戦いの約束が果たされるのは、案外早かった。
本戦2回戦が終わり、週明けには3回戦のカードの抽選があった。そこで、僕とトウマさんは早速にももう相見えることになったのだ。
開始位置に立つ白黒の少女を正面から見据える。
トウマ。昨年度ベスト4。ウェポンは1対の錨と巻き上げて長さを調節しうる錨鎖。
今まで何度もお互いの調整と言って模擬戦闘に付き合い、そして付き合わさせてもらった相手だ。お互いある程度の手の内は知っているし、知られている。
だからこそ、双方とも今までの戦法は通用しないだろうし、させるつもりもまたない。
だからこそ。僕達は、まだ見せていない手の内を使うか、あるいは……
相手を痺れさせる《
正直な話、このルールでの経験、そしてそれを前提とした戦闘センスから何までこっちが劣っているというのは最初からわかりきっている。でも負けるつもりは無い。決して。
「シエロ。負けないからね」
「こっちこそ」
もっとも、僕の最大の目的は勝つことじゃない。だからこそこの戦いを楽しんで、真正面からぶつかり合わなきゃいけないんだ。
『はじめ』
「《ハイブリッド・アクセラレーション》!」
立会人の声が聞こえるのとほぼ同時に、僕は勢いよく飛び出した。
トウマさんの時間稼ぎは《目鉢炎壁》で行うことはわかりきっている。だから、それが展開される前に先制攻撃で片付けてしまえばいい。
そんな甘い考えは、トウマさんの錨鎖により受け止められる。
「そうは、させないよ。《
「さすがだね、でも! 《ポロペ》……いや、《ファマルフト》」
逆転機を扱って、トウマさんの攻撃の範囲外に出ながら次のスキルを発動する。水が回転する錨を受け止めて勢いを失わせ、そして飛沫が飛んだ。
固体に固体をぶつけるよりは、流体で受け止めたほうが確実に勢いを殺すことができる。変形や流れを生み出すのにだってエネルギーを使うし、生み出される複雑な流れはエネルギーを吸収するから。
そして、この液体を挟むと言うのは、おそらくトウマさんの他のスキルに対しても有効に機能するはずだ。電撃だってすぐ下の地面に接地して届かないし、炎だって消してしまうのだから。
だけど。
こう安直に考えた時の僕は、スキルありきで考えていて頭からすっかりと抜け落ちてしまっていた。トウマさんの持つウェポンが
「このくらいな、ら……! 《テカケウマツマヌオールマシ2》!」
それほど多くもない水。複雑な流れの水。だけどトウマさんはその上に乗っかってはしってくる。
そうだった。錨は、もともと船の道具。つまりトウマさんは!
「
「当たりだよ!」
「だったら、《クンネナイ》っ!」
襲いかかるトウマさんを跳び超えて、上からの攻撃を試みる。今ならば《鬢長雷撃》の準備はされていないから、撃ち墜とされることもない。
――だから。
「――上から《アルクトゥルス》!」
雄牛型の衝撃波をトウマさんの方へと飛ばす。それと同時に《ファマルフト》で出した水を消して、トウマさんを座礁させて動きを一時的に止める。
体勢を崩しながらも下の地面に着地するトウマさん。もう回避行動を取ることはできやしないだろう。
こうなれば、彼女のできることはおそらく、1つ。
「水がっ! じゃあここで、《
……そう、迎撃だ。《黒衝撃》と《アルクトゥルス》がぶつかって、まるでこの競技場が壊れてしまうかのようなほど大きな音が競技場に響いた。
この時を、待っていたんだ。大きな力、それもスキルとスキルの正面衝突。そこにスキル特有の超次元からの力が加わって、空間に歪みが発生するのか、それともしないのか。
僕は翻りながら着地し、その衝突地点を見つめた。すでに三次元的には力が散逸し始め、その下の地面からは砂煙が舞い上がっている。それに阻まれて、その向こうのトウマさんの様子は見えなかった。
バリバリという轟音は10秒強ほど響き続け、光を伴わない技同士の衝突の筈なのに、砂煙の向こうから光を感じる。そしてその後――
――急に、競技場は静かになった。
砂煙が晴れる。その時。
「今だっ! 《鬢長雷撃》」
雷が、僕を襲った。シールドをあっという間に削り、トレイニングが解ける。
気がついたときにはもう遅かった。続くトウマさんの攻撃によって、僕はエリア外へと弾き飛ばされていた。
『決まったぁ! そこまで、短くて長い激闘を制したのはトウマ選手だ!』
試合中は気を散らさないようにエリア内へは控えられていた立会人のアナウンスが、僕の耳にも響いた。
★
シャドウイメージは、その様子を中継映像で見ていた。だがしかし。
「うーん、流石にこうも周りを巻き込んでいると何が発生しているかはわからないねぇ」
スピーカーからの音は割れ、中継側の判断で一旦ミュートとなる。その半ば放送事故のような状態が少しだけ続いて、そして砂煙が晴れたとき。
シャイは発見した。おそらく衝突地点であったところに浮かぶ
それは数秒もしないうちにおさまり、その向こうは今やまっすぐと地面を映している。だが、巻き戻してコマ送りをすれば、その異常が発生していたことは明らかであるように彼女には見えた。
「……あの先に、シエロ君のいた場所が、超次元の高度な知識が。もうすぐだ、もうすぐそこに手が届きそうだよ。あーっはっはっはっは」
シャイは一人っきりの自らのゼミ室でそう高笑いをした。