ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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13レ前:エマージェンシー・アクシデント

 進捗というものは、物事をやり始めたときにはものすごく進むように見えて、それでいて途中で壁にぶち当たって停滞するものである。

 それはJRNでも決して例外ではなかった。事実最初の1週間に得られた進捗を最後に、行方不明者探索は行き詰まっていた。何より、武蔵国分寺公園より『無』へと突き立てられたいくつもの計測機器は想定をはるかに超える勢いで劣化が進行し、片手で数えられる程度の日数も経たないうちに使い物にならなくなってしまうのが、また探索を拒んでいた。

 音信不通のトレイナーもそうだ。現状8人のうち連絡が取れているのも、ドラコの2人の他にはポーラーエクリプスを介した山根真也に星野貴大と合流することのできた参宮五十鈴だけで、残る4人とは依然として連絡は取れていないまま。彼ら4人は本当に生きているのか? などという半ば諦めの含まれた声も上がり始めるほどだ。

 ……もっとも、多くのJRN職員はこの事実を知らない。あの時武蔵国分寺公園に居合わせた者、そしてそんな彼らと関係を持つ一部の者、並びに有識者や責任のある者にのみ、この行方不明者の情報は共有されている。そんな限られた者の中でさえ、残る4人の捜索はトリアージ的に放棄すべきであるという論、放棄する必要まではないが連絡の取れている4人を優先すべきとする論が提唱され、会議は大きくこの3つの宗派に分裂してしまっているのだ。

 

 だが、連絡の取れていない早乙女遊馬が見捨てられるかもしれない――その情報が、彼により助けられた者のうち一部を強く刺激してしまった。メカマタマガワエンもそのうちの1名だった。

 

「あーっと、メカマタマガワエン号か。なぜここに?」

「あの時私は崩壊するルースの落し子を見た。だからここに来れば、何か気づくことがあるかもしれないって」

 

 タマはブゥケトスの自元(アイゲン)領域(ゾーン)へと進入した10のノリモンのうちの1名である。それが故に、彼女の言い分も一理ある、と納得してしまったのだ。

 そして事件は起きた。近づくならば、命綱を。そう伝えようとして振り返った時には既に、タマは命綱を繋がずに『無』へと飛び込んでしまったのだ。

 それはつまり、『無』への身投げ。現場の調査員でさえ命綱がなければどこへゆくのかもわからないとされる超次元の彼方へと、タマは消えていった。

 

「エマージェンシー、エマージェンシー! 鳥満博士は本部への連絡を、ほか手の空いている者、空きそうな者は命綱を繋いで『無』に突入し、メカマタマガワエン号を捜索!」

「承知!」

 

 超次元専攻の動きは早かった。現状トライとエラーだけを繰り返していた最中でのこの事故は本部からすれば致命的な判断を下されかねない。すべての期日を本部直属のロケットの事故調査委員会に握られて報告書を要求される、通称『罰ゲームモード』への突入は現場の誰もが恐れることだった。

 一度『罰ゲームモード』に入ればまともに研究は続行できなくなる。それを回避するためにはタマを見つけ出すことは必要条件のなかでも最も大きいものだ。

 

 だが、しかし。十名強が命綱をつけて超次元の彼方へと突入したものの、タマの消息どころか痕跡すら追うことはできなかった。タマの飛び込んだ位置、方向に合わせたナリタスカイでさえ。

 5分。10分。30分。懸命の捜索活動にも関わらず、ただ時間だけが過ぎてゆく。

 

「どうしますかね、ナリタさん」

「どうするも何も、探し出さなきゃダメ。絶対に」

 

 だが、そう超次元空間でナリタとリクチュウが議論をしているとき。奇跡は起きた。

 謎の男が超次元空間を航り、そしてふたりの方へと近づいてきたのだ。そして彼が抱えているのは。

 

「メカマタマガワエン号!」

「……またこの次元か」

「貴方、何者?」

 

 アイボリーをメインに、闇のような紺色を纏うそのノリモンは、その質問には答えなかった。

 

「この子の知り合いか?」

「まぁ。……JRNのリクチュウといいます」

 

 だがそのリクチュウの答えに、彼は少しだけ驚きの色を見せた。

 

「JRN……!?」

「同じくJRNのナリタスカイ。貴方は?」

 

 ふたりは薄々と気がついていた。そのノリモンの正体が、山根により報告された彼であるということに。そして戻ってきた答えにより、それは真実であることが確認されたのだ。

 

「名乗るほどの者でもない……では、済まされないか。俺はリヂル、ゲッコウリヂル。はぐれ者にして、偉大なるCycloped様の僕だ」

 

 リクチュウとナリタはゆっくりも顔を見合わせ、そしてゲッコウリヂルの方を向いた。

 

「なるほど。貴方は何をしにこの次元へ?」

 

 ナリタがそう尋ねると、リヂルは済ました顔で「Cycloped様の使命を果たすのみ」とだけ答えた。彼の言う使命とは、このどこでもないゾーンに漂流する者を元の次元に戻すこと。それゆえ、見つけたタマを戻しに来た折に接触したのだ。

 

「分かったわ。……伺いたい話があるから、私達の次元に来てもらえる?」

「それはできない」

「なら、その子をここで私達が預かる。そして私が連れて帰って、そして――」

 

 かわりに、貴方が会うべき人にここに来てもらうわ。そのナリタの提案に合意して、リヂルはタマを次元へと連れ帰ったのだった。

 

「見つかったわ!」

「でかしたナリタ! 各員に発見を通知、引き上げを」

「……そして鳥満博士、貴方は超次元の突入の準備を」

 

 何故? 鳥満絢太はそのナリタの言葉に疑問を抱いた。だがその疑問は、次の言葉で完全に吹き飛んだのだった。

 

「――ゲッコウリヂル号がお待ちです」

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