ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

276 / 306
18レ中:Callsign JYHR

「ごめんなさい! 私のせいで……わたしのせいで!」

 

 ココマはうろたえながら頭を下げていた。彼女の周りには、まだ目覚めていないトレイナーやノリモンが転がっている。

 

「落ち着こーか、ココマ号。俺達がこうなったのはスタァインザラブのせーだ」

「でも……でも!」

「仮にあんたのせーだとして、この状況をどーにかできるのか? じゃないんだったら、それを考えるのが一番の償いだろーが」

 

 スーパーブライトはこうココマを叱咤した。

 ここで彼らの状況を詳しく見てみよう。暫定ウルサ・ユニットと5名のノリモンは、どこでもないゾーンでのスタァインザラブとの交戦の後、みな失神してしまった。そして現在、彼らはみなやけに静かで暗いこの場所に倒れていたのだ。

 そしたまたひとり、ナリタエアウェイズが目を覚ました。

 

「ここは……」

船橋(ブリッジ)、のようですね」

 

 ココマは目を光らせて辺りを見回しながらそう言った。だがしかし、そこの照明は落とされ、窓の外にも広がっているのは闇ばかり。そこから外を見ても、あるはずの水平線も見えやしなかった。

 

「なぜ俺たちはこんなところに?」

「知らねーよ、わかったら苦労しねーが」

 

 せめて照明でもつかねーのか。そう言いながら、倒れている者たちを踏まないように船橋の中を探索するブライト。だが、そこに目当てのものはなく。

 そんなブライトの視界の隅に、じいっと窓からオモテを見つめるココマがうつった。

 

「なんかあるのか?」

「いえ、ただ……。ものすごく懐かしいような気がするんです」

「それはあんたが船のノリモンだからじゃねーのか? ……まぁ、その感覚も手がかりになるかもしれないが」

 

 そして3名が引き続き手がかりを探していると、ブライトがアルファベットの文字列を発見した。

 

「何だ、これ。アルファベット4文字……?」

「……っ! 船名符号! 無線で船を識別するためのもの」

「あぁ、コールサインか。その符号は?」

「J、Y……」

「Y? ヤンキーのY?」

「……? そうだが」

 

 読み上げるブライトをN.A.W.はそう遮った。するとN.A.W.はこう答えた。

 

「……日本の船じゃない」

「わかるのか?」

「あぁ。コールサインは最初の2文字でどこの国のものか予め割り振られている。日本に割り振られているのはJA(ジュリエットアルファ)からJS(ジュリエットシエラ)、7Jから7N(ノヴェンバー)、そして8Jから8Nだ。JYはない」

 

 N.A.W.を含めたナリタを冠するきょうだいは、車だった頃から国際的な視野を広く持つ必要があった。航空分野においても相応の知識があり、そしてそれ故に無線のプレフィックスについても――少なくとも日本ではないことが判別できる程度には――有していたのだった。

 

「では、JYはどこの国だ?」

「どこだったかな。確か……」

「JYは、ヨルダン。ヨルダン・ハシミテ王国」

 

 そう答えたのは、いつの間にか目を覚ましていた佐倉空だった。

 

「佐倉トレイナーか。早速で悪いが、eチッキで本部に報告を」

「内容は?」

「10名全員五体満足、外傷出血なし。ヨルダン船籍の船の船橋とみられる謎の空間にいる、と。こんなところだろーか?」

 

 ブライトからの指示を受け、佐倉はeチッキ端末の操作をはじめた。端末のバックライトが、暗い船橋の中にぼうっと浮き上がった。

 その裏では、気になったことがあったのだろう。N.A.W.がブライトの方へと近寄り、そこに貼ってあるコールサインを確認する。

 

「たしかにJYだ。だが……おかしくないか?」

「何がだ?」

「ヨルダンって、中東の国だぞ? なんで日本にいるんだ?」

 

 N.A.W.の意見はもっともである。これがパナマやリベリアならば説明はつくが、ヨルダンはそれらの国のような措置をとっているわけではないのだ。

 

「じゃーこのコールサイン、『JYHR』は何なんだ? 偽物か?」

「……っ! 待って!」

 

 ここで何かを言いたげにしていたココマが初めて、会話に割り込んだ。

 

「どーしたココマ号」

「この船は、日本の船よ」

「でもJYだぞ」

「昔は、Jから始まる符号をぜんぶ日本が使えてたことがあった。その頃の船よ」

 

 3対の光る目が一斉にココマを向く。

 

「心当たりが、あるんだな?」

「えぇ。だってJYHRは私の妹の船名符、号……?」

 

 すると突然、ココマは頭を抱えて苦しみだした。佐倉はすぐさまeチッキへの入力を中断して駆け寄って、その身体を支える。

 

「どうしたの」

「知らない……知ってる? どうして? 違う、私は……違わない?」

 

 ココマは、いまそのコールサインをきっかけにココマとしての記憶を思い出したのだ。それが今の素体に由来する別の記憶を持つココマからすれば、大きなストレスとなっているのであった。

 

「落ち着いて、ココマ号」

「私は……だれ? 何者?」

「わかった、一旦この話はおしまい。みんなも、いいね?」

「そーだね、落ち着いてからにしよーか」

「そうだな、本部からの返信と、みんなが目覚めるのを待とう」

 

 そして佐倉はeチッキへの入力を再開した。謎のコールサイン『JYHR』、そしてそれにココマが心当たりを持っていそうなことを含めて。

 そしてその文面をブライトとN.A.W.も確認した後、佐倉はそれを送信したのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。