超次元の彼方はどこでもないゾーンで、リクチュウはその姿をしっかりとその目に捉えていた。
片や超次元の果てより来たりしノリモン、ゲッコウリヂル。そしてもう片方は、そのリヂルとまったく同じ意匠の装いをした鳥満絢太だった。それもそのはずで、鳥満は彼のキールたるリヂルの力を纏っているのだから。
「久しぶりじゃの、リヂル」
「本当に、絢太なのか。あのJRNなのか」
信じられないとでも言いたげなリヂルと、同じように体の震えている鳥満。横で見ているリクチュウが命綱による案内の役目を終えた今戻ったほうがいいのではないかと考えるほどに、ふたりだけの空間が形成されていた。
「……信じておったよ、未だ生きておると。そして超次元を研究し、おまえを探す術を探しておった」
「そうだったのか。なら俺のほうが何もしてないな、お前がいつか来ることだけを信じていたのみだから」
「済まなかった。私が不甲斐ないせいじゃ。おまえを30年もこのようなところに」
「俺だってただこのどこでもないゾーンを彷徨うことしかできなかった。どこかに入ってしまえば、そこから抜け出せる自信がなく……結局、ここで生き延びる術を選ぶことしかできなかった」
それ以上はもう、言葉は不要だった。2つの人影は自然と重なって、お互いがお互いを抱きしめていた。
そして彼らにとって充分なだけの時間の後、ふたりはまた向き合った。
「リヂル。帰ろう、私達の次元に。そして一旦落ち着いてから、話をしたいことがたくさんある」
鳥満は手を伸ばした。だが、リヂルはその手を取らなかった。取れなかったのだ。そして悲しそうに首を横に振ったのだった。
「どうしてじゃ」
「済まん、絢太。俺はもう、このどこでもないゾーンを彷徨うことしかできない体になっちまった。もう二度と、JRNには帰れない」
「この命綱がJRNへとつながっておるとしてもか」
首をゆっくりと、リヂルは今度は縦に振った。
「それぞれの次元の中がどうなってるかはわからなくとも、JRNのある次元がどれなのかはこれでようやく解って、そして覚えることができた。絢太、お前がここにまた来るのならいつでも俺達はまた逢えるし、そしてお前をJRNへ帰すことができる……それが俺に赦された最高の贅沢なんだ」
本当は帰りたい。その気持ちはリヂルの中には大きく存在する。だがそれがもはや叶わぬ夢となってしまうような選択肢を過去にとったことは、彼自身が最もよく理解していたことだった。そうしなければ、このようにして再び会うことすらできなくなっていたのだから。
しかし鳥満はそのようなことを当然知るはずもなかった。ゆえに彼は自分を責めはじめることになった。
「それは……私が長い間来ることができなかったのが悪いのか?」
「違う! 断じて違う。JRNに戻れなくなったのは俺の驕りが回り回ってきた罰で、そしてお前と逢えること自体が寛容なるCycloped様の情けだ」
声を荒げて鳥満の反省を否定するリヂル。
ひと呼吸おいて、鳥満は再び理論的な思考を再開させる。もはや過去は変えられまい。ならば未来は――。そして1つの結論に至る。
「ならば――リヂルがJRNへ戻れぬのならば、私は必要なときだけJRNへと戻ろう」
「駄目だ。絢太はJRNに、その次元に帰れ。そんなことをしたらお前はアイテールになって消えてしまうぞ」
このどこでもないゾーンはどの次元や
「ならば、如何にしておまえはここまで生き延びた」
「さっきも言っただろ、Cycloped様の情けだと」
そして、かつて自らの体が消えゆくのをリヂルが認知したころ、そんなリヂルに手を差し伸べた存在がいた。それこそが五元神の一柱たる女神、Cyclopedだったのだ。彼女は消えゆくリヂルにこう持ちかけた。
『私の手伝いをしてくれるのなら、あなたはここで消えゆくことはなくなる。ここで消えゆく者がなくなる手伝いをね』
リヂルはそれを受け入れた。そうすれば、いつかはまた友に逢えると信じて。だがしかし、その代償としてリヂルはアイテールと、どこでもないゾーンと似通った性質となった――いかなる次元にも、立入ることができなくなってしまったのだ。
「なるほど、それで測定機器の劣化が激しかったのじゃな……」
「だからお前もあまり長居しないほうがいい。どっかの次元に入ればアイテールの影響はすぐに抜けるが、長居して蝕まれたものはもう戻らないからな。下手したら俺みたいに性質ごと変わっちまうかもな」
「うむ、わかった。では、今日のところは一旦戻るかの。リヂルから聞いた話も、改めて依頼したい事も向こうでまとめねばならん」
鳥満は命綱を辿り、自らの次元へと戻り始めた。リヂルはその背中を見守っていたが、いよいよ鳥満がその次元へと入らんとしたとき、抑えきれずに声を上げた。
「絢太!」
「……なんじゃ?」
「元気でな」
「フッ、おまえこそ」
その後に続く言葉は、示し合わせもしていないのに全く同じで、声が重なり合ったのだった。
「「また会おう」」