ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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8レ前:オタクってこわいね

 日曜日。それは、毎週必ず訪れる休足の刻。

 ユニットやラボによっては別の曜日になることもあるけれど、早乙女さんもベーテクさんも日曜日には働きたくないようで、僕もこの曜日が休みなのだ。

 そんなわけで、今日は特になにか用事があるわけでもないけれど、都心の方まで出てきている。

 東京という街は、人が集まるだけあって、お金や情報が集まってくる。家電量販店に入れば、各メーカーさんの最新の旗艦モデルがずらりと並べてあるし、そういうのを見ているだけで楽しくなれる。そして、大きな市場があるということは、とても暴力的なことに誰が求めているかすらわからないようなニッチなものですらも採算がとれてしまうことを意味する。僕の地元では到底考えられなかったようなお店が、東京にはわんさかあるのだ。

 だからトレイナーズスクールに入るために上京してからは、休日はそういう変なお店をぶらぶらと覗いたり、あるいはかさばらないものであれば財布と相談してお買い上げしたりするのが趣味になっている。

 今日僕がやってきたのは、千代田区の神田神保町という書店が集中する一角だ。一言に書店と言っても、そこにある品揃えはその本屋さんの性格が出る。なんなら、一般的な書籍だけでなく、逸般的な書籍が置かれていることまである。一般販売されない内部資料としての性質が高い書籍であったり、あるいは同人誌と呼ばれる内輪向けのアマチュア誌まで、本という形態さえ取っていればあらゆる本が並ぶ可能性がある。前者はJRNの図書館にも割と置いてあるからいいんだけど、後者はそんなことはないから、今日の目当てはそれだ。

 同人の専門書や技術書の類は、JRNをはじめとした各種機関がわざわざまとめていなかったり、あるいは公開していなかったりする情報が何故かきれいに纏められている事がある。後者に関しては一体コンプライアンスとかどうなってるんだと気になる事もあるけれど、よくよく読んでみれば、そんなリークはなくても観測からの推測で答えを弾き出して、しかもそれを正直に推測として記述していてコンプライアンス的に全く問題がないのである。オタクってこわいね。

 そして今日、そんなこわいオタクの力を借りにきたのは、何を隠そうそういった情報を僕が欲しているからだ。

 

 僕が時々訪れている本屋では、ノリモンに関する書籍はジャンルによって5階と6階に分散しているけれど、今日用事があるクィムガンまわりの情報が転がっているは5階の方だ。ここにはトレイナーを目指す初学者向けの本から、組織や会社に所属していない野良のトレイナーやノリモンによって書かれた実戦録やそういった人向けへのノウハウ本まで幅広く揃えられている。

 そう、野良だ。彼らはJRNとは違って、わざわざどんなクィムガンへでも対応できるようにユニットを組んでいる訳ではない。だからきっと、何かしらJRNにはない特殊な技術でも持っているんじゃないか、と思った。

 

 ……のだけど、それは幻想に過ぎないことに気づくまでに開いた本の数は片手でおさまってしまった。基本的にはどの本も『駄目そうなら通報してプロを呼ぼう』という普通に考えたら当たり前の対応方法で、他に得られた有益な情報と言えば、それを呼ぶ基準として『発生したばかりのクィムガンはまだ有色のシールドを出す能力を有しておらず、その1時間弱の間にシールドを削りきれずに有色のシールドが出てしまったことがわかったら』という事が書かれていただけだった。そもそもなんでJRNまで出動要請が回ってくるかを考えたらわざわざここまで来なくても気づけたことじゃないか。

 まぁでも、クィムガンが最初は無色のシールドしか出せないことを記していた250ページ程度の同人技術誌『Kymgan Detail File』は、まだ僕の知らない情報が載ってる気がするし、知っていることでも見た感じ結構詳しく正確に記されているから、3000円弱するけど買っておこう。

 それに、今日来たのはその1つだけが目的じゃない。他にも気になっていることはいくつかあるので、場合によっては上の階も含めて本を物色しよう。

 

 そんな感じで他にも良さげな本を数冊ほどピックアップして、レジに並んだ僕は驚愕した。

 

「8点で、16500円になります」

 

 うそだ、そんなはずはない。

 3000+2000+2500+1500+1000+2500+1500+2500=16500。この数式は間違っている*1

 僕は1秒ほど悩んで、デビットカードを端末に差し込んだ。……こんなにたくさん買うつもりじゃなかったんだけどなぁ。でも、この前の手当があるからたぶん大丈夫なはずだ。うん。最悪晩ごはんがまた大根(1本98円)とか油揚げ(5枚入り・95円)とかになるだけだし。

 

 そうして買った本を背負い鞄に入れて、書店から出た僕の目の前に現れたのは、靖国通りを左から右へと爆走する小型のクィムガンの姿だった。

 ……なんで?

*1
間違っていない

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