ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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第8レ:絆と友と、信頼と

「ウルサ・ユニットに入ることになった」

 

 そう手短に、綾部稜はノーヴルでお世話になっている先生とキールたるノリモンへと報告をした。

 

「そうか、君もユニットに。おめでとう、君のユニットでの活躍を願っているよ」

「ありがとう」

 

 綾部に対しこれまで教鞭を執っていた武豊生路はそう彼に祝福の言葉を送った。だがもう1つの人影は彼らに背を向けたまま微動だにしないでいた。

 あまりにも不審であったので、武豊もそちらに注目した。そして声をかけるべきだと告げようとしたところで、そのノリモンはようやく口を開いたのだった。

 

「ウルサ……そうですか。これで綾部君も1人前ですわ」

 

 ……未だ、綾部に背を向けたまま。

 そんな彼に、綾部は声をかけた。なぜ彼がそうしているのかを推測する材料を綾部は持っていたからだ。

 

「ウルサに何があったのかは、俺ちゃんだって聞いてる。わかった上でウルサの力になると決めた」

「ウルサだけでは、ありませんのよ……」

「それだって聞いてる。だからウルサは当面はカリーナと一緒に活動することになった」

 

 カリーナ。そのユニットの名が綾部の口から出たとき、武豊の体がピクリと動いた。それもそのはずで、カリーナは武豊がつい最近まで所属していたユニットなのだ。しかもふたりの会話から判断できる情報として、そのカリーナにも、そして綾部の入ったウルサにも何かしらの大きな異変が起きていることは容易だった。

 だからこそ、武豊は問いかけた。そのノリモン、ノーヴル・ユニットを統べるコダマへと。

 

「なぁ。一体カリーナやウルサに何があったんだ?」

「武豊先生はカリーナのOBですし、お伝えしておいたほうがいいかもしれませんわ。綾部トレイナーにも、私の伺っております全てを」

 

 そしてコダマ、赤い目のままでようやく2人の方へと振り返ったのだった。そして彼は共有した。理事会や会議等で報告されている現状とその見解を。

 

「……そうか。参宮と太多、それに名松まで」

「一応秘密で頼みますわ。あまり漏洩するとよろしくないですから」

「わかった」

 

 そう言うと、武豊はコダマに頭を下げて部屋を去ろうとした。

 

「どちらへ?」

「高山のところへ」

「彼らも心を休める時間が必要では」

「ウルサと共に動き出した時点でそれはもう必要ないだろう。それに」

 

 そして武豊は扉に手をかけて、開きながら告げる。

 

「高山も紀勢も、そんな柔なトレイナーじゃない」

 

 扉が閉じ、部屋には静寂だけが残った。1秒、2秒と時がただ過ぎてゆく。そしてボソリと、綾部が呟いた。

 

「武豊先生があんなに慌てることってあるんだな」

「既にカリーナを離れていますけれども、彼にとってカリーナの仲間との絆は決して消えるものではないのでしょう」

「……それは俺ちゃんだって、同じだ」

 

 綾部とてかつてスクールに在籍していたころの親友との絆は未だに切れてはいない。だからこそ彼はウルサに入り、そしてその活動に加わることを決心したのだ。

 

「なぁ、コダマ号」

 

 そして覚悟を決めたかのように、綾部はコダマにさらに1步だけ近寄り、そして正対した。

 

「先に謝っておきたい」

「……どうされたのです?」

「やらなきゃいけないことが俺ちゃんにもできた。でもそれをする力はまだ、俺ちゃんにはない。力がなかったから、名松や山根が大変なことになったときに、委員長みたいに隣に立つことすらできなかった」

 

 綾部の中にあった感情。それは友を喪失した悲しさではなく、その危機すら知らなかった、知ることができなかった悔しさであった。それは確実に彼の心を動かし、そして彼の向上心を獰猛に奮い立たせているのだ。

 

「もちろん、誰にも皆を守れる力なんてなかった、いや持てるわけもなかったからこそあぁなった。そんなのはわかりきってる、わかりきってんだ! でも仮に自分に力があれば、そんな後悔が今更溢れ出て、俺ちゃんをつきうごかしてる。だからこそ……力を得るために、道を見誤っちまうかもしれない。取り返しのつかないことを、しちまうかもしれない。そうなっちまった時のために、予め謝っておきたい」

 

 そして綾部は、コダマに頭を下げた。だがコダマはその謝罪を受け入れなかった。

 

「自分、勘違いしているんじゃないです? 謝罪は免罪符ではありませんし、そうならないように自らを保つのもまた、強さの1つなんですわ。だからこそ」

 

 そして綾部のその直角に曲げられた腰から少し頭よりの背中に手を置くと、真下へと力を込める。

 

「自分は力をつけなければなりません。そのために、その悔しさは必ず役に立つのですわ。でも、その力の使い道を誤れば、また後悔することになりますよ」

 

 コダマによりさらに折り曲げられた腰。その結果、綾部の目の前にあるのは綾部自身の足となった。

 

「過ちを繰り返すのです? 1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは自分のはずなのですわ」

「うっ……」

 

 綾部が彼の同級生よりもトレイナーとしての活動が始まるのが遅くなった理由。それは、かつて彼が抜きん出んと無理なトレーニングをし、足の腱を痛めてしまい、長期の療養を強いられたからだ。先程の彼の発言は、まるでその経験から学ばずに轍に車輪を乗せるようなもの。

 

「最も早い道を選ぶために立ち止まって考えるのは、決して悪いことではないのですわ」

「……駄目だな、俺ちゃんって」

「今の自分にはユニットの仲間ができたのですから彼らを頼るべきですわ。自分も彼らも、決して弱くはないのですから。自分1人で解決しようとするのは、彼らを信用していないようなものですよ」

 

 そのコダマの言葉は、綾部の進路を正しく導くものだった。

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