ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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第10レ:要調査を廃止

「要調査を廃止しました」

 

 メカマムサシコヤマはそう、彼女の所属する研究室の長たる安慶名秦流に報告した。

 

「そうかい、それではじまりのクィムガンはどうだったと」

「対面してみれば、案外普通のクィムガンとその性質には違いは見られなかったと。弊はそんなことはないと思うのですが……」

「今は」

 

 安慶名は強く太い声で、ムサコの報告を遮った。

 

「あなたの意見はいらないよ。あたしゃ事実を聞いているんだ」

「失礼しました。それで、例のクィムガンの特に要考慮とされる点ですが。その環境支配能力は特筆すべきものがあると亜紀は言っていました」

 

 それは実際に対面して対応した、不動亜紀だからこそ感じ取れたものだった。普通のクィムガンならば、ノリモンやトレイナーの繰り出した技による水や風の支配を生み出したそばからすぐさまに奪うことなどできやしない。せいぜい等距離の壁を超えてからようやく完全に奪うことができる、というのが関の山である。

 だがしかし、ルースの落し子は違った。それは声問未来の繰り出した《ヤムワッカナイ》による水を即座に奪い取り、それ故に彼らカンケル・ユニットへともはや回避することすら能わない打撃を与えたのであった。

 

「奪われることはすぐにわかったけれど、あんなに早く奪われるとは思いもしてなかったと、亜紀は述べてました」

「それだけ力が大きかったってことだろうね。だからこそ、のあの穴かい」

 

 そう言いながら安慶名は南の空を見た。ここから直接目視することは能わないものの、そこに何が生まれたのかはもはやJRNにいる者の共通認識となっている。

 通称として『無』と呼称される超次元の穴。その調査が進んでゆくにつれて、その暫定的につけられた呼称とは裏腹に興味深い性質を有していることが段々と明るみに出はじめていた。

 

「鳥満のジジイが躍起になってるあの穴。お前さんはあれを開けたのは()()()()()()()()()()で間違いないと思うかい?」

 

 ムサコはその安慶名の問いの答えが分からなかった。JRNの中にはそうであるという見方が大きく広がっているのも事実ではあるが、公式記録、専門家の分析、関係者の証言のいずれにもそのはじまりのクィムガンが現れた1951年からそれが対応される翌年までの間に似たような現象が発生したというものは存在していないのだ。そう考えると、これだけ大きな穴が残されたとして、それがルースの落し子の力のみによって生み出されたものだとは、ムサコには判断しがたかった。

 

「……弊にはまだわかりません。関与しているのは間違いないといえるのですが、単独で開けたものかどうかは断定しかねます。それゆえあの穴は要調査とされるのです」

「聡い姿勢だ、それでこそあたしの教え子だよ」

「先生は違うと」

 

 その問を待っていましたと言わんばかりに自らの机に戻り、そして紙束を手に取ると、それをめくりながらムサコを呼び寄せた。

 

「それは」

「猛々しくもJRNに踏み込んできた連中のことさ。なかなかリクチュウめが口を割ってくれなかったからまぁまぁ高くついたけれどね」

 

 ()()()()()()()()()。その団体の名が、その紙には記されていた。

 

「奴らの目的は、ルースの落し子の復活ではなかった……?」

「いいや違うね。理事長はとうにそれに気がついているけれど、まだそれを広めていない」

「なぜ」

「広めること自体が、恐らくリスクになるからだろうね。何せ『ジュウンブライドがそうしたように』と理事長は言っていたらしいからねぇ」

 

 チカリ。ムサコの目が瞬いた。

 なにせそのジュウンブライドという名は……クィムガンがノリモノイドに戻る事象を起こしたと、安慶名らが推測していた存在だったからだ。

 

「まさか」

「そのまさかだよ。その名前を聞いたときにゃ、あたしゃ驚いたさ。そこがそう繋がるのかってね」

「つまり()()()()()()()()()()も……!」

 

 そのときムサコは思い出した。その時のクィムガンの結末と、不動から聞いたはじまりのクィムガンの結末の類似性に。

 

「……亜紀は言いませんでした。そこからノリモンが出ていたとは」

「リクチュウは口を割ったさ、リロンチと理事長が呼ぶ事象が発生したってね」

 

 その事が指し示す事の意味を理解できぬほど、ムサコは莫迦ではなかった。彼女は恐る恐る安慶名に確認を行う。

 

「もしかして、8人とされる人の中に……?」

()()()()()()()()。どうも理事長が口封じをしてるみたいでね、リクチュウがようやくあたしに口を割ったのもこの前のジュウンブライドの件のあたしの見解との交換でだよ」

「そう……ですか」

 

 ま、いずれあたしのとこにゃ直接来るだろうけどね。そう言いながら安慶名はその紙束をムサコに押し付けた。

 

「未公開かつ不確実な情報だからくれぐれも気をつけなさいよ」

 

 押し付けられた文書に目を通すムサコ。そこには彼女の得られなかった情報もあったが、彼女の得られた情報により補完がなされてより解像度の深まるものも多かった。そういったものに当たるたび、彼女は余白にその不動からヒアリングして得た情報を記入して、それを完全なものへと近づけてゆく。

 そしてその作業を終えると文書を安慶名に渡して、ムサコは改めてこう切り出したのだった。

 

「ノリモンはどこから生まれてくるのか。超次元専攻の方たちの言うウェヌスというものが実在するとされるのなら、弊はそれは次元のような広がりをもつとされると考えています」

「いなくなってしまった7人のトレイナーの中にもそこに辿り着いている人がいるかもしれないねぇ」

「弊もあの穴を通りウェヌスを目指します。ウェヌスは弊達にとって永遠の要収鋲スポットとされていますから」

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