かつて消えたゲッコウリヂルの足跡の発見。都立武蔵国分寺公園を訪れたコダマからそれが彼をキールとしていた鳥満絢太に告げられたのは、その情報がJRNにもたらされた翌日のことだった。
鳥満はそれを聞くと、1枚のチッキを取り出して手に握りしめて『無』の方へと振り向いた。
「やはり生きておったか、あの向こうで」
「鳥満博士はずっと主張しておりましたよね、ゲッコウリヂル号は生きていると」
「それこそが私が当時あまり見向きもされていなかった超次元へと進むきっかけだったからの」
久しぶりに力を借りるとするかの。そう言って鳥満は衝動的にトレイニングをした。その姿は山根が超次元の彼方で見たリヂルの姿にそっくりだった。
鳥満は老い、その反射神経ではもはや満足にクィムガンの対応にあたることは能わないだろう。だがしかし、それはあくまでも向こうからの攻撃があるクィムガン対応での話だ。それ以外の用途では、依然として彼のトレイニングは有効な手段となりうる。
「鳥満博士、何を……」
「これまでの調査により、命綱を着用しての突入の安全は既に確認されておる。ならば、私もそれをしてみんとするのみ」
カチャリ。鳥満は金具を嵌めて命綱を着用し、その一端を公園に仮設で設置された杭に括り付けた。コダマがその『無』の方へと目をやれば、雑多なケーブルの他にも何本かの命綱がそこへと伸びているのが確認できる。
「……まだ本部は許可を出してはいなかったと記憶しておりますが」
「昨日付で安全審査は終わっておるぞ、昼には今日付で本日以降の許可が出たことになるはずじゃ」
そう堂々と言う鳥満をコダマは止めるべきか否か判断に迷った。コダマはノーヴルであり、鳥満はサイクロである。ノーヴルにはノーヴルの、サイクロにはサイクロの文化と独自ルールがあり、そしてお互いにその詳細はあまり知らない。ノーヴルのそれでは確実に黒であるこの行為がサイクロにおいてどうであるかを、コダマは知らなかったのだ。
そして数秒の思考の末、可能な限りのアドバイスに留めることにした。
「二次遭難だけは絶対に起こさないように頼みますわ」
「そのための命綱じゃよ。……それでは、行こうかの」
そうして『無』へと立ち入り超次元の彼方へと進んでゆく鳥満の姿を、コダマは無事を祈りながらただ見ていた。
「……午前9時5分。一応、記録しておきましょうか」
そして鳥満がした行動の記録を、万が一の改ざんのおそれがないよう独自にコダマもとったのだった。
★
Cyclopedは五元神の1柱たる根源の女神である。
そんなCyclopedは多くの次元を渡り歩き、そしてそれぞれの次元の者へと加護を与えたり、或いは気まぐれで特定の次元へと干渉したりを繰り返していた。
干渉と言っても、直接次元に何かを行う訳では無い。その次元に存在する者のみがその次元の将来を決定し、そして次元を変化させてゆくことが許される――それが五元神の間で交わされた、次元への干渉に関する唯一にして絶対のルールだ。
そんな干渉している次元の1つへと、彼女は超次元空間の中をその体躯の末端を触手のように伸ばし、その次元へとつっこんでその次元の存在と似た姿の三次元構造物として投影していた。その投影された『Cycloped』はその次元の中をその次元に生きる者と同じように動き回り、その次元への干渉の結果を望む賛同者を増やすよう動き、時には次元を変化させる力を授ける。これがルール通りのプレイだった。
「ふんふん、外を目指してくるのかぁ。いいねいいねいいね、この次元が他の次元にも影響力を持てば、同じような変化を連鎖的に起こしやすくなるというもの。……まぁ、理解できるかはわからないけど」
そう独り呟くCyclopedの投影体は、都立武蔵国分寺公園の様子をしっかりと見ていた。
Cyclopedがシエロエステヤードの構成員に与えた技術では、彼女らはこの次元から遠く離れることはできない。そのようにCyclopedが設定したのだから。しかしこうして自ら理解し、解析し、習得した技術であれば当然そのような枷はなく、遠くの次元への航行が能う技術が生まれうるのだ。
「スタァ達が勝っても、JRNが勝っても。この勝負、私にとってはメリットしかない。それに……」
Cyclopedはスゥッとその次元から意識を抜いて、別の次元へと意識を向けた。それは
「あの子達のはたらきのお陰で、あの次元の殻はもう弱まっている。だからこそ、あの子も飛び出してきた訳だけど」
その次元には、今まさに干渉しようとしている次元で投影体を動かしている中で見つけた、器としての素質が高い人間を送り込んだ。彼がその次元の素晴らしさに気が付き、Cyclopedの考えに同調した暁には。彼をもとの次元に戻してその器を満たしてやれば、まもなくその次元は
クスリ。Cyclopedは笑みを浮かべた。
「ふふ、こっちもきっと、私の勝ち。Rocketちゃんには悪いけど、ぜんぶ、全部塗り替えちゃうんだから」
過去に力及ばず、完成させることができなかったものを完成させる。それは、Cyclopedにとってある種の慈愛の表現の形であり、祝福を与える行為に等しかった。