超次元のかなた『雨が丘』にて、Sans Pareilは困惑していた。久々に会合が開かれたと思いきや、そこに向かえば目の前で美しくない口論が行われていたのだから。
「お二方とも、やめたほうが良いのではなくて?」
そう彼が呼びかけた先で激しい口論を広げているのは、片や黄色基調に正装する神、Rocket。もう片や紫の装いを纏う女神、Cyclopedだった。
「何があったんです? 大方そこのじゃじゃ馬が何かちょっかいを仕掛けたのでしょうけど」
「サンもロケットの肩を持つの? だいたいちょっかいって何さ。停滞していた次元のためにちょちょっとお手伝いをしてあげただけなのに」
「それが余計だと言っているのだよ。わからないのかロペ。我らへの助けを望む声なき所に無闇に介入すべきではない」
サンはため息をついた。こいつらはいつまで同じ醜い討論を続けるのかと。
「お二方はいくつの次元で同じ争いをすれば気が済むのです? お互いに冷静になるべきですよ」
「……また、やっていますのね」
「ヴェルか。お察しの通りですよ」
続いて雨が丘に到着したのは青いドレスを召した女神、Noveltyだった。いつものことではあるが、彼女が全員が集合する前に先立って喧嘩を始めるロペとロケットのことは最早気にもせずに円卓の青い椅子――彼女の指定席だ――に座ると、釣られるようにサンも緑の椅子に続く。
そしてその様子を見て、ようやく喧嘩をしていた者たちもそれぞれの席につき、そして赤の席だけが残った。
「パーシーはまた遅刻か?」
「最初に私が来たときいなかったからそうじゃない?」
「みんな僕のことをなんだと思ってるのさ……。まぁいいけど……」
4柱が声の主に目を向ければ、入口には一応赤でまとまってはいるもののかなりラフな格好をした神、Perseveranceが既に到着していた。
「今日は間に合ったのか。珍しいな」
「いつも遅刻してるみたいに言わないでくれる?」
「ですがいつも遅刻してるじゃありませんの」
パーシーはヴェルの余計な一言に言い返せなかった。それが真実だったからだ。そして一度がくっとしながらも、予定された時刻より前には赤の席につき、会合に参加する意志を示した。
コホン。そして一瞬の静寂の後に咳払いをして、ロケットが口を開いた。
「またロペの介入が発覚した」
「やっぱりかぁ」
わかっていたと言いたげな口調で、パーシーがそう答えた。そしてその後の対応を行うべきかについて、続けて述べる。
「次元の修復力を舐めちゃいけないよ。なーんもしなくたっていいんじゃないかな」
「変化の早さも、ですわ。いずれ最適な姿に落ち着くでしょう」
パーシーとヴェルの判断は一致した。過去の介入は気にせぬ静観である。彼らは次元の強かさを信用しているからこそ、多少の介入があったとしてもその次元がそれを理由に直ちに崩壊するわけではないと考えているのだ。
「……サンは?」
「わたくしの判断は変わりませんよ? 結果として次元が美しくなればいい。ただしそれを判断するのはわたくし達ではなく、その次元に住まう未来の者です」
サンは中立を投げ入れた。彼は介入が美しさを奪うことも与えることもあるのは理解しているが、すべての次元に介入するのでなければ次元群が2つに分かれるだけであり、その中それぞれに美しい次元とそうでない次元が生まれる。つまり、介入そのものはあってもなくてもどうでも良いという判断である。
そしてその意見が出尽くしたところで、パーシーがため息をついた。
「結局こうなるじゃん? ロケットよぉ、毎回呼び出されるこっちの身にもなって欲しいね。ロペも流石に控えるべきだけど、あんたも許容範囲が狭すぎるよ」
「ロケットは機械だからわかんないと思うけど、わたしは常にわたし自身も進化してくの。だからそれぞれの次元だって、そうなるように働きかけた方がいい」
ロペはロケットを煽るようにそう捲し立てた。残りの3柱にも被弾するような物言いで。その結果、ピクリとサンとヴェルの眉間が動いて目が光る。
「君は黙っておいたほうが美しくありませんか?」
「今の言葉は看過いたしかねますわ」
「うん、落ち着こうか。今はそういう話じゃないよ。さ、話を続けてよロケット」
パーシーは内心そのボイラを沸かせながらも、落ち着くよう宥める。話が進まなくなるからである。めんどくさがり屋の彼ではあるが、こういった会議の時にはそれを早く終わらせるよう強く働きかけ、話題を元に戻す役割を持つ。彼がいなければ今までの会合も結論が出るまで長い時間を要してしまったであろう。
「そうだな。確かに今までの介入程度であれば、目くじらを立てる必要もないとは考え直していた頃だよ。だが今回の介入はより厄介だ。ロペが1つの次元に介入した結果、その次元は次元を越える力を探求し、そして他のいくつかの次元との通信まで確認されている」
「おー、それはヤバいね」
だが、口ではそう言ったパーシーでさえ、当初の意見を変えることはなかった。それは他の2柱もそうだった。
「複数の次元の交流があったとしても、それは次元の内部での異文化交流との多少の程度の違いではありませんか?」
「それぞれの次元が、多次元交流を前提とした形に変化してゆく……ただそれだけではありませんこと?」
「ふたりに同じ。それにね、僕は逆にロケットがあるがままの姿を神聖視し過ぎだと思うな。だいたいね、前からおもってたんだけど――」
ロペが次元を作り変えるよう介入するのが嫌ならば、ロケットはそうさせないよう介入すべきだ。パーシーはその旨を言い放った。派手にやるロペとは程度の問題であり、パーシーもヴェルもサンも小規模な介入自体は行っている。だからこそ、ロケットもそうすべきだという合意形成が、何度も同様の議論が繰り返される中で既に3柱の間では為されていたのだった。
そしてそのままロケットの議案は否決され、ロペの介入は他4柱による厳重注意のみという形で結論づけられた。