの常識が通じなくて逆に向こうの常識を僕が持っていないかのような――事実そうなんだろうけど――、妙に気持ちの悪い疎外感があった。それが何に起因するものなのかはもうわかっている。わかってはいるけれど、だからといって心地のいいものじゃない。

 そしてその妙な違和感は、どうやら向こう側も持っていたみたいだ。

 

「トウマ、どう思う?」

「不慮の事故で学園内に侵入してしまったのなら、回復しだい去っていただこうかなって思ってました」

 

 ……うん、まぁこれはそうだ。

 僕がJRNの中で負傷者を見つけたとして、救護室に連れてったらよっぽど酷い傷がない限りそうすると思う。

 

「まぁそれが普通だろうね」

「だけど、このまま学園の外に出せば良からぬことが起こりそうな雰囲気がするの。だからさ、ちょっと話し合わなきゃいけないかもだけど落下の衝撃で記憶障害になってる、ってことにして保護かな」

 

 トウマさんは懐から端末を取り出して、何らかのメッセージを送りながらそう提案した。

 

「いや保護って何?」

「それがいいと思うよ。まぁ、生徒会なら悪いようにはしないと思うよ? それに君は何も知らないのだろう? 学園の事も、おそらく私達のことも」

 

 まだよくわかってない僕を置いて、クモエコロさんがその判断を支持する。そんなこと突然言われても普通に困るだけなんだけど……?

 

「あのですね、僕だって帰るべき場所があるんですが」

「それはそうだろうね。でも、武蔵国分寺公園、だっけ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……っ!」

 

 脳裏に何度もちらついて、一度も考えないようにしてたことを。

 だってそうだ。そもそもリヂルさんとあった時点で、僕が元の次元から飛ばされていた事は確実なんだ。それで元の次元に戻すって彼は言っていたけど、そこで何かを間違えたか、或いはトラブルが起きたか何かで別の次元に送られてしまった……そう考えるのが自然なような気がする。こうやって来られたのだから帰る術はあるはずなんだけど、学の浅い僕には到底見当もつかないスケールの大きな話だ。

 落ち着こう。焦っても、どうにもならない。深呼吸をしてから、僕は心を落ち着かせてクモエコロさんの質問に答えた。

 

「正直わかりません。本当に、帰れるのかすら」

「その顔は状況を私達よりも把握しているように見えるね?」

「僕はここに来る前の事を覚えていますから」

 

 だからこそ、わかる。わかってしまった。

 『超次元空間にある次元は、あらゆる可能性を否定するものではない』。鳥満博士が前に言っていた言葉だ。そしてそれは、空想のものとして認知されがちなものすらも。

 だって今、僕はおそらく、パラレルワールドとでも呼べるような次元にいるのだから。

 ならば僕は……かえって、学園を出るわけにはいかない。学園を出たところで居場所なんてないし、この次元に戸籍なんてないのだから福祉の対象になるかすら怪しい。ならば保護すると言ってもらえているのであればお世話になったほうが良さそうだ。

 

「トウマさん。ここは学園と言ってましたよね。歴史か地理の教科書があれば見させていただきたいのですが」

「わかったわ。君の荷物も生徒会室の方で預かってるし、案内するわ。……歩けますか?」

「その前に。保護とはどういうことなのかを教えていただけますか」

 

 その質問を投げかけたとたん、チカリとトウマさんの両肩が赤と緑に光った。……船のノリモンかなぁ?

 

「学園があなたの身分を保証します」

「どうやって。生徒会にそれほどの権限があるとは思えませんが」

「……まぁ、学校の感覚ならばそうだよね。でも、()()()()()()()()

 

 トウマさんはそう言いながら、ニコリと微笑んだ。

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