ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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第6R:追いかけっこ

「なんっなんすかぁーっ!」

 

 名松一志は逃げていた。その緑の悪魔から。

 彼を追うDiamond Jubileeは、アップルグリーンの髪をたなびかせて、到底乙女がしてはいけないような表情で走っている。

 

「待ってくださいまし~! ダイアのフィアンセ~!」

「だから違うって言ってるじゃないすかー!」

 

 なぜ名松はダイアに追われるようになったのか。それを知るためには時を少し遡らねばなるまい。

 

 それはダイアが面白いもの探しのためにある無人島を訪れた時のこと。その島を探索していた彼女は、その一角にある砂浜で倒れている青年を見つけた。その青年こそ、名松一志その人である。

 他のトレイナーと同じように、名松も超次元の彼方へと飛ばされてしまった。そして彼が流れ着いた先こそ、この次元のその浜だったのである。

 だがしかし、もちろんダイアはそのような事情を知らない。そのうえ、この島に定住者がいないこと、潮の流れからこの島に自然と漂着することは天文学的な確率でしか存在しないと言われていること、そして島ごと地権者から買い上げていたこともあって、彼女はまず名松に運命的なものを感じとった。この瞬間から、彼女の脳内では彼の所有権は既に彼女の中にあった。

 

 しかしそんなダイアであったが、流石に最初に行ったことは救命行為であった。漂着から時間がさほど経っていなかったこともあり、名松の意識が回復するまであまり時間はかからなかった。

 

「う……ここは……?」

「あら~! 目を覚まされたのですね~」

 

 目を開いた名松の目前にあったのは、膝枕をして彼の顔を覗き込むダイアの顔だった。このときばかりは、彼は彼女のことを天使か女神かのように思えていた。このときばかりは。

 

「ひと? えっと、ここは……?」

 

 名松は起き上がって辺りを見渡した。片側は海で、いくつか別の島が浮かんでいるのが見える。もう片側は森のようになっていて、その向こうを見渡すことはできなかった。

 

「ここはダイアの島ですのよ~」

「島……? なぜ……?」

 

 名松は気を失う前のことを懸命に思い出そうとしていた。都立武蔵国分寺公園で戦っていた事、そこでS(シールド)バーストから逃げようとして、《エアロ・ダブルウィング》で飛び上がってラッチ際までたどり着いたものの、ギリギリ間に合わずに呑まれてしまった事を。だがどれをとっても、島に流れ着く理由がわからなかった。

 だけれども。今そこにいることだけは、どうしようもない事実だった。

 

「あなたが助けてくれたんすか?」

「えぇ、こちらに倒れてましたのよ~」

 

 そう穏やかな笑顔で伝えるダイアではあるが、既にその笑顔の裏には獰猛な獣が存在していた。だがしかし、名松はそれに未だに気がついていない。瞳を見れば気がつけていたのかもしれないが、彼女の瞼は微笑むために優しく閉じられていた。

 

「申し遅れました、Diamond Jubileeと申しますの~。ダイアとお呼びくださいまし~」

「あっどうも、僕は名松一志、トレイナーっす」

「あら~、トレーナーさんですのね~」

 

 その一瞬があだとなった。

 次の瞬間、ダイアは一歩近寄って名松の唇に唇を重ねていた。その行動に驚いた名松はコンマ数秒の後にバックステップで距離をとるも、遅すぎたことは誰の目にも明白であった。

 

「な、ななな」

「これであなたは、ダイアのものですわ~」

「ど、どういうことっすか?」

 

 混乱する頭で、名松は問いかけた。

 ダイアの論理は、こうだ。彼女の所有する島にいたのだから、名松の所有権は彼女にあると。名松にはその論理の意味が当然、わからなかった。おそらくダイア以外の誰にも理解はされないであろう。

 

「命の恩人といえど、さすがにそれはいただけないっすね。僕は僕だけのものっす」

 

 名松は怒りながらそう反論した。しかしダイアは落ち着いた様子で、追い打ちをかけて自らの支配下に彼を置こうとする。

 

「ですが、この島を出るにはダイアの船が必要ですのよ~? それにお乗りにならないのであれば、この島に来るのもまたダイアの船だけなのですわ~」

 

 つまりどちらにせよ、ダイアのみが名松の隣に立つことができるという意味である。

 ダイアは1歩名松に近づき、それに呼応するように名松は1歩下がった。腰のチッキケースに手をかけながら。

 

「ご安心なさいまし、危害を加えることはいたしませんわ。さぁ、ダイアの船でお屋敷に」

「なら、こうするしかないっすね。あんまり人前で見せるものじゃないんすけどね!」

 

 そう言いながら、青い光に包まれる名松。彼を直視していたダイアは、一瞬のけ反らざるを得なかった。

 

「な、何ですの~!?」

 

 そして名松は、ネオトウカイザーの力を纏った。

 

「そのお姿は……」

「貴女の力はなくとも、僕はこの島を出られるんすよ。《エアロ・ダブルウィング》!」

 

 そして名松は空気の翼をはためかせ、視界に映っていた別の島に向けて飛び立ったのだった。

 ダイアは目の前で起きたことを理解するのに数秒の時間を要した。そしてそれを理解したときに彼女の中に生まれた感情は、悔しいだとかしてやられた打とかというものではなく、むしろ名松への執着心を高まらせるものだった。

 

「ふふ、面白い御方。まさにダイアの隣に立つのにふさわしい。必ずや、ダイアの手で捕まえてみせますわ~」

 

 ここから、名松とダイアによる人生をかけた鬼ごっこが始まったのだ。

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