「やっぱり上ががら空きになっちゃってたかぁ」
まだしびれの残る僕の体を起こすのを手伝ってくれながら、そうトウマさんは振り返りを入れた。
「まあ対応されちゃいましたけどね」
「あと少し間に合わなかったら絶対に負けちゃってたわ」
「なんか会長さんにも似たようなこと言われたなぁ……」
実はこの言葉って褒め言葉ではないのでは? 僕は訝しんだ。
だけどトウマさんは、そこではなく別のところに噛み付いてきた。
「えっ、会長といつの間に?」
「彼女と会った翌日にね。演習場が空いていたんだってさ」
「……ふーん」
この反応からして、どうも会長さんはこのことをまだトウマさんには話していなかったみたいだ。あの言い分だとそれはそれでおかしいような気もするけれど、まぁ確かに半分は彼女自身の興味だったようにも見えるし。彼女とて生徒会長である以前に1人のここの生徒なんだなと、そう感じた。
「それで、どうだったの」
「負けましたよ?」
「……まぁそうだよね。会長だもの」
そうは言いながらも、トウマさんの表情はどこか安堵の色が窺えるものだった。そしてぎ装を仕舞って僕の横に座りこむと、僕の方を向いてこう訪ねてきた。
「ねぇ。シエロはさ、出るの? 競技会」
その声はどこか悲しげで、重いものだった。
「出なきゃいけないんですよね、僕だって一応ここの生徒ってことになってるんだから」
競技会に出るのは留学中などでない限りは生徒の義務だ。それは僕だって例外ではなかった。
実際のところ、学園長さんはその義務を免除してもいいとは言ってはくれてはいた。でも逆に出ないほうが不自然だというのなら、僕に出ないという選択肢はなかった。
「でも、帰れるようになったら帰っちゃうのよね?」
「まぁね。でもそれはそれです。やるんだったら、僕は本気で挑みますよ」
それに、競技会で好成績をおさめたからといって必ずしも生徒会役員になる必要があるわけじゃない。例えば外部組織からのスカウトを受けている最中だとか、そういった事情があれば断ることだってできる。むしろ……。
「僕が会長さんや君にお世話になり続けるには、好成績を残したほうがむしろ都合がいいんじゃないですかね?」
「うーん、確かにそうなんだけど……」
あー、もやもやするー! そう言いながらトウマさんは急に立ち上がって、走りだしてしまった。急いで追いかけようとしたけれど。
「あっちょ……ぴゃ!」
僕の足にはまだ痺れが残っていて、力を込めたところで妙にくすぐったくてこそばゆい感覚が襲い、バランスを崩してしまった。そんな僕を置いて、トウマさんは1人ファルコンの寮へと戻っていったのだった。
「ちょっと、トウマさーん!」
その声への返事は、トウマさんからは戻ってこなかった。かわりに聞こえてきたのは、おそらく今のやり取りを見ていたであろう先生のものだった。
「……まったく、あの子は素直じゃないんだからShould be herself」
「いつからいたんですか」
「通りがけにあの子の《
それからミノル先生の手を借りて、僕はようやく立ち上がった。そしてそのまま肩を借り、まだわずかに痺れの残る足で競技場を出て屋外のベンチへと移動したのだった。
「なんか、すみません」
「いいのよ、そもそも敗者の負傷があればその手当は勝者の義務なのHafta do。なのにあの子ったら……」
そういえば、始業式でそんなことを学園長さんが言ってたっけ。でもまぁ……。
「怪我してるわけじゃないんですけどね……」
「痺れでしょparalyse。立派な負傷よ」
その場合は、しびれが取れるまで横にいるべきなのだというのが一般的な解釈らしい。なのにトウマさんはそれを怠ったのだと、ミノル先生は半ば呆れた様子だった。
……まさか。
「もしかしてなんですけど、よくあることなんですか?」
そう恐る恐る聞くと、先生は静かに頷いた。
ミノル先生の見解では、トウマさんはまだ精神の発達が肉体や実力の発達に追いついていないように見受けられるとのことだ。それ故彼女は寮の中でも孤立気味で、生徒会役員の集まりが唯一の心の拠り所になっているのではないかと先生は分析している。
「本当は寮生のそういった悩みの相談にのって解決してあげるお手伝いをするのも寮母の仕事の1つなんだけれど、どうも手が回らなくってindecuacy」
「……手伝いましょうか?」
そう提案すると、ミノル先生は驚いたような顔で僕の方を向いた。
「シエロさん、でも、あなたは……」
「僕が帰るまでの間だけでも、トウマさんの力になりたいんです。この次元で僕を見つけてくれたのは彼女ですから」
それに。
そもそもノリモンのそういうサポートをするのだって、トレイナーの仕事の1つだ。それは次元を超えても変わらない。
「恩返しがしたいんです」
「……気持ちは嬉しいけれど、やっぱりこれはあなたの仕事じゃないわNot your job」
そう言って、ミノル先生は僕の肩に手をおいた。
「……でも」
「でも! あなたがトウマの力になりたいHelpfulというのなら、止める権利は誰にもないわNo right」
「……はい!」
「だけどそれは寮母の仕事の肩代わりではないわnot take over。それはあくまでも寮母の仕事My job。だから……」
お互いに、頑張りましょうね。にこやかにミノル先生はそう言った。