ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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7レ後:超次元の穴の向こうへ

 都立武蔵国分寺公園に開いた超次元の穴の先には、別の次元が広がっていて、そこに生活する人々がいる。

 その事実は超次元専攻の研究者を多いに興奮させ、彼らの精神に麻薬のように影響を与えていた。

 

「eチッキの信号を解析し、その発信元へのベクトルを特定だ」

「ならば念のためアンテナがもう1本ほしい、半指向性のを」

 

 ナリタスカイもまた、調査を行っている研究員の1名だった。彼は報告の為にJRNへ戻った時を除けば、最初に到着したときからずっと武蔵国分寺公園での調査に加わっていた。

 もともと異文化コミュニケーションへの興味の大きかったスカイにとって、異次元への探訪は夢の1つであった。だがしかし今となってはもはや夢ではなく、それは現実に近く、また実施しなければならないことの1つとなっている。そしてそれを行うためには、まずは超次元の座標系を確定し、向こうの次元の正確な位置を知ることが必要だった。

 

「1つずつ、1つずつ明らかにしてゆくしかない。この久遠に広がる闇のような謎を、全て解き明かすまで」

 

 幸いなのは、飛ばされてしまったトレイナー達もまた、超次元航行の術を持ってはいない事だった。それゆえ、この武蔵国分寺公園から彼らは一直線に飛ばされたという仮説、通称爆心仮説がおそらく正しいとされている事。そして、それは目の前の『無』の解明されつつある性質の1つである座標の回転を用いれば、ここから一直線に飛び込むことで当該次元に辿り着ける可能性が高いと推測されているのだ。

 だがしかし、それが正しいとしても課題は他にもある。超次元に飛び出したとて、どのようにして戻ってくるのか? それがわからなければ、飛ばされたトレイナーの救出などできる訳もなかった。つまりは、手詰まりである。

 

「そもそもだ。向こうの次元に辿り着けたとしても、似たような穴が向こうの次元に確実に存在するわけではない。ならば、この穴を開けたS(シールド)バーストの解析が先に必要になるのではないか?」

 

 スカイはそう考えるに至った。だがそこには、決定的に大きな問題が残っている。鳥満絢太はそこを鋭く指摘した。

 

「じゃが、どうやって?」

「起こす」

「ふむ?」

「Sバーストを、起こす」

 

 それは到底、正気の沙汰ではない行動だった。そんなことをしてしまえば、さらなる超次元への押し出しによる2次被害を起こしかねない。故に鳥満はそれを却下した。

 

「駄目じゃスカイ。それは認められん」

「じゃあ、どうやって超次元への穴を開ければいい?」

 

 頭ごなしに否定するだけならば誰でもできる事だ。ここで代案を出せるかどうかに指導者としての質が出る。鳥満はそれができる人だった。

 

「ラッチを使えばよい」

 

 ラッチもまた、超次元を活用した技術である。ラッチは連続性を部分的に保ったまま切り離した断面を結界とし、そして結界の内側を拡張することで成り立っているのである。

 

「そうか、結界を張らずにラッチを張れば穴を開けられる……いや、結界を張らないと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のではなかったか?」

「……痛いところを突くのぅ」

 

 スカイの指摘もまた事実だった。ラッチはその結界があるからこそ張ることができ、そして開くことができるのだ。特にラッチを開くプロセスにおいては、結界ごとこの次元にパズルや型のようにはめ込むことによって、エキステーションの収縮とこの次元への復帰を同時に行うプロセスになっており、結界は不可欠といえよう。

 問題点は他にもある。スカイは頭にてを当てながら、そのうちの1つを口に出した。

 

「仮にできたとしても結界がなければこの『無』のように超次元の穴が残存してしまう。それは後への影響を考慮すると決して良くはない」

「然様。それをいかにかするのが力の見せ所じゃよ」

 

 鳥満の言う通り、どうすれば良いのかが全てわかっているのならば研究者など必要ない。それがわからないからこそ、彼ら研究者が試行錯誤を繰り返して正解にたどり着くプロセスに価値が生まれるのである。

 

「……駄目だ、思いつかねぇ」

 

 そう吐き出すスカイの様子を見て、鳥満は何かに気がついた。

 

「のうスカイ。休みはとっておるか?」

「そんな余裕は無いでしょう、例の彼だって行方不明になってるのに」

「ふむ、休め。24時間休め」

 

 そう言いながら、鳥満はスカイの視界を遮った。スカイは意味がわからないとでも言いたげに鳥満の顔を覗き込む。

 だが鳥満は強い言葉でそれを留めさせた。

 

「これは業務命令じゃ。一刻を争いたい事態であるのは確かじゃが、それで失敗して被害を拡大させてしまっては元も子もない」

 

 これは鳥満の経験でもあった。定義に基づいてただの数式を変換して理論を作る場合は徹夜は有効な手段になりうるが、閃きが必要なときは大して有効な手段にはならない。それならば、体と頭を休めておいたほうが附帯する雑多な仕事の業務効率も上がる分有効になる。

 そしてこの、超次元の穴を開ける手段の検討は後者であると鳥満は見ている。ゆえに、休息を命じたのだ。

 

「……わかりました、博士」

「向こうの次元座標の特定は引き続き進めておこう」

「博士も定期的に休んでくださいよ? また安慶名さんにくたばるんじゃないかと思っただとかいろいろ言われますよ」

「それは勘弁じゃな」

 

 そしてスカイは、休息を取るために公園を後にしたのだった。

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