また目を覚ましても、天井は昨晩見たものだった。もしかしたら全部夢かもしれないだなんて淡い希望は打ち砕かれて、僕のシエロエステヤードとしての2日目が始まった。
昨日言われた通りに生徒会室に向かうと、そこには会長さんの他に人影が3つ。聞けば、みな僕という存在に興味がある者だという。
「話さないんじゃなかったんですか」
「いや、何人かには話すとは伝えたはずだよ? とりあえず順番に紹介しよう。まずは学園長のシンカフラッシュさん、数学教諭のシャドウイメージ先生、そして今年度入学者の主任担任教諭のアシノコ先生」
「あの、ちょっと待ってください?」
なんか若干1名ほど違くない? 他の方はまだわかるとして、なんで数学教諭がいるのさ。
どうやら向こう側も僕からそういう質問が出ることは想定済みだったようで――そりゃ明らかにおかしいもの――、その理由を話してくれた。
「いや、確実……かどうかは保証しかねるけれども、おそらく学園の中で一番君の力になれる人のうちの1人がこの数学のシャイ先生なんだよ」
そう会長さんに紹介されて1歩前に出てきたシャイ先生は、僕の首くらいの背丈でぼさぼさの髪に、ぶかぶかの白衣の袖が手の先よりも長い、いろいろ突っ込みどころのある装いをしていた。そもそも、数学に白衣は普通は必要ないと思うんだ。
「シャドウイメージだ。君の生まれ故郷について、詳しく聞かせてくれないか?」
そう言いながらシャイ先生は精一杯の背伸びをして僕の目を覗き込んだ。その体は小刻みにプルプルと震えている。
……どうしよう。少し迷って、僕は中腰になって目線を落としてから口を開いた。
「シエロエステヤード、と名乗らせていただいています」
そう僕から名乗ったところで、シャイ先生は少し首を傾げた。そして僕の両肩に手を置くと、そのまま後ろを振り返って会長さんの方へと目をやった。
「名乗らせたのか? 幼名と同じ名前のルールの所から来たとクモエコロからは聞いているんだが?」
「そうしないと、学園のシステムに乗らないからね」
すました顔をしているような声色で、会長さんはそう答えた。そうするのが当たり前だと言わんばかりに。
それを聞くとシャイ先生の表情はねっとりとした、そして油のようにぎらついた笑みへと変わり、声色もやや高くなった。
「そうかそうか、実に興味深い事態を引き起こすかもしれないねぇ!」
そしてもう一度僕の方に目線を戻すと、明らかに興奮した様子でぐっと僕の顔を見た目に反して力強く引き寄せた。
……顔が近い。そして、その顔は満面の笑みのはずなのに、どこか冷静で、そしてどこかわずかに恐怖を感じさせるものだった。
「あえてこう呼ぼう、シエロエステヤード。君はもう、この世界のルールで名乗った時点でただの来訪者ではなくなった。この世界のシステムに組み込まれたんだよ!」
「この世界の、システム……?」
「そうさ。世界はカオスの支配する寄せ集めではない。秩序あるシステムだ。君はその秩序に従い、受け入れ、そして変わってゆくことしかできない。その過程をしかと見させてもらおうじゃないか」
要するに、僕がここに居続ける限り僕は今の僕のままではいられないとか、そういうことを言いたいんだと思う。
シャイ先生は左手を僕の肩から外すと、その手でトンと僕のおでこを突っついた。白衣の袖ごしに。そして上ずった声で次の言葉を残して去っていった。
「話が気になるのなら、研究室においで。いくらでも話をしてあげよう。それでは失礼させてもらうよ」
「相変わらず自由人だねぇ、悪い人ではないのだが」
「それに一応授業等もやることはきちんとしていますから。コミュニケーション能力の多少の難くらいは目をつぶれる範囲ですよ」
そう会長さんと一緒にシャイ先生を評価するのは学園長さんだ。その前であんなことしていたんだなと後から驚きは出てきたけれど、どうも彼曰く裏表がないという面では生徒指導上かえってやりやすい面もあるのだとか。
「ところで、学園長さんと会長さんはどちらも『シンカ』から名前が始まってますけど、その、ご家族とかで」
「血縁関係ではないよ。ただ、私の使える技はどうも学園長と似通っているようだけどね」
「僕の地元ではきょうだいで名前の一部に同じ語句が入ってたり、命名規則に乗ってつけられてたりすることが多いんですよね」
きょうだいは当然の如く似たような経験やイベントを車だったころに経験しがちだから共通で扱える技が多い。だから新しいノリモンと会った時にまずは名前を確認して他に似た名前のノリモンがいないかを探してみるトレイナーは多いのである。
だけどこの次元はどうやら様子が少し違った。
まず、同じ部分を名前の中に持っている者同士で、ローンチの後で髪色や使いうる技が似通うことは事実とされてはいるものの、どうもその理由は未だに解明されておらず、有識者の間でも様々な論争が繰り広げられているらしい。
「それは実に興味深い話ですね。シャイも退出しなければこの面白い話を聞けたでしょうに」
僕の話をそう評価しながら、学園長さんはそう微笑んだ。
……なるほど、ねぇ。学園長さんとシャイ先生って。
おかげさまで連載開始から1周年となりました。これからも本作をどうかよろしくお願いします。