「行くぞ、《アルクトゥルス》!」
『おぉっとここでシエロエステヤード選手の大技が炸裂したぁーっ!』
雄牛型の衝撃波が、飛び上がった対戦相手に直撃して弾き飛ばす。そしてそのまま彼は規定エリアから逸脱し、僕の勝利が決まった。
『勝者、シエロエステヤード! 1回戦に続く鮮やかな勝利でした!』
観客がわぁっと歓声を立てるのが聞こえる。いったいどうしてひとが戦っているのを見て楽しいんだとも思うけれど、この人の入りようからするにこの次元では本当にメジャーな楽しみなのだろう。
僕はその歓声の中心で、立会人に会釈してからフィールドを後にした。
控室に戻ると、真っ先にトウマさんが出迎えてくれた。彼女も僕の直前の試合に出場して勝利し、次の戦いにコマを進めていた。
「すごいじゃんシエロ! 連戦連勝じゃん」
「トウマさんだって。ほぼ一方的に勝ってるじゃないですか」
トウマさんの《
やっていることはとても単純なのに、それぞれが高度に噛み合っているせいでかえって対処しにくい、それがトウマさんの強い理由だった。
だからこそ、
だからこそ僕は、ここまでのトーナメント2戦でトウマさんの戦法を真似た。そもそも、エリアアウトというルールのあるこの次元の模擬戦では、圧倒的にそっちを狙ったほうが勝ちやすいのだ。それに、
僕の目的は、この競技会を勝ち上がることではなくて、あくまでも帰る手段を見つけることなのだから。
そのために。僕は控室のテレビ画面に映る中継を見て、さらに他の選手の様子を伺う。
機会は多い方がいい。だから、勝ち抜いてこれから戦うであろう人が物理的に大きな力をかけるような人なのか。それを知っておかなきゃならない。
そう熱心に液晶へと目線を注ぐ僕の様子を見て思ったのだろう、トウマさんはふいにこんなことを言い出した。
「シエロも変わったね」
「何が?」
「だってさ、競技会に出るのだってしぶしぶって感じだったじゃん。それなのに今のシエロ、すっごくキラキラしてる!」
……そうだったっけ?
でも、少なくとも今はそうじゃない。だって。
「見つけましたから。競技会に出る意味を」
「そっか」
そう言うと、彼女はくるりと回って僕から少し距離を取って、何やらボソボソと呟いている。その表情は、こちらからうかがうことはできなかった。
「トウマさん?」
不審がって声をかけると、トウマさんの体はびくりと一度だけ動揺した。そして少しだけ間をおいてから、急にまたくるりと向きをかえて、大きな声で僕に呼びかけた。
「シエロ。もしぶつかったら、正々堂々とやろうね」
「もちろん。今度こそ、負けるつもりはない」
お互いに、強く頷いた。彼女の大声控室の他の生徒たちからは、ヒューヒューとヤジが飛んでくる。
それに耐えられなかったのだろうか、トウマさんは急に顔を赤らめると、すこしあたふたとしながら走って控室を去っていった。
「……トウマちゃんって、あんな表情できるんだ」
少ししてから、1人の生徒がそう呟いた。
「そんなに珍しいんですか」
「知らないの? あの子、入ったときからずーっと暗いまんまで。去年の競技会で結果を残して生徒会に入ってからは会長さんのおかげでだいぶ柔らかくなったけど、あんな顔は今日初めて見たな」
「そうだったんですか。年末に転入したばかりで……」
前にも会長さんから聞いていたけれど、どうやら昨年度のトウマさんは本当に孤立していたらしい。それで去年の夏頃からようやく変わり始めたのだけれど、その頃には有力な結果もあって学園内ではみんな彼女の評判や人となりを知ってしまっていたし、さらにある意味ではその実力から高嶺の花といった感じにもなってしまっていた。それがゆえ、ピュアに接することができなくなってしまっていて、そしてそんな様子で接してくる他の生徒にはトウマさんの方も少しだけ距離をおいてしまっていたのだという。
「……ごめんね、知らせちゃって。もしかしたら知らないままのほうが良かったかも」
その子はそう謝ってきた。
なるほど、だからこそ会長さんやミノル先生は何も知らないで接し始めることができていた僕に。でも。
「そんなことはないですよ。後から昔の話を聞いたところで、僕の知っているトウマさんは今のトウマさんですから」
「そっか。優しいんだね、シエロエステヤードさんは」
「まぁ、学園に来て初めての友達ですからね。それに……」
優しいとか、優しくないとかじゃない。
そもそも不安定な子の助けになるのは、その……その?
あれ?
「わ、急に頭を抱えてどうしたんですか?」
「いや、大丈夫です。さっきの試合の疲れが出てしまっただけですから」
そうだ。
「……とにかく、トウマさんの過去がどうであれ、力になれるときは力になりますよ、それが友達ですから」
そう答えると、その子の表情は解れて安堵の色を浮かべた。
それから少しの間その子と話を交わしてから、僕は寮の自室に戻ったのだった。