年末も近づくJRN、ウルサ・ユニットの部室。
綾部綾は今日、スクール同期にしてそのユニットに所属する北澤百合によりその部屋に呼び出されていた。
「失礼するぞー」
鍵がすでに開けられていた扉を開けて綾部が部屋に入ると、その中には呼び出した北澤の他は佐倉空のみがやや元気のなさげな顔をして座っていた。
「あ、綾部君」
「……ん? 2人だけ? 山根とかの男性陣はどこ行った?」
その質問に、2人はすぐには答えられなかった。明らかに様子のおかしい2人を前に、綾部はやや困惑した様子で近づいた。
「お、おい。どうして2人とも黙り込んで……」
「綾部君。とりあえずそこに座って。全部話すから」
「……おう」
芯の通った強い声を発した北澤。その雰囲気に、流石の綾部も何らかを察しとった。それも、かなり悪いニュースであることを。
綾部はゴクリとつばを飲み込んで、言われたとおりに彼女らの向かいにかけると、前のめりで問いかけた。
「なにがあったんだ? 結論から頼む」
北澤は一度佐倉と目を合わせて頷いてから、その綾部の問に答える。
「3人は今、行方が分かってない」
それはあまりにも突拍子もない答えだった。部室の中の時間が止まり、静寂が訪れた。
「……は?」
綾部は北澤の言葉を飲み込めなかった。頭では何を言っているのかは理解しているが、心がそれを認めるには時間が足りなかった。
綾部は立ち上がって机に手をつき、前のめりになって焦るように尋ねる。
「なぁ、北澤。嘘なんだろ? 山根達はどっかに隠れて、俺ちゃんを驚かせようとしてるとか」
だが北澤はその問いには答えずに、ただただ俯くばかりだった。そんな彼女にしびれを切らして、綾部が隣に座る佐倉に何か言ってくれと訴えた後になってようやく、北澤はかすれるような声で答えた。
「嘘じゃないよ」
その言葉に綾部が振り向いて北澤の顔を見ると、彼女の白目は走る血管が赤々と主張している。そんないたく辛い心情を抱えている様子を見て、彼も都立武蔵国分寺公園で発生した真実を受け入れた。
「本当に、行方がわかっていないんだな」
打って変わって落ち着いた口調で尋ねる綾部。それに北澤は、コクリと頷いて肯定の意を示した。
綾部は椅子に掛け直すと、両手でその頭を抱えた。
「そうか……」
「口外は無用。外向けには、大怪我扱い」
「同じJRNで友人とはいえ、俺ちゃんはまだ部外者だろうが……あぁ、そういうことかよ。俺ちゃんを部外者でなくすつもりだな?」
「理解が早くて助かる」
その時。部室の扉が、もう一度開かれた。入ってきたのは高山各務と紀勢佐奈、カリーナ・ユニットの二人だった。
「高山のおやっさん?」
「うむ? 君は確か、名松の友の……」
「綾部だ」
そこで、綾部は気がついた。気がついてしまった。やってきたのが高山と紀勢の2人だけであることに。そこから彼が真実に辿り着くのはそれほど難しくない事だった。
「なぁ委員長さんよ、例の時にカリーナもラチ内にいたのか?」
「……うん」
「なるほどなぁ。……高山のおやっさん、名松の奴は何処行った?」
高山は目線で佐倉に何らかを訴えた。彼女はそれに全部話していいと答えると、落ち着いて話を進めるべく全員に着席を促した。
「名松、太多、参宮の行方は分からぬ。今なお超次元専攻の者がかの『無』を調査中との知らせのみぞあるが」
高山はそう言って、もう一度佐倉に目線を向ける。
「……流石に、そんなすぐには掴めない」
「そっか、名松もか……」
綾部は背もたれに体重を預け、斜め上を眺めた。名松は綾部のスクールの同期の中で唯一同じノーヴルの派閥に入ったトレイナーだ。それゆえ、近ごろはかなり親しくしていた仲でもあった。
スクールの頃の1番の友人のうちの1人。スクールを出て、JRNに入ってからの1番の友人。その双方を同時に失ったということは、綾部の心情を大きく揺り動かすのには十二分すぎるものだった。
「なぁ。どうすれば2人を探しに行ける?」
「それを行う準備の為に、我々はここに集まったのだ。佐倉殿、いざ本題に入ろうぞ」
「うん、入ろう。合同での活動のこと」
そもそも、カリーナの2人がウルサにやってきた理由。それは武蔵国分寺公園で行方不明となった8人のトレイナーを捜索する活動を合同で行うための打ち合わせであった。ウルサに残ったのはサイクロの佐倉とパレイユの北澤、カリーナで残されたのはロケットの高山とバランスの紀勢。そこに重複する派閥はない。共に過半数の構成員を失っていたこの2つのユニットが組むのは当然の流れだった。
「なるほどな、それで残るノーヴルの俺ちゃんを呼んだって事か」
「そういうこと。これで5つの派閥が揃うでしょ?」
既に年明け以降に綾部のウルサへの加入がもともと検討されていたことも、この北澤の判断を後押ししていた。高山からしても、新たに参加することになる彼が行方不明となった名松の友人であることは都合が良かったので、北澤のその提案を受け入れていたのであった。
「引き受けてくれるか?」
「あのなー、友が2人もどこにいるか分からなくなって、そいつらを探すのに手を貸すことを拒むような奴がどこにいるんだ? 俺ちゃんはそこまで性根が腐ってるような人間じゃねーし」
「リーダーは高山さん、貴方に頼む」
「うむ、引受けよう」
そして今、この5人による臨時のユニットの結成が当事者の間では合意に至ったのだった。