ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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第9レ:決定的決壊

「きっとこれは、めがみさまがくれた試練なんだ。だから、頼っちゃいけない。ポラリスだけでもやってけるってこと、みんなに見せないと」

 

 ポーラーエクリプスはそう言って、スーパーブライトの差し伸べた手を拒んだ。

 

「ここでブライトやロイヤを頼るのは簡単だよ? だけど、それじゃポラリスはいつまでもこのまんま。お兄ちゃんに頼って、富貴に頼って、真也に頼ってた。独りでもできるんだってことを示したい」

「そーか。それが嬢ちゃんの考えなら否定はしねー。でも、本当にどーしよーもなくなった時は言うんだぞ? 遅すぎて詰んでからじゃ、打てる手も打てねーから」

「わかった、ありがと」

 

 武蔵野線24時間耐久の出走取消から少し経って、チーム【キラメキヒロバ】ではこれからどうするかという話が開かれていた。2人のトレイナーを欠いてはいるが、とうぜん停滞したままではいられない。ポラリスの1月のレースは耐久レースではなく無補給が可能なので予定通りだが、その先はどうするべきか。そこでいちばん落ち込んでいるであろうポラリスを元気づけようと呼んでみれば、ブライトの想像に反して意外にも彼女はケロッとしていたのだった。

 

「じゃーこれから、どのレースを走るかとかも資料渡すから決めてみるか?」

 

 そう、半ば茶化すようにポラリスに問いかけるブライト。だが、彼女から戻ってきた答えはまた、ブライトの想像の上をゆくものだった。

 

「ちょっと先のだけど、もう3月と4月のは決めてるよ」

「そーか。……って、もー決めたのか!?」

 

 あまりにも変わりすぎているポラリスを見て、ブライトは逆に不安になった。最初は悲しさを強さで乗り越えたものだと感心していたが、今となってはそれは虚勢なのではないかと心配する気持ちがそれを上回る程だ。

 さて、どう声をかけるべきか。それをブライトが悩んでいる間に、沈黙を保っていたロイヤが口を開いていた。

 

「驚愕。よろしければ伺いたく」

「そーだな、一応聞いておこーか」

「4月のは青春18杯、これはカイザーが出るらしいって話だから。それでね、3月は胆振最速決定戦に出ようと思ってる」

 

 胆振最速決定戦。そのレース名が出た時、ブライトの顔はまた強張った。そして、その時はブライトの中で疑惑が確信になった瞬間でもあった。

 

「……おい、胆振最速決定戦って、室蘭線じゃねーか」

「うん、そうだよ。あそこを走る、それが一番だもん」

「本気か?」

 

 知っていたほうがいいと、イノベイテックからブライトが聞いていた話。それは、室蘭線の白老町社台で発生したものだった。だからブライトはまずそこを通るレースは選択肢から外していたのだ。

 そんな室蘭線のレースを、ポラリスは自ら選択した。それこそ、過去を乗り越えなければならないという脅迫概念を彼女の中にブライトが見いだす程には。あまり取りたくない手ではあったが、彼はベーテクへの相談を検討に入れた。

 そうブライトが脳内で考える時間は、本当に一瞬の間であった。しかしまたもやそのわずかな間にロイヤが先に口を出していた。

 

「胆振最速決定戦……貴女も」

「『も』って事は、ロイヤも?」

「今度ではありませんがいずれは。走り慣れた線路でもありますから」

 

 ブライトは頭を抱えた。本来ならば、ロイヤはそれを止めるべき立場のはずなのだ。だがしかしロイヤはポラリスの選択を後押ししている。それがブライトには理解ができなかった。

 

「おいロイヤ、お前は止めろよ……」

「拒絶。ポラリスの希望です。それに、あの線路は彼女の走るべき線路。止めるのは不粋かと」

 

 ロイヤの目もまた、本気だった。ブライトが耳打ちをして、それとなく社台の話を聞いているかを確かめても、ロイヤはだからこそ走るべきなのだと考えを改めなかった。

 そして数分の攻防の末、ブライトはついに、首を縦に振った。

 

「……わかった、ならば3つ条件がある。手続きとか登録だとかを自分でするんだ」

「もちろん、そのつもりだよ」

「そして2つ目。決して後悔するんじゃねーぞ」

「しないもん!」

「ほんとーかー?」

 

 だが首を縦に振ってなお、ブライトはまだ半信半疑だった。既にポラリスのメンタルに相当なダメージが入っているのは疑いようがない事実だ。確かに室蘭線で過去の失敗を乗り越えれば、大きな自信となって心の傷を埋め、そして大きな成長の糧となるだろう。だが逆に2度目の失敗を起こしてしまえば、彼女のメンタルを再起不能なものにしかねない。危険な賭けだ。

 

「最後。2月のレースは俺が決める」

 

 ならば、その傷が致命的なものにならないように。現状のポラリスの戦績は1戦1勝。これはある意味で不幸な戦績だ。それに次のレースだってポラリスの足回りの調子を見て、都合のいいレースへの登録を済ませている。ならば胆振最速決定戦よりも前にするには、2月しかない。

 ブライトは心を鬼にすることにした。それがせめてもの彼の情けで、心を決めたポラリスへ彼ができる精いっぱいのことだったから。

 

「分かった、よろしくね」

 

 その今までがそうだったようにブライトがポラリスを勝たせるために協力していると信じているかのような彼女の表情を見て、彼は心の中で彼女に謝った。

 

 それから会合を終え、ブライトが普段通りに購買部のシフトに入って、そして訪れた昼休みの話だった。有力なランナーの出場予定の情報をチェックしている彼にポラリスからその、信じられない報せが届いたのは。

 

『ねぇブライト。真也とお話ができたって言ったら、ブライトは信じてくれる?』

 

 そのメッセージを見たとき、ブライトは素直にこう思った。可哀想なことにポラリスはもう壊れてしまったのだ――いや、()()()()()()()()()()()()()と。そしてシフトが終わり次第、すぐにポラリスがいるはずの7号館へと急行したのだった。

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