ミノル先生の立会のもと、僕たちは模擬戦のスタート位置についた。
JRNでの模擬線では、相手のシールドを割り切るのが勝利条件だった。だけれど、当然文化の違うこの学園では、ルール自体も変わってくるようで。
「勝利条件は相手を10秒間のノックアウト、あるいは規定のエリア外へと出場させたとき、そしてサレンダーを宣言させたとき。これがこの学園でのメジャーなルールだね」
「ならばそれで。郷に入っては郷に従えと言いますからね」
「それではミノル先生、レフェリーを頼むよ」
「合点承知のUnderstand」
そしてミノル先生が間に入り、その手に持つ鞭を構えた。
「それでは、この鞭の先が地面を叩いたらStart。準備はReady?」
2つの首が縦に振られ、確認するようにもう1つも同じ動きをした。そしてミノル先生の鞭が高く振り上げられて。
バチンと、大きな音を鳴らした。
「! 《ハイブリッド・アクセラレーション》」
咄嗟の判断で斜め右前方に加速すれば、元居た場所を大質量が通過する。ぶつかってしまえば、間違いなく弾き飛ばされてしまっていただろう。危ないところだった。
「ふむ、今のを避けるか」
「危ない匂いはしていましたからね。それじゃ、こっちから、も!」
速度を増したまま《シララオイ》で距離をつめ、コジョウハマで殴りかかる。
見た感じでは会長さんの攻撃は銃撃タイプだ。ならば近接戦闘に持ち込んてしまう方が有利だろう。
だけど。
「詰めさせないよ、《エターナル・ゼロ》」
その一言で、僕の運動エネルギーは急速に失われた。なるほど、簡単に近づかせてはくれないというわけか。なら。
一度距離をとりながら、左手の先に力を溜める。シールドらしきものが見当たらないこの次元で、どれほどの効果があるのかはわからないけれど、やってみるしかない。
「ならば、《桜銀河》でッ!」
あの次元では、最強に近い性能だったこの技。だけれど、こっちじゃおそらく目眩まし程度にしかならないだろう。何せ割るべきシールドはないのだから。
だけど実際目眩ましでも構わない。眩んでくれれば、そして僕を一瞬でも見失ってくれさえすれば!
会長さんを光の中に捉え次第、《桜銀河》を撃ったまま《クンネナイ》で跳び上がって上空へと逃げる。お互いにお互いの力を把握できていないときは、より相手の想像に及ばないことをしたほうが有利――その早乙女さんの教えに従って。
そして《桜銀河》を止めれば、ほら。目を開けてから、ぐるりと周囲を見渡すまだ気がついていない会長さんの真上から急降下し、体重をもかけてコジョウハマを振り下ろした。
「……上か!」
「今気がついても、遅いですよ!」
「
次の瞬間、逆に僕の視界が暗転し、コジョウハマがなにかに突き刺さった。引き抜こうとしても壁のようなものに当たってうまく引き抜くことができない。体を動かして壁を探せば、ここは円筒形のような空間の内側だと分かった。
……なるほど、そういうことか。引き抜いたら駄目だ、銃身か何かの中にいる!
「私の勝ちだよ、シエロエステヤード」
外からそんな声が聞こえる。サレンダーを狙っているのだろう。でも!
「まだ動けなくなったわけじゃない」
「似たようなものだろう。私が引金を引けば、君はノックアウトだ」
「なら引けばいいじゃないですか」
そう答えたにも関わらず、会長さんは案の定引金を引かなかった。
「あまり傷つけることはしたくないのだよ。君が降参をすれば、その必要はなくなる」
「……嘘ですね。引けないの間違いでしょう? だってこっちからの力は、そんなに弱くないんですよ」
銃や大砲の類には、腔発という現象が発生しうる。それが起こってしまえば、僕だけでなく扱う会長さんの方にも痛み分けの形で損害は免れなくなるし、この砲身は使うことはできなくなるのだ。しかも奥にある砲弾には既にコジョウハマが刺さっているのだから、余計にそのリスクは大きくなっている。だからこそこうやって僕にサレンダーをさせることで勝利を確定させようとしているんだ。
でも、その手には乗らない。
「いいや違うね。引金を引く必要が無いだけさ」
「詭弁ですよね、その手には乗りませんよ」
「……そんなに上手くいくわけがない、か。仕方ない、君を解放しよう」
諦めたかのような声が、外から聞こえる。その言葉の後に、砲身の角度が、体の角度が急に変わって、コジョウハマに掴まって宙ぶらりんのようになる。
……なるほど、ただでは帰さずにかわりにコジョウハマを捨てさせるつもりか。でも、僕の武器はコジョウハマだけじゃない。その誘い、乗った!
そう思って手を離して下へと落下し、そして着地した地点は、規定のエリアの外だった。
「そこまでOver! Winner、シンカリムドルナ!」
ミノル先生の声が、演習場に響いた。僕の負けだ。
「……いつの間に」
「おしゃべりをしている間になめらかに、ね。サレンダーを選ばなかった時の最終手段だよ。地味ではあるけれど、極めて有効だろう?」
クスクスと笑いながら、会長さんはそう言った。
そうか、この次元では模擬戦はエンターテイメントの側面があるんだ。だからこそ、実戦としては無意味なこういう戦略が生まれてくる。それが頭からすっぽりと抜けていた。
「ルールから生まれる戦略まで頭が回らなかった僕の完敗です」
「ふむ、それは知識を得れば勝てるとでも言いたいのかい?」
「いまからわかるわけないじゃないですか」
そう笑って誤魔化しながら返事を返す。
知識を得たところで、その時はその時だ。勝てるかもしれないし、結局勝てないかもしれない。それで問題があまりないのだから、かなり気楽な話だ。
……それと比べたら。JRNは今、どうなってるんだろう。ユニットのみんな、購買部のみんな、【キラメキヒロバ】のみんな。それに、クシーさんやコダマさん、そして程久保や綾部達。僕がいなくなったことで大騒ぎにはなっていそうだけど、みんな元気にしているのだろうか。ポラリスだって24時間耐久の直前で僕は飛ばされた訳だけど、きちんと走れたのだろうか?
そう、向こうのことを思い出していたとき。
『ねぇ、真也? 真也なの?』
頭の中に、思い浮かべていた声が突然響いた。