流石にこの量を英語で書いたら読みにくいですので
英国はミッドランドのダービーに滞在するイノベイテックにその報せが届いたのは、その発生から数日が経ってからだった。
「ベーテク、日本から手紙だ」
「ありがとう、ランサー」
ベーテクはマグカップでミルクティーを飲みながら、ダービーでの協力者であるクリムゾンレッドの髪を持つThe Lancerからその国際郵便を受け取って読むと、すぐさま顔を真っ青にしてマグカップをその場に落としてしまった。その様子を見たランサーは、何か悪い知らせでも見てしまったのかとベーテクに声をかけた。
「どうした、ベーテク」
「日本が、JRNが大変なことになっている。できればアドパスくんを呼んでほしい」
ベーテクの下に届いた報せ。それは彼のパートナーでもあり、帰るべき場所でもあるトレイナー成岩富貴と、その後輩であり何度も顔を合わせた仲である山根真也を含めた8人の行方がわからなくなってしまったというものだった。ベーテクそれを口に出しはしなかったが、その表情はランサーに緊急事態を悟らせるのには十分すぎるものだった。
「何だと!? ……おい、カリバー! アドパスはどこにいるか知ってるか」
「探してきまっす!」
ランサーは助手のExcaliburにAdvanced Passengerの捜索を頼むと、すぐさまベーテクの背中に手をあてて寄り添った。
「何があったのかは知らないが、その表情を見るに辛いことがあったのだろう。仮に今すぐに日本に戻るべき事象ならば、それを止めることはしない」
「済まないね」
「いいんだ、もう既にお前からは多くの事を教わった。最初の契約は果たされている。本音を言えばできるだけこっちに留まってほしい面も当然あるけれどもな」
ランサーはそう励ますと、未だに手の震えているベーテクのかわりにマグカップの破片とミルクティーを片付ける。ベーテクもようやく落ち着いたのか、手紙を机に置くとその後処理に加わりながら言葉を紡いだ。
「だがこのあとに視察があったはずじゃないのかい?」
ベーテクの言うとおり、年明けには英国の顔ともいえるノリモン、St Simonがここダービーを訪れる事になっているのだ。それはようやく再び活動を始めたダービーの、ひいてはその功労者であるアドパスとベーテクへのシモンなりの興味の表われでもあった。
「あれでも英国淑女の一端なんだ、事情を話せばわかってくれる」
「聞こえてくる評判を聞く限りかなり怪しくないかい?」
そうベーテクが懸念するのにも訳があった。
シモンはその実力や功績で多くの者に慕われているが、それと共に悪いエピソードも多く知られているノリモンである。その雑多なエピソードに共通点を見出すとすれば、やりたいことはできるだけやる、やりたくないことは絶対にしないということだ。せねばならないがやりたくない事は、彼女を慕い集まってくるノリモンに押し付ける。そのようなノリモンなのだ。
ただし裏を返せば、やりたいことをするため、そしてやりたくない事を回避するためにはあらゆる努力と才能の出し惜しみをしないということでもあり、そのある意味でまっすぐな姿もまた彼女の人気のひとつとなっている。
「なぁに、あのアップルグリーンのトガリネズミ機関車は古い仲でね。扱い方はわかって……」
そうランサーがケアしようとしたとき。
部屋の扉が突然、勢いよく開かれた。アドパスのエントリーだ。
「大変な事って何ですか!」
「あのなアドパス、扉は大切に……」
「一大事だってカリバーから聞いてますよ」
その様子にベーテクは頭を抱え、そしてこの様子だからこそシモンとの長い付き合いを納得してしまったのだった。
「アドパスくん、とりあえずこの報せ、を!」
興奮するアドパスに、ベーテクはそう日本語で言って手紙を彼女の目前に押し付けて視界を遮った。彼女はそれを手に取って読むと、その興奮していた表情は蒼ざめてゆく。
「これ、本当デースカ?」
「わざわざ国際郵便を使ってまで、ドッキリを仕掛けてくるような者がJRNにいるかい?」
「……」
そうは言うベーテクであるが、彼も内心では嘘であってほしいと思っている。しかし無慈悲にもアドパスは、事実確認のため端末を取り出して日本のニュースサイトにアクセスした。その中には、確かに手紙にあったように、都立武蔵国分寺公園の空中に穴が開いている空撮写真の添えられたニュース記事が配信されている。
そのあまりにも現実離れした風景に、それを覗き込んだ者はみな言葉を失った。
「Oh……」
「何だこの写真は? コラージュ画像ではないのか?」
「いや、別のアングルもあるねぇ……」
そしてそれを以て、ベーテクらはその手紙に記されていた内容――成岩富貴らが行方不明となってしまったことを真実として認めざるを得なくなった。
だが、それが真実ならば。
「ランサー。一応の契約期間は、僕の滞在資格に合わせて半年だったね?」
「そうだな」
「なら、延長はなしでそのタイミングで帰国をしたい」
「……今すぐでなくていいのか?」
ランサーは確認のためにベーテクの顔を覗き込んだ。
ベーテクの目は、まっすぐとランサーの目に照準を返している。
「本当は今すぐ戻りたい気持ちだって無い訳じゃぁない。だけどね、戻ったところでこの事態は僕が力になれるレベルを超えてしまっている。ならば最初の約束くらいは果たしてから戻るよ。それが僕のけじめさ」
「ならそのタイミングで、一緒に渡日したいです」
「わかった。航空券は手配しておこう」
願わくば発見されてJRNで再会する成岩くんに、胸を張って言える実績を。そう心に誓って、ベーテクは業務に戻ったのだった。