ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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15便前:君の力になりたくて

「ごめんね、さっきは」

 

 その日の夕食を食べ終わり、寮の共用スペースで少しのんびりしていたとき。トウマさんは僕を見つけるなり、すぐさま近寄ってきてそう謝ってきた。

 

「大丈夫ですって、少し休んだらしびれはとれましたし」

「そうなんだけど……ほら、ルールとかじゃなくって、そもそも人としてだめだよね」

 

 トウマさんは少し俯いて、申し訳無さげにそう打ち明けた。

 

「一応聞くよ、どうして僕を置いて走ってっちゃったんです?」

「それは……」

 

 言葉に詰まる様子で、トウマさんはまた俯いた。なるほど、ミノル先生が言ってたことはこういうことなのかな。

 だけどこういうときに役立つ心理学的な科目も、僕は一応スクールで修めてはいる。人間よりはるかに強い力をもつノリモンに癇癪を起こされてしまっては命がいくつあっても足りないから、そういった一種の地雷を踏まないような立ち回り、そして落ち着かせられるような立ち回りというのは――あくまでもケースバイケースであるという前提があるとはいえ――覚えさせられていることだった。

 とはいえ、ノリモンもそれなりに話の通じる者ばかりだから、それを使う機会は意外と少ない。逆にポラリスの時はその科目で習ったことを活用する余裕すらなかった――そもそもベーテクさんや成岩さんがその役割を担うものと認識していて、そんな状況で不意打ちを食らってしまった――のだ。だから結局使ってはいない。

 だけど今僕の目の前にいるトウマさんは、おそらくそれを活用するべきだということはすぐにわかった。

 

「わかった、言いたくないなら言わなくてもいいですよ。だけど、なにか困っていることがあるのなら言ってくださいよ? 力になれるかもしれない」

 

 ……こうは言ったけれど、おそらく困ったことがあっても助けを呼ぶこと自体が不器用で難しいんだろうということはなんとなく想像できた。だからこそ、その素振りがないかを注視するのが重要なのだ。

 そしてそういう性格だと、もしこれをそのまんま伝えてしまうとその素振りすら出さなくなってしまう。それは当事者にとってもストレスになるので、絶対にやってはいけないと教わっている。

 

「……でも、シエロは探してるんでしょ、帰る方法を」

 

 その答えに、僕は心のなかですこしだけホッとした。帰る方法を探しているのかと聞いてきたということは、断る理由をどうにかして探そうとしているか、あるいはトウマさんなりに頼ってもいいかどうかを決めあぐねているということだ。その心は、僕の方に断る理由があってほしいということであって、多少なりとも心を開いてくれているということの現れだ。

 

「そんなにすぐには見つかりませんって。そもそも、それが問題になるんだったらこんな提案しませんから」

「でも……」

「トウマさんがこの次元に落ちた僕を見つけてくれたからこそ、こうやって探すことも叶ってるんですよ? そうじゃなかったら最悪野垂れ死んでいたかもしれない。その恩返しくらいさせてくださいよ」

 

 そして、決断ができない優柔不断であるということは、こっちから押していけばいずれ押し切れる可能性が高いということ。恐らくは彼女の性格からしてここではまた物理的に逃げるだろうけど、それは当然想定済みだ。

 

「あっ」

「今すぐ答えを出さなくてもいい。だけど僕はそうしてもいいと、悩みがあるのならば力になりたいと思っていることは伝えておきます」

 

 手をとって、しっかりとそう伝える。

 そして手を離せば、トウマさんの手は宙に浮いたまま動かなかった。よし、考えているな。

 今このタイミングで重要なのは、僕に相談できるということを意識させること、ただそれだけだ。それさえ意識の片隅にでも置いてもらえれば、ふとしたきっかけで悩みを打ち明けてくれる可能性はぐっと上がる。それがどんなに小さな悩みだとしても、少しでも力になってあげることができるのならば。

 それこそが、トレイナーの仕事なのだから。

 

 そして僕は、一旦ここでトウマさんから距離をおいて部屋に戻った。これ以上押すのはかえって彼女を刺激してしまって逆効果だ。

 それに、ミノル先生が言うには普段から1人で悩みこむことの多いトウマさんをこの状態で1人にすれば、その悩みこみの中に自然と僕のことが紛れ込む。それは僕の存在を更に強く意識させるのには効果的と言えるだろう。

 

 ……そう、思ったのだけれど。

 その効果は、僕が想定していたよりもはるかに強かったことに気がついたのは、その次の日のことだった。会長さんに呼ばれて生徒会室に入ったとき、授業に向かうシエロとちょうどいれかわりのタイミングでの入室だったのだが……。

 

「おはようございます」

「あっ! おはようシエロ! 私は授業だから行くね!」

 

 そんな普段通りのトウマさんを見送って部屋に入ると、鋭い空気が僕を襲った。

 

「……会長さん?」

「おはよう、シエロエステヤード君」

 

 その会長さんの挨拶は、何やらただならぬ雰囲気を孕んでいる。少し速足で彼女の机に向かうと、彼女はその椅子を机と反対向きに向けて座っていた。

 

「おはようございます」

「いきなりで済まないが、今日の予定はみなトケてしまったよ。新しく君と話をする必要が生まれたからね」

 

 そう言いながら椅子を回して僕の方を向いた会長さんの目は、月の光が如く黄金色に染まって光っていた。

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