ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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18レ前:からげんき

 新宿発高尾山口行き特急電車。新宿駅の3番ホームに停まるその先頭車両10号車で、ポーラーエクリプスは独り線路を眺めていた。再来週のレースである高尾山冬そば杯に備え、線形を確認し、そしてランカーブを描くためである。

 これまでのレースでは、これらの作業はポラリスのチームメイトであり、コーチのような存在でもあるスーパーブライトが行っていた。だがこのレース、そして次の胆振最速決定戦ではポラリスが自分で考えてランカーブを引くという約束になっていた。

 

 それに、そもそも。

 

「ブライトまで、いなくなっちゃうなんて……」

 

 ポラリスはもはや、ブライトの力を借りることはできない。彼もまた、彼女のパートナーたるトレイナーと同じように超次元の彼方に消えてしまったのだから。

 

「どうしてみんな、いなくなっちゃうんだろう」

 

 やっぱりポラリスは、生まれてきちゃいけなかったのかな。ポラリスに近寄ると、みんな不幸になっちゃうんじゃ? そんな思考が、ポラリスの頭をよぎる。

 事実ポラリスの周りに居た者の中でポラリスの近くに今現在い続けることができているのは、同じ【キラメキヒロバ】のメンバーでもあるナマラシロイヤただ独りだけである。それ以外の者はみな、不慮の事故や仕事の都合でJRNを離れることになってしまったのだ。

 

(ダメだよ、そんなこと考えちゃ。有馬温泉でポラリスを待ってた皆の顔は? 笑顔だったでしょ?)

 

 ぶんぶんと頭を振って、ネガティブな思考を振り落とす。レールレーサーはエンターテイナーだ。見る人を楽しませるには、まずは自分が元気を出さないと。

 

 発車のベルが鳴り、電車が走り出した。駅を出てからしばらくは、右へ左へと微妙なカーブが続く真っ暗なトンネルの中を電車のヘッドライトだけが照らして進んでいる。ここで初めて、ポラリスはブライトが軽々とこなしていたことの凄さを知った。

 ブライトがポラリスに渡していたランカーブの巻物には、勾配や曲線の情報が事細かに記載されていた。それがなければ効率のいいランカーブなんて引くことはとうぜんできないのだから。だけれどポラリスがいざ自分でランカーブを引いてみようと手を動かそうとしたとき、彼女の手元にはその情報があるわけではなかった。

 だからこそこうやって、電車に乗って曲線標や勾配標を探してメモを取ることにした。だけどそれは、ポラリスの思っていたよりもはるかに大変な作業だったのである。

 

(ブライト……。やっぱり、すごいランナーだったっていうのは本当だったんだね。ポラリスはまだまだ追いつけないや。でも……)

 

 必ず、その遠い背中にいつかは追いついてみせる。それこそが、ポラリスに与えられた試練なんだ。

 

 そしてポラリスは、その会社のワンデーパスを握りしめて、何度も何度も新宿と高尾山口を往復した。そして集められたものはブライトが入手していたようなきちんとした完全なデータではなかったが、それでも簡易的にランカーブを引くことができる程度のものだった。

 それをもとに、ポラリスは自分の手ではじめてランカーブを引いた。幸いなことに、ポラリスのメカニカルな性能については彼女のトレイナーとブライトが計測していた速度や燃費のデータが残っている。それと先程とってきた線形の情報を組み合わせれば、無数のパターンのランカーブが出来上がる。

 そして、使用するフューエルの量ごとにそれらの中からポラリスがもっともよいと思ったランカーブを書き出した。彼女の兄貴分であるイノベイテックは車のころから燃費の研究を行っており、その頭脳と足回りを引き継いだ彼女にとってこの程度の計算は苦ではなかった。

 

「……よし、できた!」

 

 こうして出来上がったランカーブは、たしかにブライトの作るものよりは洗練されていないものなのかもしれない。だけれど、こうやって彼女独りでランカーブを書き上げたという経験自体が特別な意味を持つということ自体が【キラメキヒロバ】のメンバーであれば――たとえこの次元を離れていたとしても――理解を得ることができる事実なのだ。

 

 そんなポラリスの様子を、ロイヤは暖かく見守っていた。ロイヤにとって、ポラリスは車であった頃は同じ会社のかなり年のはなれた後輩であり、ノリモンとしては同じ工場で成った直近の先輩なのだ。ゆえにベーテクと同じ様に、彼女もポラリスが車だった頃のあまりにも不憫な車生も、そうなるに至った背景も全て知っていた。自らが期待のニューカマーとして受け入れられ、やがては一桁世代としてたくさんの希望をのせて華々しく走り抜いていたのとはまったく対称的なそれを。

 だからこそ、ロイヤもまたノリモンとなったポラリスの幸福を傍から願っているのである。

 

「夜食です」

「……あっ、ありがと」

「あまり無理をしてはいけませんよ?」

 

 ロイヤが一時的に厄介になっているベーテクの自宅のリビングで、うつらうつらと上半身を振り子のように揺らすポラリス。その目線の先のタブレット端末には、ポラリスと同じ冬そば杯への出場をすでに表明している、チーム【一体、陣馬】に所属するヤマダのレース映像が流れていた。

 そして小一時間ほどしてから、そろそろ食べ終わった頃だろうと食器を下げに再び戻ってきたとき。動画を開いたまますやすやと寝息を立てていたポラリスの両肩に、ロイヤはそっと毛布をかけたのだった。

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