参宮五十鈴は困惑していた。彼はサイクロの派閥で五元神について調査を行う研究員でもあるトレイナーだ。
他の行方不明となったトレイナーと同じく、彼も別の次元に辿り着いたのだが、彼の場合は辿り着いた場所とタイミングが悪かった。
参宮が辿り着いたのは、ちょうど儀式を行っていた地下神殿の祭壇だったのだ。
その結果、あれよあれよという間に参宮は神として仕立て上げられてしまった。
「おれは神ではないと、何回言えばわかるのですか」
「おいたわしや、権現の際の衝撃で記憶が混乱してしまっているのでしょう」
「あなた方の信じる神とは、その程度の存在なのですか」
「あまりご自身を卑下なさらないで下さい」
何度参宮がそうではないと反論しようと信者はこの調子である。恐らく自らの儀式の失敗を認めたくないがゆえの行動だろうと彼は考えた。彼にすればはた迷惑な話である。
だからこそ参宮は、何もしなかった。巫女や供人という名の監視役が四六時中ついているとはいえど、トレイニングしてアマテラスエンジンの力を借りれば脱走することは十分可能だと考えられる程度だ。だがしかし、この信者らの集団の大きさがわからない以上は神性を高めてしまうような手段をとるのはあまり好ましいものではないと判断したのだ。
参宮にできることは、彼の知識にある数多の神話の神々の行動をリストアップして極力同じ行動をとることを避けることだけだった。そうして神性を失わせてゆけば、ゆくゆくは呆れられて解放されるはずだと。
幸いにして、囲われていることもあり衣食住には困らない。持っていたチッキケースなども勝手に神具とみなされ、畏怖されて信者は触れようともしないこともまた幸いだと言えた。ただ、神殿が地下にあるからなのか――実際はそれ以前の問題なのだが――端末の通信は遮断されており、外の様子を信者に尋ねても真面な答えが返ってこないことは参宮の不安を加速させていた。
そんなある日のことだった。神殿に襲撃者がやってきたのは。信者たちはあっという間に制圧され、生きのこった者は参宮に助けを乞いに集まるほど。
そのとき初めて、参宮はこの教団が大した力を有していないことを知った。ならばもう我慢する必要もないだろうと、彼はトレイニングした。
とたんに、集まった信者は沸き上がった。そして参宮が音のする方へと向かった時、その顔に光が戻ったのだった。参宮が彼らの期待通りに動くつもりなど到底ないことを知らずに、その目の前に現れた救世主に希望の光を見たのだ。
そして参宮は、侵入者を負傷させた。彼が脱出するのに必要最低限な数だけ、なるべく後遺症の残らないように。侵入者のやってくる方を、外の匂いのする方を目指して。
参宮はその脱出を経てなお、真実を知ることはできなかった。
★
星野貴大は、その写真を見て驚愕した。そこに映っていたのが彼の知る者であったのに対し、その公開されているプロフィールが彼の全く知り得ぬ者であったからだ。
「……これはどう見ても、カリーナの参宮氏のトレイニングした姿。しかし新興宗教カルト団体の教祖とは如何に?」
その写真のある記事では、この男はカルト団体のアジトをつきとめた治安団体が捜査をしているときに逃げ出したと記されている。だが星野の知る参宮は研究者であり、カルトとは程遠い人間だった。いわんやその首謀たる教祖をや。
だが、これを見て星野は安堵した面もある。1つは少なくとも参宮は同じ次元に飛ばされていることがわかったこと。1人での活動がほとんどないJRNで活動していた星野にとって、見知らぬ次元に1人だけというのは正直多少心細い面もあった。そしてもう1つは、そこに映されているのが
そして星野はeチッキによる超次元通信で、あの時発生した事象の報告をJRN本部より受けている。eチッキを持たぬトレイナー――そこにはもちろん、参宮も含まれている――と音信不通になっていることを含めて。ゆえにこの2点から示された星野のすべき行動は、ただ1つ。
「一刻も早く合流しなくては」
心細さを埋めるため。帰還の術を共に探るため。そして、この事を恐らく知らぬであろう参宮が
その洞窟の周囲は、未だ捜査が行われていることもあり厳重な警戒が敷かれていた。星野がそこに到着したとき、ちょうど洞窟の中から拘束された信者が数名ほど連れ出され、車へと移されているところだった。
「おっと、君。この洞窟に何か用かな」
治安組織の捜査員が1人、洞窟に近寄らんとする星野を止める。
「この男を追っている」
星野はそう言って、件の新聞の写真を見せた。
「ほう? こいつの知り合いか?」
「一方的に知っているだけだ」
「……被害者か。悪いけど、こっちでもまだ見つかっていなくてね」
そう言う捜査員を見て、星野は率直にこう思った。コイツらの感覚は鈍すぎると。その地に未だアマテラスエンジンの技の影響が漂っているのを星野ははっきりと感じ取ったからだ。それを追える今ならば、こんなところにもう用はなかった。
「そうか。早く捕まえてほしい」
「おうよ、まかせときな」
「失礼した」
そして星野は元来た道を引き返すふりをして、アマテラスエンジンの技を追いはじめたのだった。