佐倉空が送信したメッセージに取り急ぎではなく正式に返信が戻ってきた頃には、ノゾミタキオンとメカマムサシコヤマもまた目を覚ましていた。
「それで、本部は何と?」
「まずは全員無事なことへの安堵。それと、どうもこの船、本部は心当たりがあるみたい。ただ……」
「ただ?」
言いよどむ佐倉に、ナリタエアウェイズがその先の言葉を迫った。
「その船、今は海底にいるって」
その言葉に、返す言葉を発せられる者はひとりもいなかった。そしてしばらくしてから、「やっぱり……」と小声でココマが呟いただけだった。
「おい待てよココマとやら。やっぱりってどういうことだ?」
だがタキオンはその言葉を聞き逃さない。そう尋ねると、しまったとでも言いたげな顔をした後にココマは口を開いた。
「聞き覚えがあったような気がしたんです。で、海底だって聞いた話で確信しました。この船は――」
――昭和18年に日本海に沈んだ私の妹です、と。
だがしかし。その言葉に反して今彼女らのいる船橋の外には空気が確かに存在しているように見えた。
「……どういうことだ?」
「どこか別の次元か、あるいは誰かの
佐倉はそう結論づけた。恐らくは後者であろうという見解を添えて。
「どうしてそう思った?」
「通信時間が短い。中泉さんのとこには30秒近くかかってた。それがここからだとたった数秒。ほとんどラチ内と変わらない」
コンコンとeチッキを人差し指で叩いて答える佐倉。最新の研究では、通信時間からそのeチッキの場所とJRNのある次元との距離に極めて高い相関があることがわかっている。佐倉はそれを根拠に、この場所がもとの次元に付随する領域の1つであると結論づけたのだ。
だとすれば、この自元領域は誰のものなのか? それは皆が考えることだった。それにいち早く検討をつけたのはノリモンの発生の研究をしているムサコだ。この場所は、恐らく船名符号JYHRその船がノリモンとなった姿の自元領域である、と。
「しかしそれはありえないとされる」
「どうして?」
「はじまりのクィムガンが発生したのは昭和26年。その船の沈没より8年も後の話し!」
事実ムサコの言うことは正しい。ノリモンのはじまりはそのルースの落し子の発生である昭和26年の秋である、というのが発生の分野での常識であり定説となっているのだ。神たる五元神を除いて。
「じゃあ何なんだよ、この場所は?」
「それは……わからないとされた」
頭を抱え、ムサコはそう返した。とたんにずっこける何名か。あれだけ自信満々に言っておいてそれを自ら否定した挙げ句にわからないとすれば、そうなるのも仕方がないだろう。
そんな中で、N.A.W.はただひとり思考を重ねている。
「1ついいか? 前々から気になっていたことがあるんだが」
「何?」
「くだらないことを聞くかもしれんが……はじまりのクィムガンより前に、本当にノリモンはいなかったのか?」
N.A.W.の言いたいことはこうだ。その船はノリモンに成っていると。それは発生の分野に明るくないからこそ、その前提を疑って出た疑問だった。
「……要調査とされている」
「ならばその可能性が」
「しかし過去に何度もその証言はあるとして、弊の知る限りでは信頼できるものは1つもなし……」
強いて言えば五元神がそうだと言われているが、それは規格外の話である。その旨を伝えると、ムサコはまた黙り込んだ。
「どうした?」
「あるかもしれない。いずれにせよ当該ノリモンとは要接触とされるが。……恐らく向こうでも似たような議論がなされているものと思われる」
いずれにせよ、JRNへ戻らなければ……。ムサコはそう言ってから、突然顔をしかめた。
「何故……何故?」
「何があった?」
「いや……。弊はこんなのは知らないとされる。なのになぜ、
その言葉の後、一斉に聞いていた5名もまた青ざめてお互いの顔を見た。
「なぁ……」
「お前もか」
「どうして?」
そう、みな気づかぬうちにこの領域から抜け出してJRNへと帰る術を覚えていたのだった。
それはとても恐ろしい事だった。確かにここに来る前はそんなものは知らなかった。それどころか、行方不明者の救出に必要不可欠であるため喉から手が出るほど欲していた力であった。それが何故か今、自分たちの手の中にあるのだ。
「……どうする?」
「誰かまず1名JRNに戻って、それから考えたほうがいいんじゃないか?」
「N.A.W.に同じ。誰が行く?」
コロン。スーパーブライトの袖から、サイコロが落ちた。決め方は決まった。
そして、それが振られた結果。
「3、だな」
その目に割り振られたタキオンが先に戻ることになった。そして次の瞬間、彼女はこの領域から消えたのだった。
★
「ここが、特異点なんだね?」
スタァインザラブが尋ねると、ライスシャワァは静かに頷いた。
「いまここに、新しい門を開こう。……リング」
「Affirm」
そしてエンゲヰジリングが、都立武蔵国分寺公園から特殊な輸送方法で運んできたそれを、そこにかざした。
すると、カチリ。虚空のはずなのに、どこか収まりの良い感覚がして、リングは手を離した。それは、そこに在るのが当たり前だと言わんばかりに宙に浮いている。
「今こそ門を開くときだよ。どうやらかれらも目覚めたみたいだしね」
そう言って、かわりにスタァがそれにてをかざした。
「さぁ、はじめよう」