ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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10便前:つながり

『えっポラリス、いま、聞こえてる?』

『聞こえてるよ! 真也、どうしていなくなっちゃったの?』

 

 答えが戻ってきて、僕はハッとした。

 そうか、オモテをトランジットした時の意思疎通はモヤイを通じて行うもの。トレイニングができるのであればできない訳がなかったんだ。これは盲点だった。

 これならばJRNがどうなってるのかとかそういうのも聞けるし、僕が元気なことや今のところ安全な環境にいることも報告できる。ひとまずの安心感が僕を包んだ。

 

『ねぇ、いつ帰ってくるの? 真也がいなくなっちゃってみんな心配してるし、ポラリスはレースに出れなかったんだよ?』

 

 心配した声色で、ポラリスはそう僕に呼びかけた。

 そっか、出られなかったんだ、武蔵野線24時間耐久。成岩さん1人じゃ補給はギリギリ間に合いはするけど、絶対に負担がえげつないもんなぁ。

 

『……本当にごめんポラリス。でもいつ帰れるのかは、僕でもわからない。でも、できるだけ早く帰りたいと思ってる』

『分かった、待ってる。でも、必ず帰ってきてよね、ポラリスとの約束!』

『うん、約束する』

 

 よし、それじゃあ……。

 

「どうしたんだい、シエロ君。何度も何度も表情を変えているようだけど」

「……え?」

 

 気がつけば会長さんが僕の顔を覗き込んでいた。

 そうだった。ポラリスとの通話は周りには聞こえていない。そもそもこの次元にはトレイニング自体がないのだから、オモテのトレイニングで通話ができることすら認知されていない。

 つまり客観的に見れば、僕は独りでに表情をコロコロと変えていただけに見えるわけで。……うん、怪しいねこれ。

 

「ちょっと自分の中で振り返りをしているだけですよ」

 

 説明するのも面倒だし、どうせ把握すらされてはいないので一旦誤魔化す。ポラリスの方にも少しだけ待っていて欲しいと伝えたら、そのまま待ってくれると戻ってきた。

 

「そうか、それならば結構。なんだけれど、いくつか確認したいことがあるからまず場所を移したくてね。当日飛び込みで利用を希望する者の為に用が終われば早めに撤退する。それがマナーなんだ」

 

 そう言いながら、会長さんはあの中から取り出したのであろう、コジョウハマを返してくれた。

 

「わかりました、それでは向かいましょうか」

「ぎ装はしまわないのかい?」

「動いてて力の入り方とか、ちょっと感覚が違ったので少しこのまま動きたいのですが」

 

 もちろん大嘘だ。動いていた感覚で言えば、JRNにいた頃と正直大してかわりはない。だけれど、それでもポラリスと話をするためには、トレイニングを解く訳にはいかない。

 そういう訳で、ぎ装をしまって移動を始めた会長さんとミノル先生にそのままついて行く。もちろん、この時間も有効活用するけれど。

 その最中で、歩きながらポラリスと話す。どうも向こうでは僕の想像していたよりも事態は大変なことになっているらしい。

 

『そっちでは僕はどうなってることになってる?』

『行方不明だけど、みんなには8人とも大怪我して入院してることにしてるって。コダマのおじちゃんが言ってた』

『8人!?』

 

 そんなに。詳しく聞いてみれば、どうも成岩さんもそうなってしまったようで、それゆえポラリスはれを走れなくなってしまったのだという。

 でも、たしかに言われてみればそりゃそうだ。あのS(シールド)バーストをモロに食らったのはどう考えても僕だけじゃない。ならば他のみんなも僕みたいになっててもおかしくない。しかも今の僕みたいに安全なところにいるかも分からなければ、おそらくこうやって話をできることにも気づかないまま音信不通な気がする。

 そりゃ大騒ぎになる。ならざるを得ない。

 

『それとね、公園なんだけど』

『武蔵国分寺公園?』

『うん。空に穴が空いたまんまなの。それでサイクロのみんなが調べてる』

 

 ……空に、穴?

 一体どういうことなんだろう。

 

『穴って、何?』

『わかんない。ポラリスも1回見に行ったんだけど、なんか景色がぐにゃっとしてて』

『景色が、ぐにゃっと……?』

 

 一体どういうことなのだろうか。言葉で説明を受けたところで全くイメージが湧き上がってこない。

 それをさらに訪ねようとした、そのとき。

 

「着いたよ、シエロ君。ほら、中に入って」

 

 目の前では、会長さんが扉を開けた扉を抑えながらこちらを見ている。

 ここから先はこっちの次元でまた別の話が始まる。流石に両方を同時に処理はできないので、いったんポラリスとの通信を終えることに……あっ。

 ここで僕は、ちょっと危ういことに気がついた。

 

『一応確認したいんだけど、今は何月何日の何時何分?』

『え? えっと、12月28日の午前10時48分だけど』

『良かった、ならこっちの時間と同じだ』

 

 懸念してたのは、時差の存在だ。この意思疎通が不自然じゃなく行われているから時間の進む速さはおそらく同じだとして、こっちと向こうとで時差があって昼と夜とがズレていたりすると向こうの都合の悪い時間に応答を求めてしまいかねない。逆に今そういうことがないことが確認できたので、これで次に話しかける時間を決められる。

 

『ちょっとこっちで手が離せなくなるから、また夕方から夜辺りに話したいんだけど、ポラリスは時間あいてる?』

『えっと、5時からなら』

『わかった。その時間になったらまた話すね。できればだれか……そうだね、ブライトさんかコダマさんかを呼んでおいてもらえると助かる』

『うん、約束だよ!』

 

 そして会長さんに促されるままその部屋に入り、僕はトレイニングを解いた。

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