「お前、すごいな」
「よしてくれ。全てが全て、俺の力だってわけじゃねえ」
仲木戸俊成の賛美に、成岩富貴はそう返した。
「それでもすごいぞ。力を借りられるってことは、それほどの力を持つ者からお前が認められてるってことだろ?」
「まあ、そう言われればそうなるな」
「ならばお前もすごいんだろうよ。その力があれば、『世界をつなぐ柱』の真実にだってたどり着ける気がしてきたぜ」
仲木戸は世界の謎を追う冒険者である。彼の冒険の生涯の目標たる『世界をつなぐ柱』には、この世界の外側に広がる未知なる道へとつながる門があると広く信じられているのだ。
そんな彼が冒険のさなかで見つけた、虚空にぽっかりと空いた穴。そこから降ってきたのが、正にいま彼と行動を共にしている成岩であった。
この男は、自らの夢見た世界からやってきたに違いない。そう直感的に感じた仲木戸は、彼を助けて冒険への同行をもちかけた。
「本当にあるのか? その『世界をつなぐ柱』ってヤツは」
「不思議な奴だな。柱が世界の外側につながってる事はすぐに信じたのに」
「その柱が実在するなら、な。全てをすべて信じてるわけじゃない」
仲木戸は知っている。この世界の誰しもがこのダンジョンの最奥部の柱の存在を疑ってなどいないことを。だからこそ、この発言も成岩が本当に柱の向こう側から来たのではないかという確信を一層深める材料として仲木戸は受け取った。
確かに、世界の外側に繋がる門の存在は一般的にはすぐに信用できるものではない。だが成岩は薄学ではあるが知っていた。ラッチが超次元の技術を使用していることを。
そして、夏に発生した後輩の一時的な行方不明の知らせを受けて、まさに追加の知識を得んとしていたさなかでの、それも同一の事象により発生した異次元への漂着。その偶然の積み重ねにより、成岩は自らの身に何が起きたのかを推定するのに大きく時間を要さなかった。
そして、仲木戸の与太話とそれを重ねて、その中の真実の存在をすみやかに認めることができたのだ。
「まあいい。百聞は一見に如かずと言う。着いてきな」
「んなすぐたどり着けるのかよ」
「柱にはな。……ほら、そこだ」
仲木戸の指差した先には、洞窟の中に大きく広がった空間。その中央部に、洞窟の岩肌には似合わない真っ赤な太い柱が鎮座していた。
「あれが『世界をつなぐ柱』だ。このダンジョンの深い階層には必ずこれが刺さってる部屋がある。だから俺達冒険者の間ではコイツがずっと下の階まで続いていて、そのどっかに中に入る扉があるんじゃないかって噂されてるのさ」
「ふぅん? ならわざわざ遠回りなんてしなくてもよ、《厚(THICKNESS)賀》!」
そう言うと成岩はオオカリベを振りかざし、柱に殴りかかった。仲木戸はそれを止めることはしなかった。無駄だとわかっていたからだ。
そしてオオカリベの先が柱に当たるか否かというその時。その接触点の周りに薄っすらと赤い膜のようなものが光ったのを、成岩は見逃さなかった。それは彼にとって非常に馴染みの深い、よく知るもの――シールドであったからだ。
「無駄だよ。柱は誰にも壊せない。それに、柱に沿って地面を掘り進めようとした冒険者も過去にいたけど、途中から地面が掘れなくなることは何度も報告されてる」
「……へえ。だが俺の見込みじゃ、こいつ割ろうと思えば割れるぜ?」
そう言いながら、成岩はチッキケースに手を伸ばして目当てのものを取り出せば、すぐさま光を呼び寄せた。
「――大いなる石狩の川の流れよ、ロンジに注ぎてその力を満たしたもれ! イシカリトス号、このオモテに宿れ!」
そして柱と同じ赤い光に包まれてから少しして。頭部の髪色と装飾が象牙色と赤ベースに変わり、黄金色のシャチホコの髪飾りを携えた成岩が姿をあらわした。
「成岩氏、それは……」
「話は後だ。下がってろ、只じゃ済まないかもしれんぞ。……《イシカリサンダー》!」
髪飾りの間から放たれた成岩による雷撃が、柱に突き刺さる。
それは柱の表面に……いや、柱の表面を覆う赤いシールドにひびを入れて、それを割り切る勢いで削っている。
「柱が、砕けようとしている……? 何が起きてるんだ?」
「知らんのか? ありゃバランスのシールドだ。だからこうすりゃ割れるんだ、よ!」
成岩が攻撃を止めれば、限界を超えた柱のシールドが、割れた。成岩はにやけるも、その覆われていたものを見た次の瞬間、その笑顔は急に険しいものになった。
そこにあったのは、シールドの割れる前と何一つ変わらない柱の姿。再びオオカリベを突き立てれば、また同じようにシールドに阻まれている。
「シールドの内側にシールドだと? 2枚で済む……訳が無いな。まさかとは思うが、この赤色、
そう言いながら、成岩はシールドに手をおく。……僅かにではあるが、柱が外に拡がって、押し返されているのを、彼は感じとった。鮫の歯めいて内側からどんどんとシールドが形成されているのだ。
成岩は思考の渦に入りながら、計算を回す。そもそも複数のシールドを張ってくるノリモンですら、成岩の知識の中にはない。その上何枚あるのかすらわからないシールドを削りきることなど、果たして実行しうるものなのだろうか?
そんな成岩に、現実に戻ってきた仲木戸がようやく声をかけた。
「だから言ったんだ、
「……理論上は可能性がありうる、ってレベルだな。このシールドを割るのは」
「さぁ、もっと下の階層に……っておい、理論上は行けるのか?」
「まぁな」
だがしかし、本当に割り切ることができるかは当の成岩本人にもわかっていなかった。
シールドにいくらダメージを蓄積しているとて、外部からの圧力があればそのシールドは割れるかわりにそこにとどまり続ける。それ故に、シールドを割るには一度攻撃の手を緩める必要がある。その手間と時間を考えると、シールドを1枚割る時間があればその1つ内側のシールドを前進させて外側の位置に持っていくことは容易なように思えた。
だが、いくら玉ねぎめいた多層構造になっていようが、必ず限界というものはある。その皮を剥き続ければなくなるように。つまり、シールドの補充が間に合わない程に早くシールドを割りつづけることができれば可能なはずなのだ。
「問題は、内部でどれだけの早さでこのシールドを補充できるのかってとこだな。それによっちゃ当然不可能だ」
「お前すごいな、この柱の構造までわかるのか」
「ほぼ推測だぞ。俺が柱の主ならそうするってだけだ」
主? その単語は、仲木戸にはいまいちすぐにはピンとこなかった。そんな彼の顔を見て、成岩はさらに言葉を加えた。
「シールドには内側と外側が明確にあって、内側には必ず持主がいるんだよ。つまりこの柱、間違いなく中に誰かがいる」