電光鉄火。それは、トウマさんにつけられた異名だった。
冬学期が始まってから、僕の生活はまた1週間周期のものに戻った。基本は気になっていた講義を週に3コマだけ履修して、あとはシャイ先生のゼミ――とはいっても、いるのは僕とシャイ先生に、ときどき会長さんやトウマさんが顔をのぞかせるだけ――でお互いの知識の確認や考察で帰る手段を検討し、そして生徒会に顔を出したり、あるいは競技会の練習を覗いたり、または体を鈍らせないためにフリーマッチに参加してみたり。
そんな中で聞こえてきたのが、そのトウマさんの異名だった。当たり前なんだけれど、彼女とて生徒会の役員なのだ。それは要するに前の競技会で一定以上の成績をおさめているということでもあって、その強さは学園内では広く知られているのだ。
で、どうしてそんな話をしているのか、といえば。
「いくわよ、私のスキル! 《
ぶわり。炎の壁がトウマさんと僕との間を塞ぐように立ち上がる。何が起きるのかはわからないけれど、間違いないのはその壁からは熱波が発せられていて、迂闊に近寄るだけでシールドが削られてしまうということだけだ。
上を飛び越す? とんでもない。熱せられた空気は上へと上がっていくのだ。地上と大差ないどころか、余計に酷いことにもなりかねない。
ならば、僕がやるべきことは1つ。炎を、消す!
「借りるよ、力を。《サタイペ》」
炎の壁と僕の間に、もう1つ壁が生える。数列の木が並んだ壁だ。それは防風林めいて、僕へと襲いかかる熱風を弱めた。
それだけじゃない。その木の合間を縫うように水が流れ、集まれば川となって炎の壁へと向かっていった。
そう、今やっているのは模擬戦だ。今日は講義もゼミもないからと図書室に向かおうとした僕を呼び止めたトウマさんから、今季の競技会に向けた調整を手伝ってほしい、という頼みを引き受けてしまったからだ。
調整というくらいだから軽いもの――せいぜいデコイを使った程度――だと思っていた僕の認識とは裏腹に、トウマさんから言い渡されたのは競技会ルールでの模擬戦。それも、この前に会長さんと相まみえたときのものと全く同じものだ。
「さて、備えますかね……」
呼び出した木のうち1本に近寄りながら左手に力をため、《桜銀河》をスタンバイさせておく。
この《サタイペ》は壁としてはかなり便利で、木々の中に相手を引きずり込めばゲリラ的な不意打ちができる。だけど、いつもの対応の時は他のユニットもいる以上普通に味方の邪魔になる上に直接シールドを削るようなものでないため使ったことはあんまりない。
だけど今回みたいな味方のいない戦いならば、それは有効な手段の1つになる。
トウマさんの方を警戒していると、急に熱を感じなくなる。どうやら炎の壁が消えたらしい。そして。
「なにこれーっ! スペリーにいっぱい引っかかるって思ったら!」
そんな悲鳴が聞こえた。
なるほどね、とうもあの壁越しにこっちの位置を把握すふ手段をトウマさんは持っているらしい。だけど、それは恐らく原始的なレーダーか何かで、この木も感知してしまったのだろう。ならばこの木を有効に使っていこう。
僕は《クンネナイ》で飛び上がって、木の上へと身を隠した。これからやるのはゲリラ戦。相手の死角から繰り出すヒットアンドアウェイの連続攻撃でどんどん疲弊させていく。その繰り返し。
そう、思っていたのに。
「とりあえず……邪魔なものはどかしてみつけないと。《
その声の次の瞬間、一本の木がメキメキと音を立てながら倒れた。そして、少し時間が立てば次の木が。だいぶ原始的かつ暴力的な解決をするつもりのようだ。
でも、まぁいい。近づいてくるのなら、こっちにとっては本望。攻撃は一発が限界だろうけど……。
コジョウハマを強くにぎりしめて下を見て、耳を研ぎ澄ませる。一旦は遠くなったそれらの立木の悲鳴は、少しすると戻ってき始めて、そして少しして視界の中にも入ってきた。
目に映ったトウマさんは……回転しながら、何かを振り回していた。そしてその円周上に木が当たれば、その木の表面から削れている。そうやって木を薙ぎ倒しているんだ。それは僕のいる木にどんどんと近づいてきて。……でも。
「上が、がら空き! 《シララオイ》!」
「えっ、上!?」
回転するトウマさんに真上から急降下し、一気にケリをつける!
ぐるぐると回っている状態は、基本的に急に止まることはできない。真横から攻撃を加えるのは巻き込まれの可能性があって現実的ではないけれど、上方、それも角度が急であればあるほど無防備になるのだ。
よし、そのままコジョウハマを……。
「でも、見つけたっ! 《
何らかの電流が、僕に当たった。それで少しだけズレて、僕の攻撃は外れて地面へと……降り立てなかった。体が痺れて、うまく受け身を取ることすらできなかったのだ。
そしてなんとか立ち上がったところで。
「ふっふん、私の勝ちだね。いくわよシエロ、《
僕は抵抗もできないまま、トウマさんに弾き飛ばされる形で規定エリアから外に出てしまったのだった。