どこでもないゾーンに飛び出した改ウルサ・ユニットは、出てすぐに驚愕することになった。
「なぜ、お前がここにいる!」
超次元空間の中で、高山各務はそう叫んだ。
その視線の先にいたのはスタァインザラブ。高山と紀勢佐奈の2人、カリーナ・ユニットからすれば因縁の相手でもあった。
その者は叫び声に振り向いてJRNからやってきた10名に気がつくと、ゆっくりとそちらへと歩いて近づく。既にウェポンを構えているJRNの者共とは対称的に。
「あぁ、この前の! そっか、もう出てきたんだ。……知らない子もいるね、改めまして。ボクはスタァインザラブ」
そう、悠長にロングスカートを広げ、片足を引いてて腰を下げるカーテシーで一礼をするスタァインザラブ。そこには明らかな強者の余裕があった。
いや、あって当然と言えよう。なにせスタァは五元神の1柱、Cyclopedの加護を直々に受けたノリモンなのだから。実際、彼女の扱う技術や知識は多くの面でJRNに所属するものを上回り、そして10名が束になってもその優位は変わらないのだ。
そしてその実力を、カリーナの2人は直々に目にしている。だからこそ、高山は声を荒げても手を出すことはしなかった。
「ようこそ、超次元の世界へ。ボクはJRNの進歩を歓迎するよ」
「どういうつもりだ?」
「言葉通りさ。ボク達はJRNと敵対したいわけじゃない。むしろこれからの世界にも必要な組織だと思っている。そこは評価しているんだよ? だからこそ、その進歩を心から歓迎する」
その言葉は伝わっても、真意をすぐに正しく理解できた者はいなかった。ただそこにあったのは、感じられた圧倒的な強者との実力差と純粋な狂気だけだったのだから。
そしてようやく言葉を飲み込んだのであろう、恐る恐るスーパーブライトが尋ねる。
「なら、進歩したJRNがどーすることを望んでいるんだ?」
「別に。今まで通りの事をしてもらえれば、ね。秩序を守るのには、今も秩序を守り続けてくれているJRNの力は絶対に必要だからね」
スタァの笑顔を絶やさず、ニコニコとしたままそう答えた。だがそんな彼女の回答に苛立ちが増したのか、叫ぶように高山は問う。
「ほざけ。謝罪しろ! その秩序を乱そうとしているのは……」
高山からしてみれば、彼女はその仲間にクィムガンを呼び覚まさせ、そしてカリーナの信頼するユニットメンバーを超次元の彼方へと追放するきっかけを作った当事者だ。そんな彼女が、JRNを敵視していないと? ならばなぜ、太多や参宮、名松は消えねばならなかったのだ、と。
だが、その問いが投げかけられるのが終わるよりも早くに、それを遮るようにスタァが声を上げる。
「そうだね、ボクは謝罪しなきゃいけない」
そしてスタァは意外にもあっさりと、高山たちに頭を下げたのだった。
高山たちは拍子抜けして、一歩引いてその言葉のお互いの解釈を確認すると、その言葉の続きを待つという結論に至る。
だがその解答は、高山が要求していた問いへの回答ではなく、スタァの持つ解釈を補強する為のものだった。
「70年前、誤った秩序を定着させてしまった。その結果として、JRNをはじめとした各国の機関には大変な苦労をかけさせてしまった。そのことを改めてお詫びしなければならない。そして……」
ここでスタァの下げられた頭が上げられると、その表情は自信満々と言わんばかりに決意に満ちていた。
「誤った秩序は、あるべき秩序に作り直す必要がある。それこそが、誤った秩序を生み出してしまったボクのけじめであり責務だ」
きっぱりと、スタァはそう言いきった。
「我々の護っていた秩序は偽りであると?」
「残念ながらね。でも、決してそれはJRNの仕事が無意味だったことを意味するものじゃない。偽りの秩序でも、無秩序よりは遥かによい状態であることに変わりはないし、その秩序があったからこそボクは正しい秩序をつくるための行動に専念できた」
礼を言うよ。そう言ってスタァは、もう一度頭を下げた。
いまいち話のかみ合わないスタァの行動の意図を探るため、高山はさらに質問を追加する。
「ルースの落し子の復活も、必要だったことなのか」
「必要だったかのかといえば、確かではないね。だけど、そうするのが好ましいと判断したからそうしたってだけ」
「ならば……ならば!」
怒りに震えながら、声を荒らげる高山。更にまくしたてるように言葉を続ける。
「返してもらおうか、我等の仲間を! 太多姫を、参宮五十鈴を、名松一志を……彼らだけではない、中泉良平も星野貴大も早乙女遊馬も成岩富貴も山根真也も、みなあのルースの落し子が飛ばし去った! お前の判断で超次元の彼方にな! 改めて言おう、『謝罪しろ』と!」
「そうかい、それは気の毒、な……」
ここに来てこのやり取りの中で初めて、スタァは言い淀み動揺し、そして高山らに背を向けた。それを見逃すほど高山は弱くはない。
「なんだ、予想外だとでも言うのか?」
その言葉に、ボソボソと呟くばかりのスタァ。高山はさらに苛立って、一歩踏み出さんとした。
そのとき。スタァはくるりと振り返って、そして周囲の空間を紫色に発光させながらこう言い放った。
「ならばそれも、償わなければならないな。あなた方の手助けをしよう」
――Cycloped様の祝福を。その言葉が聞こえるか否かというところで、高山らの意識は紫転した。
★
ナリタスカイらは困惑していた。
ルースの落し子への対応から丸一月以上都立公園に鎮座していた『無』。それが突然、今、彼らの前で急速にしぼみ始めたのだ。それは消えた7人のトレイナー、そして探しに出た10名へと物理的に繋がる現状唯一とも言える窓であったが、彼らに成すすべはなかった。
そしてそれがサッカーボールほどの大きさにまで縮んだとき。
「……Rotate。この穴は貰っていくぞ!」
どこからともなくエンゲヰジリングが現れて、あっという間にそれを動かして持ち去ってしまった。
1月30日13時30分。都立武蔵国分寺公園は元の姿を取り戻した。