東京都国分寺市、都立武蔵国分寺公園。
戦いの傷跡として『無』の遺された円形広場は、未だに厳重な警戒態勢が敷かれ、有識者による調査が昼夜通じて行われていたていた。
そして、その様子を遠くから望む者が、独り。
Cycloped。五元神のうちの1柱だ。
「まさか、ここまで大きくなっちゃうとはね。封印されてる間にもパーシーが力を分け与え続けてたのかな? いや、でも」
あんなめんどくさがりやのあの子がそんなことするわけないよね。そうつぶやきながらCyclopedはこの次元を後にして超次元の彼方へと向かった。反対側から『無』を覗き込むために。
Cyclopedはこの『無』が何たるかを知っている。この『無』はルースの落し子が次元に開けた穴であると。そしてこの穴を正しく整備して門としてしまえば、
『無』の裏側から近寄ってゆくCycloped。そこで超次元の力の流れを感じるにつれて、彼女の瞳の色には次第に興奮の色が差されてゆく。それはこの穴が彼女の想定よりも、ずっと素晴らしいものであることに因るものだった。
「なるほどね。ここでこれを門にしちゃうことはとってもかんたん。だけど……それじゃ、面白くないよね」
『無』の裏側で、Cyclopedがそうつぶやいたとき。棒が一本、するすると穴の向こう側から伸びてきた。鳥満らがこの『無』の調査のために挿入したものである。
それをみてCyclopedはまた1つ面白い事を思いついて――その棒をガシリと掴んだ。少しすると、向こう側で何か引っかかりを感じたのだろう、棒は上へと引き上げられて、そして彼女もまた『無』と呼ばれる穴を通過して、武蔵国分寺公園へと現れたのであった。
「みんな! 誰か出てき……嘘でしょ」
棒を引き上げていた佐倉空は、その姿を認めるなりその存在がいかなるものであるかを認め、驚愕の声を上げた。そして棒と共に現れたその存在を『無』の横にていねいに移動させると、同じように驚く者もいる他の調査員の横に並んで、その存在と向き合うように立つ。
「Cycloped、様……?」
誰かがそう、呟いた。その名を知らぬほど無学なものなど、そこにいるはずもなかった。
そして自分の名を呼ばれたのを認識したCyclopedは、ゆっくりと起き上がって、その言葉に返したのだった。
「うん、そうだよ。はじめましての方ははじめまして、かな」
その挨拶で、まだ驚いていなかった者たちも驚くことになったのだった。
◆
シエロエステヤード。欠痕の門を閉じ、かわりの門をたてることで全てのノリモンに祝福を届けるべく、スタァインザラブを筆頭に活動する集団である。
そんな彼らもまた、『無』をながめていた。公園の周囲は警視庁とJRNにより封鎖されているが、公園の北側には中央線賀走っている。この駅間の定期券を購入し一区間を何度も往復することで、わずかながらも武蔵国分寺公園の『無』を観測し続けることができるという魂胆である。そうして各々が何度もその『無』を目に焼き付けた後で、彼女らは国分寺市内の拠点の1つへと移り、今後の計画の確認に入った。
「どう思われましたか、スタァ様」
ブゥケトス――JRNを襲撃し、ルースの落し子の封印を解いた当のノリモンが、そうスタァに問いかける。
「想像以上だよ。あれならばきっと、半年もすれば立派な門が作れる」
「半年も!?」
そう驚きの声を上げたのはジュゥンブライドだ。彼は長くても四半期程もかければ門ができると考えていた。
「今もあの穴がJRNの管理下にあって、それが当分解けなさそうだからね。まずボク達の管理下に一部を置くだけでも1ヶ月、そこから少しずつ門を作りながら仮の門を作り上げるのに3ヶ月。あとは妨害による進捗の遅れを考慮して2ヶ月かな。もっとかかるかもしれないけど」
スタァが懸念しているのは、JRNによる妨害だ。彼女はノリモンになる前から、姉たるトシマの性格を知っている。故にこの門の構築をトシマらが妨害しにかかってくることは容易に想定できることだった。
トシマは力による現状の変更を認めない。現在のパワーバランスを保ち続けることこそが最善であり恒久的な平穏をもたらすものだと思っているがゆえ、後手後手で均衡を取りに来るか、あるいは均衡を崩す行為を妨害しにくる。それは進歩を拒み、停滞を招くものであるとスタァは考えているが、トシマはそれを正しいと信じて疑わないのだ。
そして門の建造は間違いなく、このバランスを崩す行為にほかならない。ならばトシマは必ず妨害を試みるだろう――それがスタァの認識だった。
「でも、トシマ姉さんより情報を持ってるのはボク達だ。そこのアドバンテージがあれば、遅くはなっても必ず門を開ける。そのためにも……みんな。改めて、力を貸してくれないかな」
スタァはここに集まる他の4名を順番に見つめた。ブゥケトス。ヱンゲェジリング。ライスシャワァ。ジュゥンブライド。みな、スタァの考えに賛同し、新たな名を授かった者たちだ。
4者は次々とそのスタァの言葉に同意し、円陣を組むように伸ばされた手の上に手のひらを重ねた。
「ファイ・オー!」