ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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第13D:安全階層

「《特別通過》だ、莫迦野郎」

 

 成岩富貴はオオカリベをそのクリーチャーに振りかざし、それを破壊した。これでこの階層は攻略し、一時的とはいえ次の階層への道が開かれる。

 

「ふぅ~っ! やるねぇ!」

 

 そう成岩を評価するのはシンカライジングルナ、白と青が流れるような装いの、名のしれた冒険者である。彼女は仲木戸俊成とは奇妙な縁があり、このダンジョンを探索中によく出くわす程度の仲である。それ故に、お互いのことはある程度信頼していたし、その実力や才能を理解してもいた。

 だからこそ。仲木戸はライルが窮地に陥っていたのを見過ごせなかった。それを助けてからというもの、彼女は彼らと行動を共にするようになったのだ。

 

「あと、2つ。そこに安全階層がある」

 

 安全階層とは、このダンジョンにおいてクリーチャーが出現しない特殊な階層のことである。成岩はその存在を初めて聞いたとき、そんな都合のいい存在があるのかと思わず突っ込みたくなったものであるが、事実その階層は存在しているのだ。

 そして、その安全階層には長期滞在をしていたり、或いは定住すらしている者がいる。そこにはダンジョンの中であるというのにまちが開かれて、そしてにぎわいを創出している。これは成岩らにとっても好都合だった。柱のシールドをブレイクするためには、人手が必要なのだから。

 

「とはいえ、どうなんですかな。成岩さんの言う通りに『柱』がシールドでできているとしても、それほどのシールドを全てブレイクするのに赤のシールドブレイカーがどれだけ必要になることやら」

「最低でも2ケタは要る。それを柱の色の薄い階層に迎えれば」

 

 『柱』の色は階層によって濃淡がある。その色の薄い階層ならばシールドも少ないだろうというのが、仲木戸と成岩の推測だ。

 そしてその『柱』の階層別の濃淡を調査している酔狂な研究家も、次の安全階層を拠点にしていると仲木戸はかつて小耳にはさんだことがあった。その者から薄い階層を聞きだせば、頭数が少なくて済むだろうと。

 

 それから彼らは次の階層も難なく通過し、そして安全階層へとたどり着いた。

 そのフロンティアと呼ばれる安全階層のまちは、成岩にとって安心感を与えるものだった。そもそもこの次元へと辿り着いて以降、彼はずっとこの『柱』のダンジョンを進み続けている。時折行商の者と取引をすることはあっても、それはにぎわいとはとうてい程遠い寂しいものだった。それと比べれば、このフロンティアはなんと大きなにぎわいを見せていることが。

 

「まちを見ると安心するな……」

「やっぱり? 知らないまちだとしても、帰ってきたって感じがするんだよね」

 

 まちの中に入っていけば、そこはもうダンジョンの外とはさして変わらない――ただし、地下街であるという点に目を瞑れば、だが――生活の営みが行われていた。その中をもう慣れたと言わんばかりにスイスイと進む仲木戸についてゆき、成岩たちはある区画の前に辿り着いた。

 

「ここは……?」

「えっ、あんた冒協を知らないの?」

 

 冒協というのは、冒険者の互助組合である。加入こそ任意の団体ではあるが、冒険者の過半数が加入している組織だ。

 

「じゃあ俺は外で待ってた方がいいな。組合員じゃないわけだから」

「いや、俺の協力者という面でむしろお前にはついてきてほしいんだが」

 

 そう渋る顔をする成岩をよそに、仲木戸はその後ろの者へと目線で合図を送った。次の瞬間、仲木戸はそのふたりによる丁重なエスコートにより、冒協の建物の中へと踏み入ることになった。

 

「いらっしゃ……あら、久しぶりじゃない」

 

 仲木戸を認めるなりそう声をかけた右が赤で左が青のオッドアイが特徴的な者は、この支局で受付を担当するツダヌマスカイである。

 

「おふたり一緒なんて珍しいわね。それと……その子は? 見覚えがないんだけど……」

「ちょっとこいつのことで用があってな。誰か『柱』に明るい奴はいるか」

「ある程度明るくなかったらこんなところに配属されないわよ。まぁまずそちらの方がどなたなのか、というところから伺いたいけど」

 

 そう言いながら、ツダは受付の内側からメモ用紙を取り出して、話を聞く準備を整えた。

 

「あー……。それはちょっと、ここじゃできねぇな。部屋借りてそこでなら話せるが」

 

 いいな。そんな目線を仲木戸は成岩に送る。その返事は、あきらめの溜息と小さな頷きだった。

 そしてそれを確認したツダは、そこに高度な事情が存在することを察すると、内線電話をかけてすぐさま部屋と相談要員の手配へと入ったのだった。

 

「2階201号室。そこで待ってて」

「誰が来るんだ?」

「調整中。即応人員がちょうどいま出払ってちゃっててね、戻ってき次第その子になると思うんだけど」

「それっていつ来るかも」

「わからないわ。決まったら部屋に内線かけるから」

 

 そう言いながらも、ツダは慣れた手つきでトークンタイプのカードキーをアクティベートしている。そしてそれを仲木戸に差し出した。

 仲木戸は後ろをちらりと見て数組が対応待ちになっていることを確認すると、それをしぶしぶと受け取った。

 

 そして、201号室で待つことおよそ30分強。今から担当者が向かうという内線が彼らに届けられる。それが誰なのかを電話口の仲木戸が問おうとしたとき。

 

「失礼するよ」

 

 その声とともに扉が開けられ、アップルグリーンの髪をたなびかせるFlying Fox支局長が彼らの前に現れたのだった。

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