ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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15便後:伝説

「いないって、どういうことですか」

「文字通りの意味さ。そもそも、君が来たあの日に彼女は帰省していなかっただろう?」

 

 ……確かに、あの時は多くの生徒が帰省していて寮も学内も閑散としていた。会長さんとトウマさん以外の生徒会役員の皆さんですら。

 なのにトウマさんは、僕や留学生などの単純に旅費が捻出できなかったりして帰るのをやめた人達、そして近所に実家があって徒歩で遊びに来た生徒たちと一緒になってファルコンの寮で年越しを迎えたのだ。その時はまぁそんな子もいるよねという感じで納得していたが、よくよく思い出してみれば彼女は家族が話題になったとしてもその話をしていなかったし、誰も彼女にその話を振ることすらしていなかった。

 それはつまり……そういうことだったのだろう。そして、だからこそ彼女はこの次元で独り身となってしまった僕を気にかけてくれていたのだとも。

 

「なるほど、そういうことだったんですね。帰るべきところが学園の外にないからこそ年末もここにいたと」

 

 その問いに会長さんはただ静かに頷いて、それだけで肯定の意を示した。

 ……これ、さらに踏み込んで聞いてしまっておいた方が良いのだろうか?

 

「過去に何があったんですか?」

 

 すると会長さんは、一旦ピタリと動きを止めてから口を開いた。

 

「知ってはいるが、君に伝えることはできない。あの子がそれを忘れたいと望んでいるのならともかく、それと向き合って行くと決めているのだから、これ以上は本人の口から聞くべきだ。私から告げることではない」

 

 そして聞かぬ内に憶測でわかったつもりになってはいけないほどのものだとも僕に釘をさした。それに僕が頷くのを見届けると、彼女はそれでいいとだけボソリと呟いてから椅子にかけ直す。すると先程までの尖った空気とはうってかわって円やかな雰囲気を醸し出し始めた。

 

「だがそれとは別に、私個人の立場としてはと注釈をつければの話ではあるが……単純にあの子が心を開くことのできる、頼りうる存在が増えるというのは喜ばしいことだよ。私はディザイアだからどうしてもファルコンでの事には疎くなってしまうからね」

「……いいんですか、疑った相手なんかに頼んで」

「あまり気分のいいものではないけれど、公私の意見が対立することなど珍しくもないだろう?」

 

 困った笑みを浮かべながら、そう彼女は吐いた。仮にそうなったらもちろん感情を無にしてでも私を滅して公を演じる必要がある。

 

「あなたも悪い人ですね」

「世渡り上手と言ってもらえないかな」

 

 だからこそ、注意をしたうえでの僕の選択だということにしたいのだろう。その意図は察する必要もないほどに伝わってきた。

 

「それと最後に、もう1つだけ聞いておこう――」

 

 ★

 

「それでは、本日はここめででFinish! お疲れさまでしたHave a great weekend」

 

 講義棟。Minoruの担当する講義が終わり、彼女やその生徒たちは昼休みを迎えようとしていた。

 退出する生徒を見送りながら、講義に用いたタブレット端末で回収した小テストの答案用紙を一枚一枚撮影していると、その端末にピコンと1件の通知が立った。メールを受信したのだ。

 

「Hmm……? shinka.rimmed.luna@……あ、生徒会長さんか」

 

 答案を撮影する手を一旦止め、ミノルはそのメールを開いた。それを読み内容を把握したところで事務的な返信をすると、再び答案の撮影に戻る。だがその機械的な作業の裏で、彼女の思考はメールの続きにあった。

 

「やはり生徒会長さんも、シエロさんには注目しているみたいねFocusing」

 

 ミノルのは異文化コミュニケーションを好んでいる。だからこそ、おおもとの文化や価値観が言語がほとんど同じだと認められるのに何か重大な認識がズレているシエロエステヤードは、彼女にとって格好の供給源となっていたのだ。

 もちろん、他者同士の異文化コミュニケーションを観察して楽しむというのは、通常なら不審者として扱われて通報されてしまうであろう。だがしかし、ミノルはファルコンの寮母でもあった。その立場を持ってすれば、その評価は反転し、よく目を注いでくれている熱心で面倒見の良いというものに変わる。その文化的価値観のズレからくるトラブルの対応や、彼らの持ちかけた相談に乗ること等は決して楽なものではなかったが、彼女の個人的な愉悦が満たされるというメリットの方が彼女には大きかったのだ。

 

 そして、もちろん昨日シエロにトウマのことを依頼したのもまたそんなミノルの興味があったからに他ならない。

 もちろんそこに寮母としての采配も存在していた。トウマは心に孤独を感じている。そんな彼女を救えるのは、おそらくこの学園でおなじく独りぼっちで彼女と比較して精神が成熟しているシエロだけだ。そんな考えである。

 だがそれは、決定要素の半分にも満たない。異文化コミュニケーションの結果に生まれる、双方の持つ文化のそれともまったく異なる新しいカルチャー。それこそが、ミノルの目的だった。

 

「いくら生徒会長と言っても、邪魔はさせませんよNever disturb」

 

 そして答案の撮影を終えると、それらをまとめてカバンの中に入れ、講義室をあとにしたのであった。

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