学園の北西の隅、北府中へと伸びる中央線の支線の真横にその建物はあった。普段は野球や陸上競技のコートとしても用いられるこの演習場と呼ばれる円形の建物であるが、その使用用途の中にはJRNではラッチを張ってやるようなこと――つまり、戦闘があるらしい。
そして僕はいま、この演習場のど真ん中に会長さんと、そして寮母のミノル先生と一緒にポツンと立っている。
……いや、なぜ??
「さて、予約が入っていなかったから午前中いっぱいは抑えてあるが……」
「『早い鳥は虫を捕まえる』という諺もありますSaying。早めに始めましょうBigin!」
そう言うミノル先生の方を見れば、その全身を覆うように確かな力を感じさせる赤い燐光が走り、そしてそのシルエットを変化させている。多少見慣れたものとは違うものの、それはまさしくノリモンがぎ装を取り出すときの動きとその結果そのものだった。
燐光が収まるも、ミノル先生はその髪と同じアップルグリーンをベースに闇のような黒色を配して、その中にアクセントとしてわずかに赤色の走っている装いに包まれて、その手には銅のような茶色の鞭が握られている。そして足を見れば、その腰につけられた3つの太いシリンダのピストンの先の継手からは足先につく大きな車輪まで太いロッドが走っていて、車輪の上の覆いにはその孤に沿うようにMINORUの文字が主張していた。
シリンダやロッドに左右が連動する大きな車輪を持つまるでスチームパンクの世界から出てきたかのような装いは、蒸気機関車のノリモンによく見られる姿だ。だけれど両足のシリンダからてこで繋がっている、そのお尻につけられた3つ目のシリンダに、そしてそこから伸びる、デルビエントさんみたいな生物系のノリモンの尻尾めいた3本目のロッドについて言えば、それらは今までに見覚えのない姿だった。
「さぁ、君も展開するんだ」
「……えっ」
その声に振り返れば、そちらでも会長さんがぎ装を出し終えていた。やや奇妙な足回りのミノル先生とは違って彼女の装いは本当に見慣れた姿で、やはりこの次元でもノリモンはノリモンなのだという安心感があった。
うん、安心感はある。なのに僕が半ば驚いたような声を出してしまったのは、会長さんの装いの色こそエターナルさんのような白と青なんだけど、その意匠には非常によく見覚えがあったからだ。
それを確かめるためにも、僕はチッキに手をかけ、クシーさんの力を纏った。体になじむいつもの姿だ。だけれども。
「ふむ。昨日も思ったがやはり似ているな」
この姿……つまりクシーさんの装いは、会長さんの装いとは黄色と白の違う、いわば色違いなだけの瓜二つなものだった。これはこれで、実に奇妙な感覚だ。
「奇妙な感じですよ、ここまで似ているなんて」
「展開の様子は違うのに、ぎ装は似ているHowever」
きょうだいならば意匠が同じなのは普通のことなので今さら驚きはしない。でも、クシーさんにはきょうだいがいないという話は彼女やコダマさんの口から聞いていた。だからこそJRNやその前身組織ではコダマさんが兄代わりとなっていたことも。
じゃあどうして、ここまでクシーさんと会長さんの装いの意匠は似通っているんだ? それは明らかに見たことのない造形をしているミノル先生よりもよっぽど不思議で不気味な感じが僕を襲った。
「だがこれではっきりとした。昨日は見間違えかと思ったが、どうもそうではなかったみたいだね。君がこの世界の外から、それもこの世界に来られる程の遠くて近い場所から来たというのも頷けるような気がするよ」
君の話を信じていなかったわけでは決してないとフォローを入れながら、会長さんはトレイニングをそう評した。それを見て……僕の中に、ちょっとした悪戯心が生まれてしまったんだ。
チッキケースにかけた左手、取り出したのはもう1枚。そして改札機を呼び出し、頭の上に疑問符を浮かべようとしているふたりを無視して、さもあたり前かのような顔つきでチッキを突っ込んだ。
「――失われし星の輝きよ、果てしなくなつかしい大地に最後の煌きを! ポーラーエクリプス号、このトモオモテに宿れ」
外にいる彼女たちに聞こえるように、わざと大きめの声でそう宣言すれば。色と意匠と、さらに足回りの形すら変えて、青い光の中から飛び出した。
振り返れば、彼女たちはポカンとした顔でこっちを見ている。わざとそれに気づかないふりをしながら足のコジョウハマを構えても、それは変わらないままだった。
「さて、始めましょうよ」
「……すまない、少し待ってほしい。いまいち状況が飲み込めていなくてね」
「何がですか?」
あ、だめだ。これ、なんか楽しい。
「わかっているんだろう、その顔は」
「もちろん。でもお手合わせを願われて、まだ始まってもいないのにもう手の内を明かす人なんてどこにもいませんよ?」
「……それもそうだな。ならば始めようか。そしてその後で話を聞かせてもらおう」
会長さんは腰に掲げていた銃を引き抜いて、そう僕の言葉に応じた。
この次元でどこまで動けるのかはまだ分からないけれど、力を借りるよ、クシーさん、ポラリス。心のなかでそう呼びかけて、僕達はまず握手を交わしたのだった。